二百九十二話:


 程よい疲労感と開放感に吸う空気が美味い。


「ふ」


 昨日は圧勝であった。

 エロの権化たる玉木さん相手に珍しいことだ。

 やはりシチュエーションは重要だ。

 特に裸エプロンは良かった。

 新妻感あって。


「雨」


 まったりとピンク色の一日を過ごした翌日の昼。

 東雲東高校に戻ってくると、天気雨が降っていた。

 空は晴れているのにパラパラと降っている。

 ただなんだか普通とは違うようだ。


「甘」


 甘い。

 木実ちゃんの魔法の雨か?

 局所的に恵みの雨を降らせているようだ。

 ネペンデス君がわっさわっさと喜んでいる。

 それに畑区画の野菜たちもキラキラと輝いているようだ。

 超老人シルバーマンたちも麦わら帽子を取って全身で浴びている。

 恍惚の表情で拝むようにしているのでなんだかやばい宗教のようだ。


「ふむふむ」


 キュウリにナス。

 それに真っ赤なトマトが輝いているな。

 素晴らしい。

 根野菜の葉も順調に育っていそうだ。

 米はどうなんだろう?

 前回の野犬の襲撃で少しダメージを受けたみたいだが……。

 今年の分は備蓄で大丈夫という話だったが、来年が心配だ。

 東雲東高校にもそこそこの人数がいるのだから。

 水田の保護をせねば。

 お米大事。


「あ、シンク。 お父さんが『ネペンデス式トイレ』の件で話しがあるってさ」


「ん」


 ブラックホーンシャドウとまさかの変形合体を行ったミサ。

 今日はいつもの可愛いバニー服である。

 あの戦いの後からミサもブラックホーンシャドウを呼び出すことができるようになった。 かといって俺が呼び出せなくなったわけじゃないし、優先権は俺にあるのだが。

 適度にSP補充もしてくれているようで、都合も良い。

 ……シャドウバイブにハマらないか心配であるが。


「できたら服部先輩も連れてきて欲しいって」


「了」


「よろしくねっ」


 軽くキスをして去っていくミサ。機嫌が良さそうだ。

 しかし最初の頃とは全然違うな。

 あの頃はこんなに仲の良い関係になるとは思わなかった。


「ん?」


 いつのまにか手の中に兎のリモコンを握っていた。

 なにこれ怖い……。

 卵型の兎耳付きリモコン。

 ボタンが四つにコントローラーとかのスティック。

 なんだコレ。

 呪いのアイテム? 捨てても戻ってくる系ですか?


「ふむ?」


 試しにスティックをくりくりと動かすが……何も起きない。


『ふあ゛ぁ゛ーー!?』

 

 いや、校舎のどこかでミサの悲鳴が聞こえた。

 

「え?」


 次は四角いボタンを押してみる。


『シっ――――ぅう゛う゛う゛!?』


 次は丸いボタンを。


『ングゥうううううううううう!?』


 あ、コレ、あかんブツだ。

 どうして急に俺の手元に現れたかしらないが、おそらくブラックホーンシバニーの熟練度が一定数に達したんじゃないだろうか。

 変身合体の次は遠隔操作とは、ミサはとんでもない進化を遂げたぞ!


「やば」


 猛スピードで走ってくる気配を感じる。

 

 兎型リモコンはガチャ装備のように出し入れ自由なようだ。

 パッと消して俺は怒られる前にずらかる。


 ブラックホーンリアで宙を駆け抜け、見えてきた巨大な城壁を飛び越える。

 前回の戦闘の跡は酷く、建物はほとんど全壊している。

 こうなっていしまうと、修復はされないだろう。

 多少の傷だったら直るのも不思議だが、まぁこんな世界になってしまったので気にする方が負けだ。


「うわ」


 水田がめちゃくちゃだ。

 領地を拡大して城壁で囲む範囲も広くしないとダメだな。

 ガチャで魔石や素材を大量にゲットできるようになれば、と思うが、今のところの身内のところしかないからな。

 そういえば駐屯地のガチャはどうなったかな?


「へえ?」


 ガチャマスターのマスター画面を開くと、各ガチャの収益が見れる。

 思ったよりも駐屯地に設置したガチャの収益が多い。

 ああ、そうか。

 あそこはあまり【猫の手】を信用していない、というか距離が遠いんだよね。

 橋を越えてこちらにくるか、もしくはショッピングモールのほうまで行くかだ。

 どっちも往復したら1日仕事だ。

 それに大量の交換品を持って行くのも大変だし、交換すればさらに物資は増えてしまう。 大人数での遠征になるだろうから、移動は遅くなるし敵との戦闘も多くなるだろうな。 そう何度もできることではないだろう。


 つまり余っていた素材も魔石も多かったと。


「ふむふむ」


 お得意様ではないですか。

 お互いにWinWinな関係である。

 そうだよねぇ、やっぱり商売はお互いに得しないとね?


 たとえ沼に嵌っても、ガチャってそういう物だからさ!


「おぉ……」


 さらに進んでいくと、戦闘の跡が激しくなる。

 俺と炎の魔人の戦闘跡だな。

 爆発したような地形とまっすぐに焼かれたアスファルト、それに扇状に広がる超広範囲の刈り取られた光景は異常だ。 ダアゴン戦を思い出すレベルのぶっ壊れ具合。

 事実、魔王戦以上の苦戦ではあった。


「いないね」


 野犬の姿は見えない。


 偵察の役目も果たしているだろう野犬がいないとなると、ひょっとしたら強奪されているのにも気づいていないか?


「く、くく……」


 エンチャント工房を少し試してから狩りに行くとするか。


「くははははは!」


 美味しい狩場はしゃぶり尽くさないとね。


「あ」


 葵も連れて行ってご機嫌とりしよう。

 まだ部屋から出てこないのだ。

 いっぱい経験値稼がせたら機嫌直らないかな?

 ガチャも引かせて魔法少女装備を充実させてもいいね。きっと喜ぶ。


 何か良いSSRでもないか見てみよう。



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