三百十三話:普通に?


 『監禁王の洋館』。

 

 神駆のガチャからでた鍵を使うことで行くことのできる異空間。

 使用し始めた当初は洋館と庭にしかでることができなかった。

 しかし今では周囲を囲む湖へと移動ができるように変化していた。


「スワンボートが欲しいわね」


「……普通ので」


 スワンボートは疲れる。

 陸上で鍛えられたミサならば問題ないが、基本運動音痴の葵には厳しい。

 あれは太ももに大ダメージを与える乗り物なのだ。

 操縦席からの景観も良くない。


 余談だが、長野県の諏訪湖では『足こぎスワン世界大会』が開催されており、100mを1分数十秒のタイムで駆け抜ける爽快なレースが行われている。


「釣れるのかしら?」


「……ん~?」


 湖の上には大きな円盤型の乗り物『ウエディングフィールド』が浮かんでいる。

 こちらも神駆のガチャからでたSSRアイテムであり、合同結婚式を行った浮遊船でもあった。 空に浮かぶ見た目はUFOでしかない。


 湖の岸に釣り道具とアウトドアチェアが置かれていた。 よく見ればアウトドア用品もいくつか置かれているようだ。 現代風ではなく古めかしいような、ファンタジー感のあるような、冒険者でも使っていそうな道具類も見えた。

 整地された様子が窺えることから、神駆の秘密基地のようである。


「男はたまに一人になりたがるらしいわ」


「へぇ……」


 仕事と家庭に追われるお父さんは無性に一人になりたくなる時がある。

 まだ15歳の新婚なのに、神駆も一人になりたい時があるのだろうか?


「あ、ご飯できたよー」


 二人が探索を終えて戻ると、甘くて美味しそうな匂いが漂ってきた。

 時刻から考えてお昼である。

 しかしとても甘そうな匂いと木実の明るい声に出迎えられた。


「パンケーキ?」


「美味しそう」


「自信作です」


 女子三人のランチならパンケーキもありだろう。

 玉木は神駆と出かけており、栞は執務で忙しくそれほど監禁王の洋館には来れない。

 全員が揃うのは夜にたまにくらいだ。


 プールサイドのベッド近くにあるテーブルで昼食を取る3人。

 ここは夏本番であっても涼しい風の吹く過ごしやすい場所であった。

 日よけの屋根もあり、キラキラと輝くプールを見ながらのランチは実に優雅である。


「このソースなに? 普通に美味しいわ」


「……美味しい」


 木実の料理は甘すぎるという欠点があるのだが、今日のパンケーキは甘さが丁度いい。


「普通に? そのソースは学校で取れた果物で作った物だよ」


「木実が?」


「いえ? 子供たちが作ってくれたんだよ」

 

 納得と、二人は顔を見合わせた。


「皆にはお返しにクッキーを作りました! 二人も食べる?」


 二人は顔を見合わせ顔を顰めた。


「……食べるわ」


 子供たちに食べさせて大丈夫かチェックしないと。

 木実基準の甘さは危険だ。

 子供の味覚を破壊しかねない。

 R15である。


「SSR出た?」


「……出ない」


「出ませんね~」


 今日の3人は休日と決めており、ランチの後も洋館で過ごしている。

 水着に着替えた三人はプールに入って遊び、疲れたらベッドで寝転びまったりと過ごした。

 そして話題は監禁王の洋館に設置されているガチャの話。

 神駆によって最大限の激甘設定になっているが、それでもSSRはなかなか引けない。

 ガチャには素晴らしいアイテムが入っている。

 しかしガチャの欠点として当たりは引かなければいけないのだ。

 それはガチャマスターである神駆にも覆せない絶対の法則。

 

「あ、このニオイいいですね」


「……交換する?」


「お願いしてもいいですか?」


 魂魄に紐付けされないアイテムであればトレードをできる。

 女性陣に人気の石鹸も様々なフレーバーがあり、女性陣は好みの匂いで交換し合っていた。



「あれ、こっちにも道があるわね」


 わいわいとお喋りをして過ごし良い時間になった。

 木実はお菓子を配りに戻り、ミサと葵は自室に戻る。

 その途中でミサが閉ざされた道に気づく。


「わっ、葵っ?」


 ふらっと近づこうとするミサの腕を掴んで葵が連れ戻す。


「……危険、ダメ」


 いつになく真剣な表情の葵が片方の手でお尻を抑えながらミサを引っ張って行く。

 それでも気になるのかミサはじっと奥の方を見ている。

 そんな彼女の引き締まったお尻に『にゅっと』メタルマジックハンドが這う。

 葵の仕業である。


「きゃっ!? わ、わかったから……!」


「……危険が危ない」


 葵の気迫にミサは頷くしかない。

 

 一体あの奥には何があるのだろうか?


 ミサはお尻を押さえながら足早に去る友人を見ながら思うのであった。



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