二百八十九話:栞ちゃぁああああああん!!
一週間のハネムーン。
そのうち5日間を沖縄本島奪還作戦に取られた俺たちは帰ってきた。
「ありがとうございました、シンクさん。 久しぶりに、ほんとうに楽しいひと時でした」
なかば無理矢理に連れ出してしまった栞だったが、出発前とは表情が異なる。
たくさん休めた、いや、戦いまくってたけど……。 新たな武器防具を手に入れ自信はついたんじゃないだろうか?
沖縄本島奪還作戦を見事に果たした。
しかも主戦力として。
その成功体験が彼女に自信を与えたんだろう。
「ここを、私なりの方法で治めたいと思います」
やる気に満ちてますね。
やっぱりバカンスは大事だ。
定期的に休暇に連れて行かないとな。
「ではガチャの設置をお願いしますね」
「うむ」
栞と話し会った結果、お嬢様学校でもガチャを数台設置することにした。
各種武器ガチャ、防具ガチャ、生活雑貨ガチャと色々だ。
アイテムを得ることも重要だが、これは息抜きになると。
日々戦い、厳しい生活に耐えるには息抜きが必要だと、彼女は体験し理解した。
決してガチャ沼に嵌ったわけじゃない、……じゃないよね?
ここは良い領地になるぞ。
ネペンデス君も派遣して生活環境も整えてあげないとな!
「っ! これは……!?」
「……」
『監禁王の洋館』の疑似転移で戻ってくると、お嬢様学校は騒然としていた。
ツインテ領主代行の悪政のせいではなく、現在大量の魔物が押し寄せてきているようだ。
時刻は0時近いだろうか?
アンデットたちがもっとも勢いづく時間帯。
「……帰ってそうそうですね」
「うむ」
慌ただしい生活が戻ってくる。
二人でクスっと笑い合い、武器を手に取る。
「ありがとうございます、シンクさん」
彼女の長い黒髪を撫でる。
その装備はガチャで出たタイトズボンとロングブーツに肩だしベスト。
凛とした彼女によくに似合うカッコイイ系。
制服姿も可愛くて良いけど、彼女はどちらかといえばクールビューティが似合う。
「行きます」
まるで翼のような弓、SSR『黒風蘿月』の能力に浮遊があるようだ。
漆黒の空に浮かんでいく。
狙撃ポイントに向かうのだろう。
「ふむ」
俺も『ブラックホーンシャドウ』に乗り外へと出る。
正門と裏門に敵が集中している。
黒いスケルトンの数が異常だ。
というかアレは……。
いつぞやの砦の重戦士アンデット。
エポノセロスの性能実験をしていたときに調子に乗って砦にちょっかい出したら出てきたヤバイ奴。
しかもなんだかあの時よりも強くなっている気がするぞ?
「おお?」
なんか凄い黒羽根の束、まるで大きな鳥のように落下していく。
リョウの新技かな?
派手だねぇ~!
『ロックオン……』
栞の声が静かに響く。
どうやらスキルの発動に必要なトリガーのようだ。
『星河光天』
超長距離広範囲同時狙撃。
【千里眼】『一ノ瀬 栞』の新スキルが全ての敵を狙撃する。
無数の光の矢が闇夜を明るく照らす。
この技マジでカッコイイんだけど?
『みなさん、ただいま戻りました』
悠然と空に浮遊する栞。
その手に持つ黒風蘿月はスキルの影響か輝きを放っており、光の翼が腰元から生えているようだった。
戦闘中だった人たちは何が起こったか理解するのに数秒、そして助かったことに安堵の咆哮を上げる。
なんだかおじさんたちも戦闘に加わっていたようで、野太い声が響いた。
「栞っ! ――遅いぞッ!」
「栞ちゃぁああああああん!!」
「栞お姉様!!」
みんなボロボロだなぁ。
ツインテの領主代行は大変だったろうな、2,3日の予定だったのに、1週間だからね! ご愁傷様でした。
まぁ栞のありがたみを再確認できただろう。
この圧倒的な神スナイパー指揮官領主様に信仰心を捧げよ。
『シンクさん』
「承知」
栞の狙撃でも倒せていないのが数体。
重戦士のアンデットに、メイジっぽいアンデット、それに蝿のミュータントもいるな。
「『デックイグニス』!」
炎獣が宙を駆る。
合わせて『ブラックホーンシャドウ』で彼我の距離を詰めていく。
その間も栞のチャージショットが飛んでいく。
相手の射程外からの超強力な一撃。
重戦士がメイジの前に出て射線を切る。
それを見た栞はミュータントへと狙撃を集中させる。
「おらぁ!」
蝿を使うミュータントも周囲にゾンビも人間もいないせいか回復力が発揮できないようだ。
狙撃で腕を肩を脇腹を穿たれて、無防備になった背中のクリスタルを破壊する。
『GUUUUUUUU!?』
瞬殺。
協力無比な援護はかつての苦戦が嘘だったかのように瞬殺を可能とした。
「ベルゼ君! 気をつけろっ! 足を取られる!」
おそらく重戦士の守るメイジの魔法だろう。
みんなの足を沼地が拘束している。
魔法的な拘束が強く力ではビクともしない。
時間経過か解除のアイテムが必要かわからないが、俺も前回死にかけた。
一定ダメージで解除かもしれないな。
まぁ『ブラックホーンシャドウ』で浮いているので問題ないのだが。
「む……」
後退していく。
簡単に撤退させるとでも?
「【
栞のチャージショットに、重戦士アンデットの足が止まっている。
メイジを狙うやらしい攻撃に思うように撤退できないようだ。
栞さんも逃がすつもりはないらしい。
はは、その硬そうな装甲ごとぶち抜いてやるよ。
「【
螺旋を描く二叉の投槍でぶち抜いてやる、と思ったのだが。
重戦士アンデットがその左手の分厚い籠手をこちらに向けると、その背後から無数の狼が発生する。 普通の狼ではなくアンデットの狼。
それは俺ではなく、周囲の沼地に捕らわれた人たちを狙って疾駆してくる。
やってくれる。
今、投擲してしまうと即座に対応できる手がない。
【
俺は【
オーバーキル。
足を捕られ動けない人達の前で爆発が起きていく。
「お」
巨狼。
やはりアンデットのそいつは乱雑な牙を剥き出しに涎をまき散らしながら襲ってくる。
『GYAAAAAAAAAAAAA!!』
濁声の雄たけびを上げて。
「――――『黒閃』」
大口を一刀両断。
巨狼は魔石も残さずに消えていく。
召喚獣?
でも前の魚頭の時は魔石は落ちたけどなぁ。
解せない。 しかも逃げられた。
「逃しました」
栞の千里眼でも見通せない領域へと逃げられてしまう。
深追いはやめておいたほうがいいだろう。
ふわりと栞が降りてくる。
「しおりっちゃあああああああああん!」
「わ!?」
ボロ雑巾のようなツインテが抱き着いてくる。
体中ボロボロで制服は焼け焦げ大破しツインテですらない。
見ればみんな同じようなボロボロ具合である。
「栞ちゃんがいないとダメだよぉおおおおおお!」
「美愛さん……」
「そうだぞ、栞。 もう本当に限界だから、帰ってきてくれ……」
栞さん大人気。
皆が泣きながら帰還を切実に願っていた。
いなくなって初めて大切さは実感できる。
やはり休暇は定期的にするべきだな。
「もう数字も会議もペンダコも嫌だよぉおおおおおおおおお!!」
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