二百九十四話:遠征隊 ①
端的に言えば、俺たちはモブだ。
「……マジかよ」
「「……」」
スクールカーストで言えば3軍だった。
それは世界が変わってしまっても、変化は無かった。
何者にもなれない俺たちは、ただのモブとして淡々と生きてきた。
しかし俺たちにも夢はできた。
そう、覇王様のように、美少女ハーレムを築くという男の夢を。
「やばくね?」
「ああ」
「俺たち場違いすぎる」
俺たちの母校であり現在の生活拠点である『東雲東高校』では、遠征隊の発表が行われていた。
なんでも前回の敵の大侵攻を食い止め、さらに敵の主力を覇王様が倒し、敵を弱体化できる施設を建造できた。
この好機を逃さずに敵を本拠地を攻める、ということらしい。
そして今は服部先輩、いや、服部領主が遠征隊の班を発表していた。
「学生隊、シルバー隊、忍者隊、それにママノエ教団……なんで俺たち、学生隊じゃないの?」
一番多いのが東雲東高校生たちの学生隊。
元気すぎる老人たちのシルバー隊。
最近人気のある忍者隊。
熱狂的な玉木さん信者である一般男性たちのママノエ教団。
俺たちモブ3人が所属するなら学生隊だと思うんだが……。
「「「なんで精鋭部隊なの……?」」」
いやなんとなく原因はわかるんだ。
「よろしくお願いしますね!」
「よろ……」
「よろしくー」
覇王様の花嫁三人。
それに覇王様を除けば学園トップ2の反町さんと九条さん。
避難してきた一般人組でも頭角を現している太陽さんと一華さんのバカップル。
太陽さんは付き合ってないとか言ってたけど、明らかにねぇ? 雰囲気がさぁ?
プラス俺たちモブ3人で合計10人の遠征パーティが組まれた。
服部領主はお留守番だ。
本人は行きたがっていたらしいが、満場一致で否決された。
通常の見回り班もいるし、領地に残って仕事をしている人たちもいる。 そういった人たちを纏めるのが領主の役目なのだと、論破されていた。
領主の仕事とかブラックすぎて絶対無理。
「「「よろしくっす~……」」」
なんで3軍の俺たちがこんな1軍パーティに。
おそらく服部領主との面談でちょっと調子に乗ったからだろう。
うん、あの時はガチャで最高レアが当たってテンション高い頃だったから。
「おまえたち、三人とも大剣か? ははっ、命知らずだな」
反町さんも大剣を使う。
普段は棍棒だが。
緊張している俺たちを気遣って声を掛けてくれた。
反町さんマジ漢。
「一華、水筒忘れてるぞ」
「ん、ありがと」
雰囲気がさぁさあ゛?
「玉木さんは別行動なんですね?」
「うん……逆ハーレム」
「玉木女王様、ぷっ」
なんだかこれから敵の本拠地を攻めようというのに、皆さん余裕だ。
「これが3軍と一軍の違い」
「俺たちもこれからだろ?」
「そうだぜ、コレはチャンスだ」
たしかに。
ここで大活躍をすれば、俺たちも人気者になれる。
かつての冤罪を晴らすチャンス。
苦しい日々だった。
やってもいないことで白い目を向けられるのは。
「ここで鍛えてお嬢様の彼女を作る」
「ここで鍛えてギャルの彼女を作る」
「「は?」」
悪友二人の意見が真っ二つである。
どうにも覇王様の結婚式で見た女子たちが気になっているらしい。
性癖は真っ二つだが。
「よっしゃ! 行くぞ!!」
「「「おっす!!」」」
反町さんの号令に俺たちは元気に声をだした。
アレか?
このポジションでいいのか?
モブスキル『空気を読む』を発動させ、パーティ内での立ち位置をなんとなく把握する俺たち。
反町さんを先頭に、俺たち三人、バカップル、花嫁ズ、九条さんと続く。
九条さん……一言も喋らないのだけど、怒ってます?
「……」
ポニーテールのスレンダー美人。
元々美人で有名な人だったな。
寡黙な美少女剣士。
校内新聞とかで取り上げられてて、女子が陰口叩いてたっけ……。
美人ってのも大変なんだな~と思った、なつかしい思い出だ。
進んでいく。
魔物が襲ってこないのが逆に不気味だ。
万屋の【猫の手】よりも先に進んでいくのは初めてだな。
「なんか……空気変わった?」
「ああ……」
重苦しい。
空気が体に纏わりつくような感じだ。
息苦しい。
他の人たちは大丈夫なのか?
「……っ」
ちらりと皆の様子を見る。
反町さんもバカップルもさっきりも真剣な表情で周囲を警戒している。
花嫁ズはいつもと変わらず。
九条さんから迸る殺気!
最後尾でそのプレッシャーはやめてください!
(ぁ……)
でもなんか重苦しかった空気は消えたかも?
「なにも出ませんね?」
「シンクが先行してるんでしょ?」
「うん……でも、広いから……全部は無理」
なるほど、覇王様が単独先行で間引いてくれているようだ。
しかし進んでいくと、魔物の足音と遠吠えが聞こえてきた。
野犬が近づいてきているのが分かる。
「くるぞ! 気合入れろッ!!」
「「「っおお!!」」」
いつもと同じだ。
野犬の魔物ならもう何十体、何百体と倒してきたんだ。
大丈夫、落ち着け!
「左右から、数……いっぱいっ!?」
ちょっと待ってぇええ!?
数百匹はいるのだけどっ!?
挟まれそうなんだけどっっ!?
「多いなっ!」
周囲は道路と田畑。
牧場のような場所もあるが、地の利を活かせそうな場所はない。
いきなり10人であの数を正面から相手にするのか!?
「大地の母よ、守護の力を、アースシールド!」
「『聖女の祝福』、神聖魔法……セイントブレス!」
花嫁ズから魔法が掛かる。
俺たちの体に魔法の光が灯る。
凄い。
力が漲る。
やれるんじゃないかって、勇気を与えてくれる。
「前衛っ、一匹も後ろに通すなよっ!」
「「「お、おお!」」」
俺は大剣『キュリアスクレイモア』を背から抜き放つ。
これはガード部分が長くまるで十字架のような大剣だ。
どちらかというと剣をそのまま長くしたような、バスターソードみたいな感じ。
悪友二人の持つ大剣の方が肉厚で太く大きい、ザ・大剣である。
「ほう、それが」
体が軽い。
ゲームのように武器自体に身体能力を向上させてくれる力があるようだ。
これなら、やれる!
「まかせてください!」
俺たちは左右から襲ってくる一方向を受け持つ。
逆側を反町さんとバカップル。
真ん中で花嫁ズが魔法を放つ。
彼女たちを守りながら戦うのが俺たちの役目。
「「「……」」」
万一俺たちのせいで彼女たちに危険が迫ったら?
――――覇王様に殺されるッ!
「命懸けで守るぞ!」
「「おお!」」
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