三百十一話:御託はいいから早く食べなさい
その日、女神様は突然に現れた。
美しい、あまりにも美しいその姿に見惚れずにはいられなかった。
煌めく翼は陽の光を浴びて輝くが、女神様の美しさにはかなわない。
背丈に似合わない自己主張する双丘。
美しいながらに愛らしさのあるお顔と体形は、可愛らしいお召し物もよく似合っている。
我ら下民を見下ろすかの如し眼光は、幼い見た目からは想像できないほどに怜悧で妖艶であった。
「ロリ神様が店をだすらしいぞ」
俺は秘密の会合が行われた時、護衛として働いていたのだが、相手の数の多さにどうすることもできなかった。
首都大阪の雰囲気は良くない。
派閥争いなどしている状況ではないのに、時間が経つごとに諍いは多くなっていく。 そんな状況をどうにかしようと、ミナミの主要メンバーたちでの秘密の会合であったのだが、どうやらその情報は敵に筒抜けであったらしい。
追い詰められて大ピンチであった俺たちの前に、女神様はご降臨なされるやいなや、その圧倒的な力で我らを救ってくださった。
振るわれる武器に合わせ揺れるパンダのリボンと豊満な双丘。
ひらめくスカートからチラリと見えた紐パンツにも、女神様のシンボルであろうパンダの意匠がこらされていた。
崩れ落ちる敵と共に前かがみになったのは内緒だ。
「なんだと……!? ――どんな店だ、教えろ、早く」
「近い、近い!」
女神様のお店。
可愛らしいメイドのようなお洋服を着ておられたし、ひょっとしてメイド喫茶?
やばい、興奮してきた。
スタンプカードを集めるしかない。
「鉄板焼きとガチャガチャらしいぞ」
「ほう?」
鉄板焼きのメイド喫茶とは珍しい。
ガチャガチャはコンプするしかあるまい。
たとえ全財産をつぎ込もうとも。
しかしあれか、有志を募り、トレード体制を構築すべきだな。
「聞いたか? 同士よ」
「ああ、たった今な」
俺が色々と考えを巡らせ金策について考えていると、同好の士が現れた。
以前からの知り合いでかなりの剛の者である。ふたつの意味で。
少々でっぷりとしているが、その見た目からは想像できないほどに機敏な動きをする。
俺は彼を誘い、魔物を狩る作戦を考える。
やり手だらけのこの場所で商売でもうけることは難しい。 俺たちは悲しき肉体労働者なのだ。 己の命をベッドに
「それにしても本当なのか? レディア様が顕現されたようだったと聞いたが……」
「まさに」
「まじか」
レディア様は同士の最推しである。
もちろん我の最推しでもある。
ネット関係が全滅してしまい、写真に祈りを捧げるしかなかったが、まさかご降臨されるとはな。
「女神は我らを見捨てなかった」
「しかり」
魔物を狩るには二人では厳しい。
同好の士を集め徒党を組む。
ついでに女神様の活動をサポートする組織としても運営するべきか。
「ふ、久々に忙しくなりそうだ」
仕事の合間に推し事をする生活が懐かしく思えるほど、我は飢えていた。
「だな」
体の震えを抑えながら、二人は突き進む。
◇◆◇
凄い人だかりだ。
「活気があるわね~……」
さすがの玉木さんも若干引き気味である。
「わはは! 新店舗のオープンやからな! みんな興味あるんやろ」
動物園のパンダになった気分、というか客側に怪しげなパンダ集団がいるのはなんだ?
白黒の衣装に目元を隠すパンダマスク、明らかにパンダを意識した格好だ。
両手に笹をもって奇妙な動きをしている。 それでいてキレがあるので不気味だ。
……すでに玉木さんファンがあんなに!?
「ママノエの鉄板焼きとネペンデススムージー? 甘くて美味しそうな香りやね。 しかし……たこ焼きか? ちょっと、それは無謀なんちゃうか?」
「ふふふ、御託は食べてからにしてもらいたいわ」
大阪人にたこ焼きを売る。
そのプレッシャーたるや半端ない。
しかし玉木さんは自信があるようだ。
アキコさんと玉木さんの間に火花が散っているのが見える。
「上等や! ワイが味見したるわ!!」
おおお!と周囲から歓声が上がる。
なんだこの盛り上がり。
「……ふむ、油多めのカリッと系か」
たこ焼きは外を油でカリッとさせるタイプと柔らかいタイプがある。
俺の好みはカリッとである。
アキコさんは食べる前に皿を持ち上げて観察している。
「この香りは……わさびやな」
「っ」
食べる前に隠し味のワサビを言い当てられ、玉木さんに動揺が走る。
「貴重な野菜とマヨネーズをふんだんにつかっちょる。 ちゃんと利益は考えんといかんで? まったくこれだから素人は」
「御託はいいから早く食べなさい」
冷めるでしょ、とぴしゃり。
「……ほな、いくで!」
深皿にカリッと揚げたたこ焼きが6個。
その上には東雲東高校で取れた野菜がふんだんに乗せられて、たっぷりのマヨネーズがかけられている。
マヨネーズを作った卵はキャメドーの卵である。
濃厚な卵で作ったマヨネーズは絶品の一言。
「ぷぁ!?」
豪快に一口で野菜ごといったアキコさん。
その瞬間、驚きに目を大きく見開いた。
「くぁっ、んぅ、ふあっああんっ」
体を悶えさせながらくねくねと体を動かす。
必死に耐えるようにする姿がエロスを感じさせる。
「はぁっ、はぁ、……こりゃ、とんでもないで!」
「お味は?」
「そんなもん、最高に決まっとるやろ! カリッとした外を破った瞬間、溢れ出てきよったわ、旨味の爆弾がなッッ!!」
「「「「おお!」」」」
「そして口の中で合わさるんや、野菜とマヨとカリッとした衣が。 しかもそれで終わりやない……アレが口の中を蹂躙するんや……こんなん、うち、初めてや……」
「「「「おおおおッ!?」」」」
勝気なアキコさんの魅せる上気したテレ顔に、野次馬たちが野太い声を上げた。
「わしにも一つ!」「3つくれ!」「こっちは10個や!」
うん、もうカオス。
従業員が俺と玉木さんだけなんよ。
後ろで見ていた黒マスクさんも手伝ってくれたが、まったく追いつかずゴーレム兵を投入してなんとか回すしかない。
「なんやこの猫ーー!? めっちゃ可愛いやんかーー!?」
主人のピンチにシャム太たちも大忙しで手伝ってくれた。
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