三百十七話:目玉

「新しいのっ、来るよ!」


 歩哨を務めるミサの声に、骨剣を持った反町と十字架のような大剣『キュリアスクレイモア』を装備した若槻が警戒する。

 

「な、なんすか!? アレ……」


「……さぁな」


 見えてきたのは異形の怪物。

 

 犬型の魔物が多い『獄炎のケルベロス支配地域』。

 今襲ってきている魔物は犬型ではなく、悪魔かアンデットだろう。

 下半身は無くぶよっと太った上半身は気味の悪いピンクと紫の体色をしており、頭部には毛がなくギョロっとした目玉が飛び出るように生えている。


「気持ち悪いですね……」


「うん……」


 不揃いの歯を剥き出しに腕だけで走って向かって来ていた。


「腕だけなのにっ!?」


 速い。

 分厚く太い腕は地面を掴み、大きなストロークで軽やかに走っている。


「勢いを止めるわ!」


 【裏†兎】《ラバーバニー》状態のミサがランスを構え、神速の速さで接敵する。

 頼もしき前衛の一撃が新手の怪物に突き刺さる。


「っ!?」


 だが、怪物の進撃は止まらない。

 たしかにミサのランスの一撃は突き刺さったが、即座に周りのぶよっとした肉に押し戻された。

 

「それならっ――ラピッドファイア!!」


 爆音と共にガンランスから雷光が発せられる。

 怪物に当たる無数の弾丸は着弾と共に弾ける。

 メドドロンの勢いを殺したノックバックには魔物も足を、いや腕を止めざる負えないようだ。


『グウゥウ、ギェルユゥウウウウ!』


「うわっ!?」


 吐いた。

 怪物は両手を伸ばし宙に口を向けて勢いよく吐く。

 ミサのバックステップの速さが過去一であった。


「なにっ、コイツ!?」


 辺りに臭気がパーティメンバーの元まで届く。


「くさっ!?」


「なにがしてぇんだ!」


 産まれる。

 吐瀉物の中から無数の小さい何かが湧き出てくる。


「……ハエ?」


 最後尾の葵が呟くが、ミサが否定した。


「目玉ぁああああああああああああ!?」


 それは目玉に羽の生えた怪物だった。

 蝿のような羽は気味の悪い音を立てている。

 血走った眼玉の周りはピンクと紫の実に気色の悪い色だ。 毒々しいともいえる。

 唐突なホラーにメンバーたちが後ずさる。


「ちっ! 嫌な予感しかしねぇな!」


 強そうな感じではないが、その見た目の嫌悪感と毒々しい色合い、それに目玉の下部の肉は水分を多く含んでいそうなのも予感を加速させる。


「葵!」


「ん……大地の母よ、我が敵を打ち砕け、ロックバレット!」


 【見習い魔女】である葵の地属性魔法が放たれる。

 無数の岩の弾丸が目玉に向かってまっすぐに飛んでいく。

 ジョブの効果か詠唱も短く、ワンドの補助がより広範囲へと魔法を放つ。


「凄いです!」


「……ムフ」


 フードを深くかぶる見習い魔女が密かにニヤけるが、前衛たちはそれどころではなかった。


「やっぱり!?」


「うわぁあ!?」


 飛び散る目玉。

 弾け飛ぶ毒の渋きポイズンスプラッシュ


『ウ゛ェ゛ェ゛ェェ゛ェ゛ェ』


 今もなお吐き続ける上半身だけの怪物。

 宙に虹でも浮かべさせたいのかと思うほどの勢いで吐き続ける。

 そしてさらに迫る影が見えた。


「撤退! 撤退ぁーーーーいッ!!」


 異常事態に探索者チームは撤退を選択するのであった。




◇◆◇




「なんなのよ、アレー!?」


 予定よりも早く帰ってきた奥様達が荒れている。

 いや荒れているのはミサだけか。


「今までに無いタイプの敵でしたね」


「気持ち悪すぎるわよ!」


 どこか怪我をしていたりといったことはなさそうだが。

 ……なんか臭う。


「?」


 ミサは気づいていなさそうだ。

 木実ちゃんと葵は平気そうなので前衛だけかな?

 どうにも変な敵だったようだし、異変がないかチェックが必要だな。


「裏バニー」


「ひゃ!?」


 露出の多い裏バニーでチェックだ。


「こ、こらっ、シンク」


 両手を上に持って壁に押さえつける。

 上から順にニオイチェックだ。

 いったいどこからこのスメルは発生しているのだ?


「んんっ!?」


 首おっけー、鎖骨おっけー、ワキ……おっけー。


「ばかっ、まだシャワー浴びてないからっ、ん゛っ」


 ウサギさんニップレスに鼻息が掛かると甘い声が聞こえた。

 ほんと裏バニーだと感度が良いよね?

 200%くらい軽くアップしていそうだ。


「こらぁぁ……」


 お腹、おへそと鼻息をかけながらチェックしていくが問題なし。

 黒い宝石のついた前張り。

 ここに鼻息をかけると、うん、すっごい反応だ。

 必死に声を押さえながら頭を掴んでくる。

 立っていられないのか足をガクガクとして小刻みにふるえている。


「ん?」


 臭いにおいが消えた。


 足をぐりぐりしたから?

 靴の裏に何かつけて帰ってきちゃったのだろうか?

 ちょっと怖いので皆の靴の裏をチェックさせる。

 後は砦の入り口から炎獣を走らせて燃やす。


「「「うわぁああああ!?」」」


 念には念をいれておこう。


 しかし今までとは違う敵が出て来たな。

 どちらかといえばアンデットの領域に出てきそうなタイプの敵だ。


「シンク……放置しないで♡」


 おっと、今日はミサの日らしい。

 SPの補充もしないとだから念入りにマッサージしてあげないとな。


 異変の調査は明日やるとしよう。


 


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