三百九話:


 『首都大阪』。

 そこでは魔物の襲撃から身を守る為に大勢が暮らしている。


「クソ雑魚どもが。 コソコソ群れてんじゃねぇぞ」


 人々は協力し合い魔物に対抗する……のだが、同じくらいに人同士で争っている。

  

 黒いフードに黒いマスクをつけた彼はくだらない派閥争いだと積極的に関わろうとしなかった。

 そんなことをしている場合じゃないと、怒鳴りつけたかったのに。


 しかし力がない。

 そんな勇気もない。

 だからどうにでもなれと諦めていた。

 世界が変わる前と変わらない。

 自分には何も変えることができないと、諦めていた。

 

(ハメられた……)


 だが僅かな勇気と少しの力、そして出会いが彼を動かした。


「キョウ。 力のねぇお前なんぞに誰も従わねぇ。 いいから俺らの下につけよ」


「……」

 

 しかしそう簡単にはいかないようだ。

 彼に賛同し協力しようとしてくれた者たちはたしかにいた。

 けれどそれは新たな勢力を作ったにすぎない。

 出る杭は打たれる。

 賛同者を集める為の会合を狙われ、敵対勢力に完全に囲まれていた。


「お前の力は、俺たちが上手く使ってやる」


 キョウは賛同を得る為、隠していた力を見せる必要があった。

 失敗だった。

 やはり過ぎたる力、いや便利なだけの力は危険だ。 それを欲する人間に知られればどんな手段にでも出るだろう。 

 止めてくれる者も助けてくれる者もいない。

 自分たちでどうにかするしかないのだから。


「お前が大人しく従えば見逃してやる、お前の仲間……オレンジの女はな?」


 世界はクソだ。

 なにも変わらないじゃないか、と彼は奥歯を噛み締め相手を睨みつける。


「あ゛? なんだその反抗的な目は」


「女、さらってきた方が早いやろ」


 それだけはさせないと、キョウが最後の手段に手を掛ける。

 あまりにも被害が大きい、恐らく自分もただではすまないだろう。 周りのみんなにも迷惑をかける。 だが彼女に手を出すことは絶対に許さない。 たとえ全てを犠牲にしても。

 その覚悟で、敵を睨みつけた。


「?」


 急に影ができた。


「あ?」


 それは大きくなって、いや、降りてくる。


「……は?」


 幼女エルフと死の騎士。


 緑玉色エメラルドの半透明な羽をもつ美しいエルフの幼女。

 そして漆黒の粒子を纏う死の騎士。

 いったいどれだけの命を狩りとれば纏えるのかというほどの殺意と共に。


 悠然と集団の真ん中へと降りてくる。

 だれもが息を呑み二人に視線を送る。

 先ほどまで威勢の良かったチンピラ達が借りて来た猫のようにおとなしくなる。

 ガタガタと、収まらない震えを必死に止めようとしている。


「キョウ! 無事かーー!?」


「アキコ!?」


 見たこともない漆黒のトライクに乗った女性を見つけ、彼は安堵と共に驚きの声を上げた。

 

「彼らは!?」


「ふはは! 傭兵や!! 高かったでぇえええええええええええええ!!」


 足元みよってからに!と憤慨する彼女から目を離し、今日は二人組を見る。

 一体どれほどの大金を積めばあれほどの頼もしい傭兵を雇えるというのだろうか?


「ほんまマズいで!? わてらの一週間分のアテと海産物100キロや! もうほんまっ――尻毛まで根こそぎやッ!!」


「それは……」


 たしかに高い。


「けど、キョウのためなら安いもんや!! それに出店の皆が協力を申し出てくれたしなあ!!」


 彼の深くかぶったフードの中の表情が驚きに目を開く。

 金勘定には人一倍うるさいナニワの商人たちが、善意で動くなどということがあるのだろうか?

 彼が知る限りそんなことは一度もない。


「みんな、キョウに期待しとるんやで」


「っ」


 そんな彼の表情を読み取り彼女が一言告げる。

 そのころには傭兵たちの活躍は終わっていた。


「あら、手ごたえがないのね? もう少し遊んで欲しかったわ」


 竹を持つエルフ幼女がつまらなさそうに呟く。

 よく見れば槍のような薙刀のような武器である。

 彼女がクルクルと回すと周囲の風も踊るように動いているように見えた。

 見えるはずのない風を操る幼女エルフ。


「ぐぬぬ……!」

 

 そしてただただ佇んでいた死の騎士はキョウに、いやアキコへと視線を移し微笑む。

 なんとも邪悪な笑顔である。


 まるで『ちょろすぎボロもうけウマー!』とでもいいたそうな邪悪で良い笑顔だった。



 

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