三百十話:


 まるで妖精さんだ。


「あら、手ごたえがないのね? もう少し遊んで欲しかったわ」


 竹槍のような武器で男たちを一瞬でのしてしまった玉木さん。

 背中から半透明でエメラルドグリーンな羽が生えている。

 アニメとかで見るような妖精の羽である。

 フェアリードレスにも似ているか。


「ぐぅぅ……!」


「これで海産物100キロはボロもうけねぇ~」


 酒のつまみもね。


 しかしなんだろう?

 玉木さんいつもと雰囲気が違うな。

 ロングヘアーだからか? まぁロリ巨乳なせいかもしれないが。

 

(あっ)


 耳だ。

 長耳の角度がいつもの45度くらいからほぼ水平くらいになっているのだ。

 長い笹のような耳。

 ……だからパンダなの?


「うん、米子さんの特訓の成果が出てきたかな?」


 クルクルと竹槍、いや竹の薙刀を回す玉木さん。

 米子さんは東雲東高校の『超老人シルバーマン』の一人で薙刀の達人お婆ちゃんである。

 特訓を受けていたのは知っていたがこれほどまでに成長しているとは。


「おー、おたくらほんまに強いんやな。 おかげでキョウも無事やったわ、おおきにな!」


 前衛で戦うなら装備も整えないとね。

 フェアリードレスは前衛向きではないと思うの。

 ガチャを回すしかない。


 ミサ、栞、葵は結構良いガチャ装備をつけているので、あとは木実ちゃんと玉木さん。 

 木実ちゃんはダアゴン沼地で得た羽衣が優秀っぽかったけど、やはり俺のガチャ装備を着させたい。

 できれば二人ともSSR以上で。

 

「……助かった」


「いいのよ。 報酬はしっかりと貰うから」


「ぐふっ!」


 良い笑顔で玉木さんが言うとアキコさんが苦しそうに胸を押さえる。

 そして顔をいやいやと横に振りながら顔面蒼白になる演技をするが、玉木さんの表情は変わらない。

 

「……だめかぁ」


 泣き落としなど玉木さんに効くはずもなく。

 びた一文まけるはずもなく。

 ついでになにか美味しいお酒もないか物色しよう。


 奥様達の中で唯一お酒好きの玉木さん。

 他のメンバーも飲めるが好きというわけではないのだ。

 ちなみに木実ちゃんは酔っぱらうとえちえちになる。


「酒か? この前、お兄さんが持ってきてくれたんもまぁまぁやったが、大阪の酒はうまいで?」


「ほう」


「今年の天満大酒会で人気だった酒をプレゼントしちゃるわ!」


 天満大酒会?

 めっちゃ凄そう。


「まぁ定番で、呉春、秋鹿やな。 あとはうちのおすすめで國乃長もプレゼントしちゃるわ!」


 酒好きのよしみで富田漬なるアテも貰ってしまった。

 日本酒よりもウィスキー派とはいえない雰囲気。

 いや嫌いではないけどね。



「逃がしてよかったの?」


「しゃーないんよ。 捕まえとっても餌代が掛かるやろ? それに取り返しに来られても面倒ごとやしな」


 先ほどの暴漢たちは逃がしてあげた。 

 捕虜として捕まえておくという選択肢はないらしい。

 

「アキコ一人で動かないように」


「キョウもやで」


 弱いんやから、とツッコミを入れられてしまう黒マスクの人。


「う……それと、内通者がいる」


「さよか」


「驚かないんだ?」


「あいつらならやりそうやろ。 他んとこのもおると思うで~」


 首都大阪は内部抗争で大変らしい。

 東雲東高校の辺りほど魔物の襲撃が活発じゃないのだろうか?

 まぁあそこは周りが魔王の領地に囲まれているしね。

 漁とかやっている暇はない。


 それに『金剛王牙カリュドン』は支配地域を広げることを優先しているのだろう。


 大きな拠点は避けてどんどん広げている感じがする。

 関東、関西、それに九州にも支配地域が広がっているのだから相当なスピードだ。

 しかし本拠点は一体どこにあるんだろうか?


「シンク君、ここって鍵でこれるのかしら?」


「うむ」


「なら支店でも作りましょうか」


「うむ?」


 なんの支店だろう。


「ママノエ焼き大阪店よ!」


 ママノエ教団関西支部ですか?

 それとも出店の活気に当てられて、玉木さんの鉄板焼き魂に火が付いたのだろうか?

 玉木さんのママノエ焼きメニューのレパートリー半端ないしね。

 そういえばたこ焼き作るとかいってたけど、完成したのだろうか。


「ええで!ええで! 大歓迎や!」


 アキコさんに話すとすぐに話がまとまる。

 空いている家と出店ブースを使わせてくれるらしい。

 ついでにガチャも設置しようかな。


「ガチャガチャか? もちろんオッケーや!」


 なんでもオッケーしてくれそうな気がする。




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