三百二十話:プロジェクトT

 

 バイトリーダー『田中 誠』、いや『クラフトワークス』の代表は悩んでいた。


「増えたなぁ」


 最初はバイトをしていたホームセンターのメンバー数名だけだった集まりは、今や3000人近い巨大組織となり、ただのバイトリーダーだった彼には荷が重い状況となっている。


「困ったな」


 他に適任の者はいる、と彼は常々思っているが誰も理解してくれない。

 一番の候補者である鹿野警部補は、なんだか子連れの親子と仲良さそうにしているので無理矢理に押し付けるのは気が引けてしまったのだ。

 幸いなことに、鹿野警部補の義理の息子である神駆の助力で拠点の整備は進んでいた。


「社長。 どうしたんです?」


「社長はやめてくれよ」


「いいじゃないですか」


 クラフトワークスの拠点は元々は工場地帯だった。

 複数の企業の大きな工場がいくつもあり、その間には川と田んぼが広がる平地。

 民家が少ないので対ゴブリンの防衛拠点としては作りやすい。

 東雲東高校からの依頼で街道整備を行い、その間に集めた資材は倉庫に保管していたのだが、結構な量となっている。


「やはりね、電気が使えないのはネックだよ」

 

 様々な技能を持つものがいたが、その根底には現代的な道具は必須だった。

 

「魔石は使えませんか?」


「ロマンだねぇ~」


 魔石からエネルギーを生み出す。

 服部領主の話しを聞く限り、領地では魔石をエネルギーとして様々な恩恵を得られるらしい。

 ならば魔石自体になんらかのエネルギーが存在するはず。 それを自在に扱えるようになれば、新たなエネルギー源として用いれないかという実験を行っていた。

 しかし彼らの実験は上手くいっていない。

 

「田中社長。 シンク君から色々預かったぞ」


「鹿野さん」


 この間、ネペンデス君式トイレを作ってもらったばかりなのに、また支援物資を貰ったことに、田中は申し訳ない気持ちでいっぱいであった。

 街道整備や巡回などは行っているが、貰っている物のほうが多すぎると。


「魔道具ですか?」


「ああ、炎の魔道具らしい」


 野菜や武具など色々な物があったが、田中が一番気になったのは【猫の手】新作アイテムである炎の魔道具だった。


「汎用型の構造さえ解れば……」


 汎用型の魔道具は核に魔石を吸収させる必要がある。

 つまり魔石を燃料として使っているということ。



 『田中 誠』の長い挑戦の始まりだった。




◇◆◇




 九条先輩の様子が戻った。


「シッ!」


 ゴーレム砦の訓練場で一人特訓をしている。

 ゴーレム兵をボコるでなく素振りに没頭しているようだ。

 ピリピリとしていた雰囲気がなくなっているので良かった。

 再戦だとか、ツインテのようにしつこく言われても厄介なので本当に良かった。


 そもそも九条先輩と俺では戦い方が根本的にことなるので、彼女の成長の糧にはならない気がする。

 

「九条先輩っ、手合わせお願いします!」


「若槻。 いいよ」


 おやおや?


 ラッキーボーイ君と随分と仲が良さそうである。

 まぁ同じパーティだから普通か。

 苦楽を共にすれば不思議ではない。



「ワイルド定食が最高ね」


「野菜定食も良いですよ~」


 俺的には魚定食が最高ですよ。


 大繁盛の食堂でみんなとお食事中だ。

 木実ちゃん、ミサ、葵といつもの遠征メンバー。

 なんだか玉木さんは忙しいらしいので欠席。

 栞も領主の仕事で忙しいので基本こちらから会いに行っている。


「デザート……ない」


 うむ。

 まだがっつり定食メニューしかないからね。

 従業員も少ないし、手間のかかるメニューは出せないのだ。

 そもそも冷蔵庫がないからデザート系は厳しいか?

 まぁネペンデス君の実くらいないらいけるけど。

 木実ちゃんの魔法で氷を出してもらって氷室を作ってもいいね。

 蒸し暑いしシャリシャリのかき氷が食べたい。


「蝙蝠ですか、飛んでる敵は嫌ですね……」


「ヴァンパイアとか出てきそうじゃない?」


「出そう」


 昨夜の襲撃時、皆は洋館の方に戻っていたので蝙蝠型モンスターの群れをみていない。

 そしてフードの敵の姿も。

 ヴァンパイアか。

 たしかありえなくもない風貌だったな。

 

「……」


 空を飛んでいる上に、魔法まで使ってきそうな感じだった。

 デックイグニスを防いだ謎の球体が気になる。

 闇魔法てきな何かだろうか?



「なんだか、面白いわね」


 新型ゴーレムを見てミサが茶化すように言ってくる。

 対空設備を考えたが難しかったのでゴーレム魔法でどうにかできないか考えたのだ。 


「変形ロボみたいです」


 連結型変形ロボです。


 そもそも砦の上部ががら空きすぎて話しにならない。

 ならば壁もしくは足場を造れば良いという発想に至る。

 

「可愛い……」


 四角ブロック状のゴーレムは連結する。

 一応小さい手足があって移動もできるが、連結することで高速移動を可能としている。

 時に柱上の足場となり、時には橋のように足場を組むのだ。

 もっと数を増やして屋根にも変形できるようにしようか。


 あとは万一の時の為の地下坑道を作って脱出できるようにしておかないとな。


 とはいえ根本的な対空対策ではないので、何か良い案を考えないといけない。

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