三百十五話:
ゾワリと京極の体が震えた。
「――――」
振り返るがそこには闇しかない。
「指令?」
「……」
人影はもちろん、気配も殺気もない。
聞こえてくるのは森の音と仲間たちの声だけだ。
気のせいかと思ったが、いやと、京極は異変に気付く。
「風が……!?」
森の音が激しくなる。
その木々の揺れる向きが不自然だった。
気流の乱れ。
まるで台風の中のような。
「総員! 警戒態勢!」
駐屯地を後にした京極指令と自衛隊員たちは東雲市街地ではなく北の県境へと向かっていた。
『――――鬼隠流忍術』
追ってくるような者たちはいなかった。
「「「「「っ!?」」」」
だが、いまっ、たしかに誰かの声が聞こえた。
『風遁――――双乱空手裏剣ッ!!』
自衛隊員の隊列へと、夜陰を切り裂く風刃が乱れ襲い掛かる。
乱れ狂う風の刃は自由に夜を駆け、四方八方から警戒態勢を取った部隊を切り裂く。
『む?』
しかし、直撃の瞬間。
ヌルリとまるでスライムのような油の浮いたような膜が自衛隊員たちを覆い、風の刃を防いだ。
『チッ……撤収する』
乱れていた森の動きが一斉に同じ方向に向いた。
暗殺を狙った者たちが去ったのだろう。
「ふぅ……」
冷や汗を搔かないはずのその顎筋を、京極は手の甲で拭うのだった。
◇◆◇
魔法は凄い。
駐屯地の件を片付け、
統括の魔法は凄かった。
しかし今、俺が凄いと思っているのは『ゴーレム魔法』のことである。
「うむ」
【猫の手】に売るくらいしか使い道の無かった魔物の素材と魔石を使ってゴーレム兵や砦が作れる。 使った素材でブロックにも変化があるようで、デコレーションや兵科に影響があるようだ。
最近は暇があればずっと魔法を試している。 ちょっとハマリ過ぎている気がする。
某建築ゲーにドハマりする人の気持ちがわかった。
「凄い! 凄すぎるよっ、鬼頭君!」
東雲東高校の近く。
以前のワンワンパニックの戦闘で焼け野原となり、建物は倒壊し田んぼなんかもダメにされてしまった区画に、ゴーレム砦、いやゴーレムマンションを造った。
見た目は武骨な鉄筋コンクリートのマンションだが、すでにネペンデス君が絡みつきはじめている。
そのうちにジャングルマンションになるだろう。
「これで住居問題も一気に解決だね!」
避難してきた人たちにも個室は必要だ。
やはり集団での寝泊まりは気を遣うのだ。
治安にも悪影響だし。
「あ、ここにもガチャを設置したんだね?」
「うむ」
ガチャだけでなく売店も設置しようかなと考えている。
ゴーレム兵の知能がどの程度なのか実験をしないとだが、簡単な命令なら聞いてくれる。 ダメなら人を雇ってもいいしね。
ここのゴーレムマンションは主に戦闘を頑張っている若い人達ようにしようかと思っている。
多少の優遇は有っても良いし、それに……彼らは魂魄レベルが上がったせいか能力が上がっているのだ。
体力と精力も。
夏の日差しで健康的な肌で薄着の女性たちと日々集団生活。
うん、もうね、いつ治安が悪化してもおかしくないのですよ。
カップルたちも声を押し殺して夜を過ごすのは大変だろうし。
ギャル学校のように風紀を乱してほしくないしね。
「うん。 これで打倒ケルベロスに、さらに一歩近づいたよ!」
服部領主が燃えている。
衣食住に目途が立ち、武具の強化も順調だ。
さらに相手を弱体化させる施設まで設置してもう完全にロックオン状態。
小さくて可愛いくてお人好しの癖に、敵には容赦ないね。
まぁ魔物相手に容赦なんてするはずないんですが。
「……九条さん、全然帰ってこないだんけど、まだ怒っているのかな……?」
「……」
知らないけど、ゴーレム砦で毎日ゴーレム兵をボコボコにしてますが?
おかげで実験データはいっぱい取れているけど。
一体なにをして怒らせたんだろう?
「はぁぁ……」
溜息を吐く服部領主に領主メニューから井戸を設置してもらう。
ゴーレムに屋上の貯水タンクまで運ばせ各部屋で水が使えるようにする。
排水設備はゴーレムブロックで作ってあるので問題ない。
トイレはネペンデス君トイレを設置する。
スーパーエコトイレで果物まで実る。
汚物処理の心配もないしペーパーの心配もない全自動トイレだ。
気に入られると大変らしいが。
素晴らしい。
このノウハウで他の拠点でもゴーレムマンションを建築しよう。
いや、少数用の高級マンションにすべきか?
いっそ高級ホテルでもいいだろう。
こんな状況だから、大盛況間違いなしでは?
俺は終末世界でホテル王に成る。
「くくくっ!」
その為にもまた遠征でもしよう。
困っている人たちこそ、良いお客様になってくれるだろう。
日本中に恩を売りにいかねば。
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