三百十一話:
なんだあれ?
「臭いな……まるで男どもの三日洗濯していない濃厚男汁パンツの山の中に放り込まれ手洗いをさせられている気分だ」
どんな気分?
「おぞましいっすね……なんか、見てると頭が痺れてくるような?」
スライムというよりヘドロの魔物か?
開けた空間に鎮座する巨大ヘドロモンスター。
悪臭と共に頭部から常に液体を吹き出している。
「おい、キサマ。 アレはなんだ?」
「ぐっ」
捕らえた自衛隊員に質問するが口を割らない。
アサルトライフルを没収し凍らされた腕は痛そうに赤くなっている。
温めたので凍傷は酷くは無いと思うが、軽い火傷は負っているだろう。
「ふん、コレが異変の原因だろう。 コレを破壊すれば様子のおかしくなった者たちも治るだろう。 さぁご主人様、さっさと破壊し騒動をおさめて私にもアツイモノを納めてくれ」
「……」
なんなんだこの処女ビッチ統括は?
ア〇ルに納めればいいのか?
お尻なでなでしないでください!
まぁとりあえず破壊しますか。
「おい、よせ!」
近づくのも嫌だし爆発しても嫌なので、【
「お?」
弾かれた。
汚泥をまき散らす触手が魔投槍を叩き落した。
触手というより汚泥の裾のようだ。
ボォォォォ……
洞窟を風が抜けるような音を出しながら、常に流動する体を起こす化物。
「ん?」
広間の端、怪物の後ろにあった麻袋が体に取り込まれる。
ぐちゃぐちゃと、咀嚼するように怪物の体が蠢く。
気持ちが悪い。
寺田さんたちが息を呑む。
統括は表情を厳しくその怜悧な瞳はまっすぐに怪物を見つめている。
麻袋。
その膨らみはちょうど人くらい、女性か子供か。
俺たちに最悪を連想させるには丁度良い大きさだった。
「ゲスが」
この怪物へ、そして操る者へ嫌悪の言葉が漏れた。
取り込まれた麻袋の代わりに、赤黒いスライムと赤黒い肉塊が排出される。
「まだ奥に袋が見えるっす! 助けるっすよ!!」
「――凍れ」
絶対零度。
統括から発せられる氷氣が怪物へと向けられ、その体が凄い勢いで凍っていく。
だが、流動する怪物の動きが活発で凍り付くことはない。
それでも動きは遅くできたようで、斬りこむ寺田さんたちの助けになる。
「くぅう!?」
その触手は流動する盾。
物理的な攻撃は効果が薄いか。
「……」
燃やす……嫌な予感がするなぁ。
「ぐっ! また取り込まれたっす!」
なぜだろうか?
俺には目の前の怪物が巨大な時限爆弾のように見えた。
俺が炎獣を放つのを今か今かと待っているような。
そんな予感。
「ふっ!」
捕らえていた自衛隊員が走り出す。
向かう先は怪物の足元。
怪物の触手にやられることなく、その自衛隊員足元までたどり着きこちらへと振り返った。
「……ふざけやがって、みんな死ねばいい。 俺たちは頑張った。 そうだろう? なのに、なんで! なんで! なんでぇえええええええええええええええええええええええ!!」
「待つっす!!」
ドロリと、その男の顔が崩れる。
あまりにも酷い顔だ。 爛れたような呪われているような、狂ったように呪詛をまき散らしながら、巨大ヘドロモンスターに取り込まれていく。
「うえ」
まるでスライムに生きたまま捕食されるように。
男は全身を呑み込まれて消えた。
「なんなんだ……?」
自殺。
赤黒いスライムとなって男は出てくるのだろう。
そう思ったのだが、怪物は大きく脈打ち姿を変える。
「「「っ」」」
全身の皮膚を失った自衛隊員が怪物の頭頂部に現れる。
下半身と手は怪物に取り込まれたまま、まるで船の船主像のように。
口を半開きにし目を瞑っていた男の瞼が開かれる。
「――――ロオオオオオオオオオ!!」
真っ赤な瞳をギラつかせ、咆哮と共に巨大ヘドロモンスターが爆進する。
「あっ、待つっす!」
向かってくるかと思ったら方向を変えて別の道へと進んで行った。
「助けたら追いかけるっすよ!」
正義感溢れる寺田さん。
……こいつ、偽物か?
俺の知っている寺田さんはヤル気のないチャライ感じの人だったはず。
「だいじょぶっすか? ――え?」
麻袋を開けた寺田さんが驚きの声と共に後ろ飛び去る。
訓練で鍛えられた危険察知が反応したのだろう。
ほぼ無意識の行動に違いない。
「なんでこんな所にコイツが……」
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