三百九話:

 俺の体が警戒に震えている。


「ふむ。 良い体だ」


 夏なのに厚着の統括をおぶり、汚水の上を歩く。

 ブラックホーンナイトは漆黒の光沢というかサイケデリックのような感じで目立つので、今はオメガのみを着用しフルフェイスで臭気をガードしている。

 オメガは筋肉のラインが目立つ、統括のひんやりとした指先が無遠慮に撫でてくる。


 ちょっと……セクハラですよ?


「監査をさっさと終わらせてホテルにでも行こう。 なぁ良いだろう?」


 いや、良くないです。

 ホテルやってないし。


「「「……」」」


 皆の視線も痛い。

 どうしてこんなことに。


「ふぅぅ……んんっ、想像しただけで濡れてきたぞ? 責任を取ってもらわないとな」


 シリアスな潜入シーンが台無しだ。

 山木さんたちが派手に動いてくれているのに。

 パワセクハラ統括のせいでいまいち緊張感がない。


「思っていたより大きな空間っすね」


「ああ、それにこれは……」


 人工的な空間だ。

 剥き出しの土ではなく、ちゃんと整備された下水道のよう。

 東雲市役所の地下に入った時を思い出す。


(それに……ダアゴン沼地みたいだ)


 魔素とでも言えばいいのだろうか。

 何か異質なものが空気に混じっているような感覚。

 異界であるダアゴン沼地よりは濃くはないが、ネペンデス君の塒くらいは濃い。


「離れてしまうのか? 残念だ。 ……さっさと監査を終わらせて、お楽しみといこうじゃないか」


 濡れていない足場へと統括を降ろす。

 仄暗い地下で彼女の銀糸の髪が煌めく。

 雪原の輝きのようだが、自前で光っているのか?

 『天海防衛ライン』で会った時よりも光っている気がする。

 魔素の影響だろうか。


「こんなものどうやって……全然気付かなかったっす」


「自衛隊員でないなら一般人に労役を課したのか? もらった報告書には都合の良いことしか書かれていなかったがな」


 統括の氷の視線と雰囲気に寺田さんたちにピシりと緊張が走る。

 お偉いさんの醸し出す苛立ちの雰囲気って嫌だよね。


「やはり我々がしっかりと管理する必要があるな。 しかし遠い、いや、ご主人様の近くになるのだから私が統治者として赴任するのもありか?」


「ご、ご主人様!?」


 そういう関係!?と寺田さんたちが俺を見る。

 全然そういう関係じゃないです。


 『天海防衛ライン』にガチャ設置の商談に行ったら『藤崎駐屯地監査指令書』なる物を見せられ協力したらいいよと言われたのだ。

 あれよあれよと話しは進み、統括を連れてこちらまでやってきたわけであるが、やたらとこのお姉様は二人きりになろうとしてくる。


 いったいナニの目的があるというのだろうか?


 見た目は凄いクール系美人なのでやぶさかではないのだが、絶対面倒ごとに巻き込まれるから全力でお断りしたいよね。


「くるっす!」


 さて本題の地下施設だが。

 やはり、赤黒いスライムたちの根城か。


「ぐにゃぐにゃと、気持ち悪いな……」


 全然かわいらしさの欠片もないスライムたち。

 統括は不定形は嫌いらしい。

 

「……」


 もぞもぞと近づいてくる。

 移動速度は遅いが、射程内に入ると伸びる腕は触手のように襲い掛かってくる。

 

「任せるっす!」


 エポノセロスの大楯で触手を弾く。

 ククリナイフを持った寺田さんが颯爽と駆けスライムを切りつける。

 黒染めされたククリナイフは妖しく光り物理耐性にすぐれるスライムを両断した。


「ほう、良い動きだ」


「鬼頭さんのガチャから出たアイテムっすよ!」


 寺田さんが宣伝してくれる。

 

 駐屯地に設置した後はお嬢様学校とギャル高にも設置してある。

 クラフトワークスにはまだ設置していないが、いずれはするべきだろう。

 ガチャからは食料品がでないので【猫の手】から完全に縁が切れる訳ではないが、あまりあそこを頼りすぎるのは怖い。 


 敵に押さえられたらアウトというのもあるし。

 できるだけ領地内で自給自足できるようにしておいたほうが良いだろう。

 俺としてはできるだけガチャにズブズブに依存してもらいたいしね。

 

「囚われている人を早く助けるっすよ」


 梅香隊員の件からちゃらいはずの寺田隊員がヤル気満々である。

 ひょっとしてそういう関係なのだろうか?

 以前に見た時はそんな感じはしなかった。 

 いや男女の機微なんて俺にはまったくわからないけれど。


「しかし、広いな。 急にできたという話しだが、こんな物が私の管轄に出現したら困るぞ」


 地下ってのが厄介だよね。

 忍び寄られるまで気づけない。

 栞さんなら発見できるかもしれないが。

 ハクアさんの鳩では難しいだろう。


「お前たち! 何をしているっ――――動くなッ!」


 地下空間を進んで行くと、ついにスライム以外と出会った。

 

 人、アサルトライフルを装備した自衛隊員だ。

 拳銃は脅威であるが、しかし今の俺ならば対処はできる。

 エポノセロスの障壁で防御している間にデックイグニスで焼けば問題ない。

 ただし相手は死ぬが。


「な、なに……!?」


 一触即発。

 どうするかと、俺の背に他のメンバーを隠しながら睨み合っていると、相手の体が氷始める。


「武装解除しろ。 さもないと指が壊死するぞ? ……ふん、職務に殉ずるか」


 あ、あの統括? 氷漬けにされたアサルトライフルから指が離れないようなんですが……。 離したくても離せないのでは?

 広範囲に展開するよりも対象を絞ったほうが強力なのか。


 統括の放つ冷気は鋭く場を支配している。







――――――――――――


| ˙꒳​˙)サポ限近況ノートが更新されたヨ

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