三百十四話:


 樹氷のようになった巨大ヘドロモンスター。

 

「頼めるか?」


「うむ」


 なんとなく、『クリムゾンデスサイズ』で一刀両断にする。

 取り込まれた、いや、自ら一体となった自衛隊員と共に。

 巨体は芯まで凍っていたようで、砕け散りバラバラと広がり消えていく。



「しかし、これからが大変だな」


 辺りを見渡し統括が呟く。

 

 大勢の人たちが項垂れていた。

 悲壮感が漂っている。

 怪我をして泣く人に手を差し出す余力のある人はいない。

 疲弊しきっているんだろう。



「……」


 京極さんは出てこないか。

 

 巨大ヘドロモンスターが全ての原因というわけではないようだ。 

 アナウンスが無かったし【ワールドエネミー】でもないのだろう。

 駐屯地の異変の原因は一体なんだったのだろうか?

 

「私も長くは居れない。 監査が終われば向こうに戻らねばならないからな」


 東雲東高校に連れていくのも厳しい。

 現状でも住居の問題があるのだ。

 それにあの優しい服部先輩は傷ついた人たちを放っておかないだろう。 一人一人と面談なんて始めたら服部領主が過労死する。


 クラフトワークスやお嬢様学校も同様だろう。


「この人数を中央まで連れて行くのは……」


 不可能だろう。

 やっぱりここで立て直すしかないか。

 帰って皆に相談しよう。

 うん。

 こういう事後処理は俺には無理ゲーすぎる。

 誰かいないかな~内政に特化した人。


「ふぅ……。 君のおかげでスキルの影響も少ない。 さっさと仕事を終わらせよう。 ……楽しみはその後でな!」


 シリアスが台無しですよ?


 不敵な笑みを浮かべ颯爽とロングコートを着た白銀の髪の女が歩く。

 皆からの注目を集めているが気にする素振りすらない。

 大物だな。

 まったく何を考えているのかは想像もしたくないが。




◇◆◇




「ダークエルフ? 何を言っているでありますか! そんな馬鹿なことで助けが遅れたことを忘れないであります! でも助けてくれてありがとうであります!」


「やっぱ、梅香だなぁ……」


「なんでありますかっ、その残念そうな顔ーー!?」


「お前ら……イチャイチャするのは後にしろ。 敵がいないとも限らんぞ」


 梅香隊員を救出した山木たちは地下を探索していた。

 風の入ってくる方へ。

 恐らくあるであろう駐屯地とは違う入り口を確認する為。


「ゴブリンたちを捕まえて運んでいた道があるはずだ」


「となると北っすかね」


 ゴブリンの勢力圏は広い。

 主に東雲市街地方面であるが、そこは藤崎市から見て北に位置している。


「た、たいへんであります!」


「どうした!?」


「む、胸がっ!」


 胸を押さえ震える梅香隊員。


「痛むのか!?」


 スライムに何かされたのだろうかと、心配する寺田隊員。

 

「――――巨乳になってるでありますよ!!」


 いらねぇ情報だ。

 Cカップ程度であった梅香隊員の胸がEカップはありそうだった。


「ゴクリ、ってどうでもいいっす!!」


「どうでもいいとはなんでありますか!? これで私の戦闘力は大幅上昇でありますよ」


 梅香隊員は夜の戦闘力がアップした。


「……はぁ」


 山木は精神的な疲れを感じつつ、先を急ぐ。

 頭からは京極のことが離れない。

 もっとちゃんと話すべきだったとの後悔からだ。


「出口が見えてきた。 戦闘準備」


「っす」


「はい」


 

 警戒を最大限に進んで行く。

 しかし誰もいない。

 ゴブリンも人も、気配は感じられなかった。

 出た場所は公園のようである。


「トラップがあるな、気をつけろ。 この先、東雲市街地かもしくは県境の山間部か」


 簡易なトラップが仕掛けられていた。

 ゴブリンに対する物か追いかけて来た者に対してかは不明だ。

 公園には京極たちの行方を示すような物はなかった。

 もう夜が明ける。

 

「戻ろう」


 駐屯地に戻り、説明をしなければならない。

 残っている者たちと今後の方針を話し合う必要があるだろう。

 自衛隊員のいなくなった駐屯地で一般市民たちはどうするのか。

 彼らに決めてもらわなければならない。


「忙しくなりそうだ」


 やれやれと山木は小さく笑う。


 そこには悲観はなかった。

 きっとあのどうしようもなかったギャルたちの変化を見てきたからだろう。

 やり直せる。

 そう山木は己に言い聞かせ、駐屯地へと帰還するのだった。





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