三百二十二話:開始だ!
凛とした声が直接聞こえてくる。
『アンデット軍勢の敵影無し。オーク軍勢交戦中。他イレギュラーの存在は確認できません』
ここにはいない栞が戦場の状況を教えてくれる。
ゴーレム砦の高台から『獄炎のケルベロス支配地域』全体を俯瞰し、アンデットとオークの出方を見張っている。
「ベルゼ君! ワクワクしてきたよーー!!」
テンションの高いツインテが犬のように駆けまわっている。
「犬か? アイツ」
「アマネちゃんも犬系だよ」
「……え?」
肩に白鳩を乗せ日傘をさした深窓の令嬢のような女性のツッコミに、小柄な体に不釣り合いな巨乳、違った、黄金のハンマーを持つ女性は野犬のようにキャンキャン騒ぐアマネさん。
ハクアさんのツッコミにきょとんとしていた。
「ふふ、なかなか濃いメンツね」
エメラルド色のドレスに身を包むエルフの女王様が何か言っている。
たしかに濃いメンツだが、どう見ても玉木さんが一番目立ってますよ、オーラ的に。
「うむ」
魔王攻略に向けて集結した援軍。
『神鳴館女学院付属高校』と『天海防衛ライン』から結構な人数が来てくれている。
どちらもゴブリンとアンデットの防衛で忙しかったのに、ここ最近は襲撃がほとんどないとのこと。
アンデットはこちらに戦力を向けているからだろうけど、ゴブリンはなんでかね?
位置的に北にでも侵攻しているのか?
「『聖女の祝福』、【水の理】、神聖魔法……『蒼天の慈雨』」
天使から祝福の光がパーティメンバーに降り注ぐ。
「……綺麗」
星型のロッドを持つ木実ちゃんを中心に、青い光の雨が降り注ぎ皆へバフを与えた。
まるで天使のような木実ちゃん。
いや、木実ちゃんは元から天使なのだが、新装備が天使っぽいのだ。
青と白を基調としたミニスカワンピースドレス。
彼女の豊満な胸に合わせたように谷間はハート形に、そして背中には小さな白い翼がある。
透き通るような青銀の髪が銀糸のように煌めいている。
SSR【セラフィムプリエール】。
「シンク君、準備オッケーだよ!」
その能力は、彼女の為に存在するような装備であった。
彼女を取り囲むように聖銀の光を放つ騎士たちが無数に立っている。
どこかで見たような、子供からお年寄りまで多種多様な聖銀の騎士たち。
彼女を信仰する人たちの現身である。
その強さは元の人に依存せず、彼女の集める信仰心に比例する。
(天使というより、まるで女神だ)
木実ちゃんは女神、異論は認めない。
「出る」
準備万端。
炎のゴーレム攻略戦、開始だ。
――――ボオオオオオオオオオオオオ!
集団から駆けだす俺に向けて炎の壁が迫る。
炎のゴーレムの腕を振る動作に合わせて火炎放射が放たれた。
まるで鞭のように迫る炎の壁に、俺は臆することなく突っ込む。
手には『ヴォルフライザー』を装備している。
「シンクくん!」
赤く染まった視界。
しかしそれは一瞬で、青銀の輝きが打ち払う。
(熱くない!)
木実ちゃんバフによって火炎のダメ―ジを大幅に軽減している。
実は火炎対策をしている時に一つ問題があったのだが、これなら問題なくいけそうだ。
「おらぁッ!!」
5メートルの巨漢。
高さ以上にその厚みが凄いゴーレムに斬りかかる。
硬い。
ヴォルフライザーの回転する刃と炎のゴーレムの硬質な岩石がぶつかり合い、甲高い音を響かせる。
「ふっ!」
横なぎに払うように振るわれた腕を、『ブラックホーンリア』の立体機動で空中に回避しつつ、無防備な胸元の紅蓮石を狙う。
「ちっ」
残った腕で防がれる。
思ったより機敏な動きを見せる炎のゴーレム。
振り下ろされる炎の拳。
地面に着弾するや赤く発光していた拳は爆発しクレーターを作る。
岩場のゴツゴツした地面が弾け飛び、まるでショットガンのように飛んでくる。
「『デックブルワーク』」
詠唱と共に装備する漆黒の騎士鎧『ブラックホーンナイト』は漆黒のオーラに包まれる。 対打撃耐性と衝撃反射の効果を持つスキルだ。
礫の嵐にもノックバックすることなく、俺は炎のゴーレムの周囲を飛び回り連撃を浴びせ続ける。
周囲の景色がおかしい。
恐らくだが炎のゴーレムの高温で陽炎ができている。
木実ちゃんのバフがなければ息をすることさえ困難だったかも。
今はフルフェイスマスクだから平気なのだが、俺のガチャ装備にも弱点は存在した。
「【
『ヴォルフライザー』と『ヴォルフガング』のチャージがマックスに達し、迸る漆黒のオーラが大剣を包み込む。
【
本来は全体重を掛け回転させた鋭利な物で相手の兜を貫き殺す忍びの技だが、なかなかド派手な技になってしまった。
まったく忍ばない必殺技が炎のゴーレムの頭部を粉砕する。
まるでドリルで削られたように螺旋状の痕を残して半分以上が吹き飛ぶ。
「っ!?」
だが、頭部を失っても構わずに炎のゴーレムは拳を振り上げ降ろし、その太い足で踏みつけて反撃してくる。
失った頭部もオレンジ色の炎が燃え盛り、しばらく経てば何事もなかったように岩石の頭が復活している。
なかなかの自己再生能力だ。
やはり核であろう胸の紅蓮石を破壊する必要がありそうだ。
「シンク君。私たちも参戦するわ」
そう言って玉木さんから歌のような詠唱が続き。
「『精霊よ、女王の命に従い集え。 一陣の風。 束ね、束ね、束ね。 幾重に舞い巌を砕け――
妖精の女王様から特大の魔法は放たれた。
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