三百七話:
篝火の照らす明かりを避けて、ギャルたちは疾走する。
「やばいやばい!」
「逃げるよっ!!」
昼は厳しいくノ一修行、夜は楽しいくノ一修行で鍛えた下半身で力強く走る。
すでにバレているのだ。
全力で駐屯地を駆け抜ける。
「こっちダメ!」
「だぁ!?」
最短で抜けるルートは抑えられている。
迂回して進むしかない。
「ぜったい、罠!」
「うわぁあああああーー!!」
おバカのカンが囁く。
誘導されている気がする!と。
だから、ぶっ飛ぶ。
「飛んでぇ!!」
スカートが夜空にはためく。
一人のギャルを土台に、三メートルはあろう壁を飛び越えていく。
まるで忍者のように、いやくノ一のように軽々と壁を越えていく。
「掴んっ!?」
壁の上から手を伸ばすギャルの視界に、蠢く赤点が入った。
「――――掴めええええええええええええ!!」
伸びる手。
まるで触手のように、無数の手が土台となったギャルへと迫る。
「「ふぐっ!?」」
衝突音。
壁が揺れている。
「危なかったぁ……」
「なんだったの……?」
重なるように落ちたギャルたちが呟く。
駐屯地の敷居の外へは出れた。
だが油断はできない。
外にも敷地を囲むように赤黒いスライムたちが展開しているのだから。
「気配は?」
「……ダメ。 囲まれてるよ」
気配察知にすぐれたギャルが答えた。
「どんだけいるのよぉ……」
赤黒いスライムたちの数は多い。
一体どれだけの数が存在しているのか、どういった存在なのか、不明な点は多く駐屯地で調べた彼女たちも分からなかった。
「バレてる、よね?」
「どうして襲ってこないん?」
追い詰められた彼女たちは民家へと姿を隠した。
周囲には蠢く赤黒いスライムたちの気配を多数感じるが、押し入ってくるようなことはなく、駐屯地からの追手もない。
ただただ、赤黒いスライムたちが家の周囲を包囲しているだけだった。
たしかに存在する敵の恐怖。
「山チン……」
少女たちに暗い不安が襲い掛かる。
ギャル学校で過ごした日々を思い出す。
最悪の女子高と蔑まれた荒んだ日々ではなく、彼女たちを救ってくれた少しうざいおじさんたちとの日々を。
忍者とか意味わからないと言いつつ、学校を綺麗に片付け綺麗に保ち苦手だった料理だってできるようになった。
不器用でお節介なおじさんたちは誰よりも優しくて頼りがいのある人たちだった。 なにより世界から見捨てられた自分たちを見捨てないで助けてくれた人たち。
ギャルたちは彼らに救われたのだ。
だからこそ彼らの悩みを解決したいと思って、無理をしてしまった。
自分たちを救ってくれた彼らの為に少しでも恩返しをしたいと思って。
「……揺れてる」
「地震?」
地震大国日本だ。
珍しくもないが、長い。
横揺れではなく縦揺れのようだ。
「皆! 外っ!」
まだ夜明けまでは早い。
けれど外は明るかった。
何体もの赤黒いスライムたちが燃えているのだ。
「また……助けられちゃったな……」
民家の屋根を飛ぶ漆黒の軍団。
藤崎女子高校を根城とする忍者集団――『鬼兜組』だ。
「おまえたち! 無事かっ!?」
物理攻撃の効かない赤黒いスライムたちであったが、火が弱点のようであり、神駆から受け取ったハイワイルドドッグシリーズ武器であればダメージを与えられるようであった。
またいくつかの武器はエンチャントによって炎属性が追加で付与されている為、大きく炎を上げさせている。
「「「「山チン!」」」」
もっとも信頼できる漢の登場にギャルたちが涙を流し歓喜の声を上げる。
「まったく……」
勝手なことをしてと、怒鳴りつけるつもりであったが、山木はできなかった。
「山チン……よくわかったね」
なにかあればいつでも助けられるように、すぐ近くで監視していたからだ。
よくみれば彼の目元には隈ができている。
「はやく帰るぞ」
「うん!」
帰ったらお説教だと山木は考え、ギャルたちは帰ったらご褒美を貰わなきゃと目を輝かせた。
「裏切者」
どこからか平凡な男の無感情な声が聞こえた。
「捕まえた」
グラッ!とまるで傾くように、いや実際に山木たちのいる家が傾いた。
そして呑み込まれる。
暗い暗いドロリとした地の底へと。
「っ……なにが?」
山木とギャル四人。
それに家に取り付いていた『鬼兜組』の数人が地下へと落ちた。
彼らを呑み込んだ穴は塞がっていく。
その異常な光景に脱出を試みることすらできなかった。
「山木さん、囲まれているぞ」
仄暗い地下空間。
びちゃびちゃと何か水の音がする。
どこかで嗅いだことのあるような臭気が漂っている。
「くっ、罠だったか!」
周囲を囲む赤黒いスライムたちの群れに、山木は敵の罠に嵌ったことに気が付くのだった。
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