二百九十七話:四つん這い


 超巨大ゴーレム、もとい超巨大サンドバッグ。


「はっはっはーー!」


 ストレス発散にはいいね。

 技の練習にもなる。

 ただこれ、監禁王の洋館とか東雲東高校で引き当ててたら大惨事だったぞ?


「ふぅ……」


 死神ほどではないな。

 空間を飛ばされたわけでもないし。

 ただただ体力と防御力の高い中ボス。

 うーん、時間が掛かる。


「む」


 野犬が集まってきている。

 まぁこれだけ目立てば嫌でも気づくか。

 

「っ!?」

   

「「「ガルルっ!?」」」


 超巨大ゴーレムの攻撃パターンが変化した。

 おそらく周囲に一定数の敵を感知したからだろう。

 薙ぎ払い。

 ただのラリアットだが、その巨体全体を使った薙ぎ払いに逃げ場のない野犬たちが纏めて吹き飛ばされた。

 俺は宙へと逃れ質量無双を眺める。


「おぉ……」


 グルグルと回転しながらフィールドを蹂躙していく。

 なんだったか? 昔のスーファミであんなキャラの出てくるゲームがあったな。     

 アレはプロレスラーみたいな髭の半裸おじさんだったが。


「あ……戻ってくる」


 野犬の爪も牙も効かないし、炎の通りも悪い。

 このままコイツで野犬の領域を潰せないかなと思ったが、回転しながら元の位置に戻ってきてしまった。

 

 面倒だな。

 振り下ろし、踏みつけ、回転ラリアット。

 単調な攻撃を躱しながら攻撃を続けていくが、倒れる気配がない。

 いつかは倒せるのだろうか?

 HPゲージみたいのがあればね~。

 

「まずは脚か」


 定番から攻めますかね。


 大剣である『ヴォルフライザー』はイマイチ効きが弱いようだ。

 ハンマーとかのほうが良いかもしれない。

 斬撃よりも打撃攻撃。

 せっかく色々な武器を使えるのだ。

 もっと武器を集めたいぞ。


「【炎貫紅槍ループロミネンス】」


 『ヴォルフライザー』と『ヴォルフガング』のチャージがマックスに達した。

 迸る漆黒のオーラが大剣を包みこむ。

 俺はそのオーラに対して【炎貫紅槍ループロミネンス】を発動させる。


「『蒼振長槍ヴォルフバイブス』」


 超振動する蒼い長槍が出来上がる。

 どうみても打撃属性はなさそうだが、なんかいけそうな気もするぞ。


――――ズウゥゥゥン!


 周囲の雑魚がいなくなると、また攻撃パターンが戻った。

 踏みつけと、たまに両拳を振り下ろしてくる。

 他の攻撃パターンはあるかと警戒しつつも、脚へと攻撃を続けていく。

 『ジュィン!』と小気味よい音を奏でながら確実に巨大ゴーレムの関節を削っていく。


 少しずつ、少しずつ、確実に。


 なんだろう、斬るというよりは歯医者で歯に穴を開ける感じ? 

 巨大ゴーレムからしたらすごく嫌な感覚なんじゃないだろうか。


「お?」


 バキン。

 削った先でナニかを破壊すると面白いように片足が外れた。

 バランスを失った巨大ゴーレムが斜めに崩れる。

 片腕を使ってバランスを取るが、自重に耐えられずやがて四つん這いになった。


「う~ん」


 セクシーさの欠片もない巨大ゴーレムの残った脚も関節を破壊する。

 発声器官がないのか呻き声もあげないとは……。

 作業ゲーにしてもつまらないぞ。


「終了っと」


 片腕を潰した時点でゲームセット。

 後はもう『蒼振長槍ヴォルフバイブス』を突き立てて頸を焼き切っていく。

 ゴトンと頭部が地面に落ちると巨大ゴーレムは光の粒子となって俺の体に取り込まれていく。

 まるでガチャアイテムを獲得したような、いやまて、そういえばコイツはガチャからでたガチャアイテムだ。


>>>『ゴーレムブロック』×99999個を獲得しました

>>>『ゴーレムの核』×99999個を獲得しました 

>>>『ゴーレム魔法』のスキルオーブを獲得しました


 桁……おかしくない?



◇◆◇




 前方を指さして、急にミサちゃんが叫び声を上げました。


「きっとシンクがなんとかして――ぇええええええええええ!?」


 私と葵ちゃんも前を見るけど、何も……ううん、遠くになにかある?


「「え!?」」


 凄い勢いで何かが組みあがってる。

 敵の罠かな?

 ここは敵のテリトリーで、私たちは侵入者だから、迎え撃つなにかかもしれない。


「シンクはなにしてるの?」


「え、シンクくんですか?」


「見えない……」


 異変の部分はまだまだ遠くてよく見えないです。

 ミサちゃんの視力凄いね。


「マサイ族……」


「だれがピョンピョン部族よっ! 兎ヘルメのおかげだってば!」


「そうなんだー?」


 ミサちゃんなら運動神経もいいし、視力もいいからあそこまで見えるのかと思った。


「「「わー……」」」


 なんて会話をしていると、みるみる内に建物が出来上がっていく。

 未だシンクくんの姿はよく見えないけど。

 なにか凄いことをしているようだ。


「さすが覇王様!」「やることが半端ない」「リアルマイ〇ラ?」


 近づいていくと、まずその規模に驚いたよ。

 大きいとは思っていたけど、ちょっとした町だよ?


「勝手に動いてる??」


「魔法……?」


 私たちはブロックがひとりでに動いて建物が出来上がっていく様子を眺める。

 そしてさほど時間も掛からずに、武骨な砦が出来上がってしまった。

 一体何が起こっているのか理解できない私たちは、ただただ立ち尽くしていた。


「「「わぁ……」」」


 門の上からこちらを見下ろすシンクくんはどこかその砦の出来栄えに満足そうだったよ。




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