三百十話:
神駆たちが藤崎駐屯地へと潜入した頃。
「山チン!」
深い地の底へと落ちた山木たちは赤黒いスライムたちに囲まれていた。
沈み落ちる地面と共に降りた為、落下によるダメージはないようだ。
しかし、予想外の出来事に動揺が走っている。
「分断されたか……!」
『罠』という単語が頭を過る。
家ごと彼らを呑み込んだ地面は何事も無かったように元に戻っていく。
超常の現象に戸惑う山木たちを怪物は待ってくれない。
「おおおおッ!!」
山木はトンファーを使い敵の攻撃を防ぐ。
忍者たちは赤い槍で攻撃していく。
炎属性を持つ槍のようで、数度突くことで倒すことができる。
「よし、数は多いが単調だ。 これならなんとか――――」
その言葉の先は、増援の数に遮られる。
数が多い、あまりに多すぎる。
ミチミチと通路いっぱいに赤黒いスライムたちが押し寄せてくる。
神駆がいれば魔法で一掃できたかもしれない。
いや、可燃性なのか炎の威力が増大するためこのような地下では難しいか。
「ずるいずるい、ずるぅううい!!」
「やばたん!?」
一度押し込まれればその物量に呑み込まれてしまうかもしれない。
「みんな、落ち着け!」
山木が檄を飛ばす。
「辛く厳しかった忍者修行を思い出せっ! これくらいっ、どうってことないはずだっ!!」
ジェイソンの忍者修行に比べれば大したことがないと声をはる。
数多くの生徒を再起不能にした、トラウマ製造修行に比べれば大したことはないと。
「ふんっ!」
迫りくる無数の手裏剣に比べれば、スライムの触手など容易い。
漢・山木のトンファーが鉄壁の守りを見せる。
「私たちも!」
仄暗い地下で防衛戦が始まった。
◇◆◇
「粘るね」
檻の中でスライムが女に覆いかぶさって蠢いている。
紫紺の宝石から血管のようにスライムに線が走っている。
スライムというより、気持ちの悪いアメーバのようだ。
「ふぅぅうぅぅ……」
唸り声を上げる梅香隊員が睨みつける。
口からは涎なのかスライムの粘液なのかわからない物が零れ落ちている。
全身をドロドロにされているが、皮膚が溶けたりはしないようだ。
「君の仲間たちが助けにきたよ」
「え――っん゛!?」
口を開きかけた梅香隊員の口にスライムの触手が入り込む。
ぎゅぎゅっと彼女の体を締め付ける力は強まり、彼女は必死に体をくねらせ股を閉じる。
しかし口の中を蹂躙され息ができない。
鼻には粘液が入り込みすでに使い物にならない。
吐き出すこともできない。
酸素が欠乏していく。
「ヴぇぅはっげぇ!!」
触手が引き抜かれると、すでに吐き出す物はなくえずくだけだった。
荒い呼吸を整え、もう一度口を開きかけ、すぐに閉じた。
「すぐにここに連れてきてあげるよ。 彼らも可哀そうな人たちだ。 救ってあげなければね」
「なにを、言っているで、ありますか……!」
つい反論してしまったが、触手は襲ってこない。
「自分を犠牲にして市民を守っても分かってもらえない。 感謝されない。 理解してもらえない可哀そうな者たち。 僕たちと一緒だ。 彼らにも開放の喜びを与えてあげないとね」
「わかってないであります」
「なにが?」
初めて男の声に苛立ちが含まれているのが感じられた。
「私たちは、感謝が欲しくて、わかってほしくて、人助けをしてるわけじゃないであります!」
「綺麗ごとを言うなよ」
「ふぐっ!?」
梅香隊員の口に触手がねじ込まれた。
「なんなんだよ、君は……おっと、マズイね。 さすがは
「ん゛ん゛!?」
「残念だけど、君は置いていくよ」
そう言い残すと男はどこかへ消え、檻にはスライムと梅香隊員だけが残される。
「ふんむむうむむうううふう゛うぅうう゛ーーー!(せめてスライムを外してくでありますよーーー!)」
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