二百九十六話:遠征隊 ③

「ミサちゃんがいると助かりますね」


「便利……」


 神駆も嫉妬していたミサの【アイテムボックス】はレベル2へ上昇していた。

 周囲に散らばったドロップアイテムも一気に回収出来るようになっている。


「シンクに連れ回されたかいもあったかな……」


 トラウマをトラウマで塗りつぶすようなものだったが、ミサは精神的にも能力的にもかなり成長している。


「あーでも、スキルは絞って取ったほうがいいかも。 いっぱい取りすぎて伸びが悪い気がする……」


「そうなんだ?」


「ゲーム……あるある」


 手あたり次第使えそうなスキルをボンボンと取ってしまったミサ。

 葵のように明確な目標があった訳ではないので仕方ないとも言える。

 一時は魔法のみと絞って習得していた葵の地属性魔法のレベルの上りは良かった。

 とはいってもミサの場合はそのおかげで称号を手に入れている。

 手探りで人柱となる者たちなので、『偶然と幸運』は重要となるだろう。


「今日は野営ですよね?」


「うーん……こんなところで本当にできるの?」


「……難しい?」


 日帰りでの遠征は効率が悪い。

 敵本拠地を攻略するとなれば、数日あるいは数週間数か月と掛かるかもしれない。

 魔物が作るように侵攻拠点が必要になるだろう。 

 野営地の設営は目下の課題である。


「きっとシンクがなんとかして――ぇええええええええええ!?」


「「え!?」」


 驚きの声を上げるミサ。

 探索を進める彼女たちの前に姿を見せたのは……




◇◆◇




 『獄炎のケルベロス支配地域』。

 俺は先行して適度に間引いている。

 危険そうな施設の破壊と強そうな個体をサーチアンドデストロイ。

 ソロなので無理せずにヒットアンドウェイだ。


 

 やはり敵の本拠地に近づくに連れて強い敵も多くなる。

 まぁゆっくりと攻略していこう。

 東雲東高校の人たちのレベリングも兼ねているしね。


「ん?」


 休憩がてら久しぶりにリミテッドガチャを見るとPOPが光っていた。


『期間限定:探索支援ガチャ』


「ふむ……」


 タイムリーだなぁ。

 まぁ今更なので気にしないが。

 というか……絶対見てるよね?

 

 黒のガチャ、ウエディングガチャ、そして探索支援ガチャと。

 タイムリーに期間限定のガチャが現れる。

 黒の魔神も暇なんだろうか、いや、神々の誰かの可能性も……?


「ふん」


 考えても仕方がないし、こちらに損があるわけではないし、気にしないでおこう。

 そのほうが精神衛生上良いに決まっているのだから。

 それに今までの実績を考えればリミテッドガチャの期間限定はかなりお得だ。

 高レアが出やすい仕様なのではないだろうか?


 SSRも結構でているし、URも……!


「UR《ウルトラレア》」


 その響きの魅力には抗えない。


「LR《レジェンドレア》……!」


 そして【ガチャマスター】を得たことで【LRランク解放】を得ている。


 まだ見ぬ頂へ。


 回すしかなかろうよ!


「ふぉぉぉぉぉぉぉ!」


 こうして俺はガチャ沼から抜け出せなくなるのだ。

 だが良い。

 たとえ罠でも踏み抜いて渡し板として使ってやるぜ!


 俺は気合を入れ、宝箱をモチーフにしたであろう筐体をタップする。

 今回の猫さんは以前に出てきた盗賊猫さんだ。

 フードを被っており白い毛並みは分かるが何猫か判別できない。


「んっ、んんっ!?」


 いきなり高レア演出!


 おいおいおい!

 脳汁ぶっぱしちゃうだろうが!! 


 宝箱の筐体の後ろで光が飛び出る。

 天を貫かん勢いで光柱が何本も飛び出していく。

 色とりどりに光り、順に色を変えていく。

 白・緑・青・赤・銀!?


 SSR確定!?


 いきなりっすかーー!?


「えっ?」


 【ガチャマスター】になったことで高レアでも引きやすくなったのか?

 それとも神々も祝福でもしているのか?

 はたまた、邪神のイヤガラセカ?


「ッ――――」


 俺は出現した宝箱。

 その下に広がる巨大な、いや、超ッッ広大な魔法陣を視界に入れた瞬間、全力でバックステップした。


 それは正しかった。


 パかりと宝箱が勝手に開くと、現れたのはトラップ。


「どこが支援だっ!?」


 モンスタートラップ。


 銀の光が収まると見上げるほどの巨大なゴーレムの魔物が姿を現していたのだった。


「これは……」


 鈍い起動音。

 その伽藍洞の瞳は怪しく光り鎌首をもたげた。


「っ」


 ひょっとしたら味方のゴーレムなのでは?

 という薄い期待をぶちやぶる空気を裂く音が聞こえる。

 持ち上げられた足が落ちてくる音だ。


――――ズウゥゥゥン!


 続く衝撃と轟音。

 躱すことは容易だったが、砂煙で視界が塞がれる。


「――――」


 見上げる視界。

 砂煙の流れで、次の攻撃が来ることを理解する。


――――ズウゥゥゥン! 

 

 はい。

 明らかな敵対行動ですね。

 こっちが小さくて見えなかったとか言い訳は聞かないからな!


「潰す」


 さて久しぶりに大型狩りに定評のある『ヴォルフライザー』でも使おうか。

 一撃でも貰えば危険かもしれない。

 そう思わせるほどの重圧の中、俺は大剣を振るい続ける。


「は、はっはは!」


 硬てぇ。

 手が痺れるほどの硬さ。

 全然ダメージを与えてる気がしない。

 しかし俺は大剣を振るい続ける。

 色々と技を試しながら、久々のサンドバッグに愉悦を覚えながら。


「はははは!」


 死神の時は『クリムゾンデスサイズ』を手に入れたが、こいつは果たして何をくれるのだろうか?


 まさかそのまま消えたりしないよね?


 なんてことを考えながら俺は、火花と甲高くなるチェーンソーの音を響かせ続けた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る