二百九十五話:遠征隊 ②
SSR『キュリアスクレイモア』。
「『スライドスラッシュ』!」
この大剣を持っているときだけ、俺は身体能力向上とスキルをいくつか発動できる。
大剣という扱いづらい武器なので非常に助かる。
「若槻!」
「おいおい! あんま飛ばすなよー!」
鈴木と阿部も大剣を使っている。
やはり重量級武器なのでその動作はどこか鈍い。
カバーするように野犬を薙ぎ払う。
「俺最強。二人とも休んでていいんだぜ?」
「「調子乗んなッ!!」」
本当に休まれたら困るんだけどさ。
大剣使い三人で野犬を牽制していく。
踏み込み、横なぎの一撃。
その距離を敵に覚えさせる。
「よし!」
花嫁ズの魔法が敵を屠る。
やはり遠距離攻撃があるのは素晴らしい。
次のパーティメンバーは大剣使いじゃなくて、可愛い魔法使いの女の子がいい。
「っ! 避けろっ!!」
「どわ!?」
野犬の群れを割るように、火炎が迫る。
ゲームの火炎放射器のように、炎のブレスは横なぎに俺たちを襲う。
「アッツ……、あれ?」
双頭の野犬だ。
アイツは炎を吐くから厄介なんだ。
何度装備をダメにされたことか……。
「これが、エンチャントの効果か?」
熱かったが、防具はやられていない。
耐火のエンチャントが効いている?
「防具はいいけど、ごほっ、喉がやられるぞ!」
周囲の温度は一気に上昇し熱い水蒸気を吸い込んでしまったんだろう。
「しまった!?」
双頭の野犬を警戒し相手にしていると、野犬を後ろに数頭逃した。
美味しそうな花嫁ズを狙い涎を垂らしながら突き進んでいく。
マズイ!
「「ガルア!!」」
「「「っ!」」」
発達した前足を大きく振り上げ鋭い爪牙の連撃を繰り出す双頭の野犬。
その意図は明白で俺たちを助けに行かせないつもりなのだ。
頭が回る!
二つあるからかっ!?
「やばいぞー!?」
何かあったら覇王様に殺される。
激怒した覇王様の顔を考えるだけでおしっこチビリそうなんだが。
しかし俺たちの心配は杞憂に終わる。
「……凄い」
鋭い眼差しの九条先輩の一撃が、野犬たちを両断していく。
正確無比。
なめらかな動きで一切の無駄は無く。
凛とした佇まいを乱すことなく。
ゴクリと喉が鳴った。
「九条先輩……」
彼女のクールビューティなイメージとはかけ離れた、燃え盛る炎を宿す瞳と目が合って……。
「任せて。 目の前に集中して」
「は、はいッ!」
カッコイイ。
揺れるポニーテールが可愛くもカッコイイ。
その凛とした佇まいがカッコイイ。
整った顔立ち、小顔で鋭い眼差し、カッコイイ。
鋭いようで慈愛に満ちた声がカッコイイ。
「ぐっ……」
なんだこれ?
む、胸が、苦しいっ!?
「「惚れたな……」」
◇◆◇
遠征へと出かける前日。
鬼頭を見かけた私は願いを口にする。
うん。 凄く嫌そうな顔をされてしまった。
「鬼頭、立ち会って」
「……」
彼は剣士ではないが、間違いなく強者だ。
それも飛びきりの。
「お願い」
強くなりたい。
いつだってそう思ってきた。
それは仙道さんという明確な壁があったから。
剣道の試合で一度も勝てたことはなかった。
初めて戦った時は、……圧倒的な実力差を思い知った。
剣道をやめたいとさえ思ったほどだ。
「めんど」
「お願い」
「ふぅ……」
あまりの実力の違いに、悔しさも涙もでなかった。
竹刀を握る手に力が入らなくて、何度も握り返していた。
心が空っぽになったことを覚えている。
「一回……」
「十分」
剣道を続けるのが辛くて苦しかった。
でも、やめなかった。
「ありがとう、鬼頭」
昇りつめて見せると。
あの頂まで必ず、と私の心を奮い立たせて火を熾す。
私の剣の道を進み続けるために。
「っ」
驚いた。
あらためて対峙して、彼の実力に。
騒動が起き始めた頃の、大剣を振り回していた彼とは別人だ。
その自然体の構えには一分の隙も無い。
長剣は鞘に包まれているのに、恐ろしいほど切れ味を秘めた鋭い武器を向けられているような緊張感。
魂が震える。
「――――リァッ!」
もっと、もっと。
奮い立て。
私の
「おう!?」
紅っ。
……そうだね。
一緒に戦おう。
目指す頂までッ!
「はぁああッ!!」
『――――!』
「ちょ!?」
はは、鬼頭を驚かせることはできたね。
でもやっぱり勝てない。
身体能力、動体視力、それに適応力がズバ抜けている。
2対1にもすぐに対応し始めた。
武術的な動き……仙道さんのような動きをする時もあるし、私のような時も。
色々な武術を取り入れた彼独自の戦い方。
そういえば、お爺さんは忍者だったから、鬼頭流忍術ってことなんだろうか?
「ふふ」
これは良い修行になる。
一回って言ったけど、先輩命令していいよね?
一日一回、ね? 鬼頭。
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