三百十八話:偵察
燃え盛るような炎の岩。
無数のそれが重なって人の形を模している。
「ふむ」
炎のゴーレム。
異変の調査に『獄炎のケルベロス支配地域』を探索していると、5メートルほどのソイツを発見した。
一目でわかるヤバさ。
中央の核のような紅蓮石が脈打っていて不気味だ。
しかしミサの言っていたゲロ腕の魔物の姿は見えないな。
「守護者か?」
岩肌の多い地形になっており、雰囲気も変わってきている。
本拠地を守る番人、守護者のような魔物だろうか?
多くの野犬の魔物を従えているようで厄介だ。
炎の魔人が侵攻部隊の隊長なら、あの炎のゴーレムは防衛部隊の隊長って感じかな。
そうなると炎の魔人クラスだと考えたほうが良いのだろう。
「撤退」
うん。
一人じゃ危険だね。
奥様達がいても危険だ。
もっともっと戦力が欲しい。
「む」
炎のゴーレムのいるエリアを避けて、『万軍の不死王支配地域』方面にブラックホーンシャドウを走らせる。
するとすぐに黒い靄が見えてきた。
空はどんよりとした紫の雲に覆われ薄暗く、黒い靄の濃さに視界が奪われる。
徘徊する黒いスケルトン。
それに、変異ゾンビか。
『ヴォオゥ』
異形ゾンビの大群。
蝿を操っていたクリーチャーみたいな奴もいる。
ゆっくりゆっくりと、野犬のエリアに侵攻をしているようだ。
知能の低いイメージのあるアンデットなのに、その動きには統率性が見れる。
「『万軍』か……」
これは……もはや軍隊だ。
統率された魔物の大群とか厄介すぎないか?
栞に警戒を促したほうがいいな。
元ダアゴンの支配地域が間にあるからか、アンデットたちはあまり東雲東高校の方には侵攻してこない。
黒い靄の中から何かが飛び出している。
前に見た巨大植物かと思ったが違う。
建造物。
大きな塔のようだ。
「……ふぅ」
嫌な感じがヒシヒシと伝わってくる。
深呼吸して落ち着かせる。
それでも心臓がドクドクと早鐘を打つのを抑えるは難しかった。
「おお?」
大きな塔は見なかったことにして、逆側を偵察する。
するとミニオークたちの軍勢が進行拠点を築いていた。
『獄炎のケルベロス』さん大人気だ。
弱った魔王は他の魔王に狙われるらしい。
いや、そもそもコイツら初期から縄張り争いしてたな。
こうなると『敵の敵は友』作戦で行くべきか?
最後に美味しいとこだけかっさらえば良いよね。
しかしまぁ他の魔物がどうでるかわからんけど。
警戒だけはしておこう。
◇◆◇
「鬼頭、手合わせして」
ゴーレム砦に戻ると、雰囲気の変わった九条先輩に捕まった。
ゴーレム兵だけでは飽き足らず俺までもボコボコにしようというつもりだろうか?
装備が変わっているな。
皆が装備し始めたエリートワイルドドッグシリーズ装備ではなく、黒いスーツみたいな装備だ。
ガチャからでたのかな?
「うむ」
ちょっとその性能が気になったので手合わせをする。
「ありがとう」
相変わらず気迫が凄いな。
ツインテとの試合以来、九条先輩は化けた。
しかも前以上に強さに貪欲になっている気がする。
「九条先輩、頑張ってください!」
九条先輩へのエールが多い。
というより俺への応援がない。
どういうことなんだってばよ。
「いくよ」
橙色のオーラを纏う九条先輩は真剣で向かってくる。
静かに佇むように歩いてくる。
かと思えば間合いに入った瞬間。
『
全ての無駄を削ぎ落した、神速の一撃が飛んでくる。
技のおこりがまったくわからなかった。
一度見ていなかったらやばかったな。
「さすが――――シッッ!」
そして終わらない連撃。
剣速でいえばツインテと同程度だが、九条先輩のほうが見えづらい。
初動を消した動き、それに同じ構えから複数の軌道に変化する多彩さ。
己の動きを熟知しているからこその芸当か。
「っ」
顔面に本気の突きが来たんですが……殺す気ですか?
剣までオーラ纏ってるから普通に危ないから。
スーツ型の装備も動きを阻害する様子は無く、以前よりもその動きはキレを増している。 ロングスカートはスリットが入っているようで、黒タイツがチラ見えするのも高評価だ。 いや、一体何の評価だ?
「んっ!」
彼女の攻撃に合わせて木剣を振るう。
技術では勝つのは難しいがパワーはこちらが圧倒しているのでこの戦法でいいだろう。
初速で負けてもパワーで押し勝。
九条先輩のクールな顔が歪む。
鋭い眼光がこちらを射抜いてくる。
しかし無視して彼女の剣筋をなぞるように、同じ動きを一歩遅れて返す。
「はぁあああああああ!!」
なかなか良い特訓になるな。
俺もその初動消し方を学びたい。
精錬された動きは美しく心を揺さぶってくる。
憧憬にも似た感情を抱きながら剣筋を真似る。
「え?」
まだ追いついてはいないが、スペック差によるチートが彼女の剣速を一気に追い抜く。
「ふむ」
宙を舞う真剣を、九条先輩はただただ見つめていた。
彼女にエールを送っていた者たちも、ただただ見つめていた。
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