二百八十四話:……待たせたね、シンク?


「「「「おおおおおおお!!」」」


 なんだ!?


 後方から黄色い、いや野太い歓声が上がった。


「「ミサちゃん!?」」


 玉木さんと木実ちゃんの驚きの声もだ。

 気になるが、目の前のメドドロンの猛攻を凌ぐので精一杯だ。

 ミサがどうした? なにがあったんだぁああああ!?


「ヴォ!ヴォ!ヴォッ!」


「つっ!」


 殴り合いを始めて3分は経つ。

 赤黒いオーラは消えるどころか、量が増えて攻撃は苛烈になっていく。

 『ブラックホーンナイト』の破損はSPを消耗して回復していけるのだが、『エポノセロス』の限界が近い。

 大破からの強制解除となれば一気に形勢が傾く。

 立体機動を駆使した戦い方のほうが有効かもしれないが、タゲが外れた時に後方を守り切れる自信はないぞ。


 やはりもう一人、前衛が欲しい。


「シンク」


 そう考えた俺の元に声が届く。


「お待たせ!」


 元気な陸上女子、臆病で怒りっぽく友達思いな、どこにでもいる普通の女子高生は覚醒した姿を見せる。


「――――ラピッドファイアッ!」 


「ヴォオオオオオオ!?」


 轟雷のような爆音と雷光がメドドロンの背後で発生した。

 爆発の背後、そこには一人の少女が立っている。

 いや、未来から来たのか?と尋ねたいくらいSFチックなメカ装備を着たミサなのだが。


(どうなってるの!?)


 ピッタリとしたバトルスーツだったはずが、白と黒それに青白いエフェクトのメカ装備に身を包んでいる。 とくに脚の装甲はほぼロボである。衣服は不思議の国のアリスのような白黒の可愛い服なのだが、ルームウエアで着ているような、少しデザインが違うけど。

 背中からメカメカしい羽というかウイング、ウサギヘルムも耳部分が大きくなっており合わせるとXのようなフォルム。

 左手には丸盾のような防具、そして右手に大きなガンランス・・・・・


「カッコイイ」


 めちゃくちゃカッコイイんだけど?

 これは男たちも野太い声で叫ぶよな。

 ガンランスにロボ装備とかカッコ良すぎる。


「ヴォォォ……!」


 『ブラックホーンバニー』にあんな機能が!?

 俺のナイトのように熟練度が溜まってスキルが解放された?

 いや、これは……相棒の魂を感じるッ!?


――――リィイイイイイイイイイイイイイ!


 甲高い馬の嘶きのような回転音を出しながら、ガンランスはガトリング銃のように銃弾を発射する。

 ものすごい数の銃弾。 弾丸の嵐だ、しかも魔法的な威力があるのか当たった瞬間に爆発している。

 さすがのメドドロンも脅威を感じたのか、両腕をクロスさせて防御態勢を取った。

 銃弾の雨にうたれ、歯を食いしばって耐えている。 爆発によるノックバックが反撃を許さないようだ。

 奴が纏っていた赤黒いオーラが消えていく。


「【炎貫紅槍ループロミネンス】」


 ミサが作ってくれたチャンスに答える為、俺は新たに得た固有スキルを発動させる。

 その固有スキルの発動と共に胸元が焼けるように熱くなる。

 【ベルセルク】を使った時と似ていた。

 渦巻く蒼炎に呑まれないように、【不撓不屈】の力を借りながら制御していく。


「……」


 一本の槍が顕現した。

 それは炎の魔人が扱っていた物とは少し異なる。

 蒼炎の槍。

 螺旋を描く二叉の投槍。


「【千棘万化インフィニティヴィエティ】」


 あまりの熱量に、持ったら手が溶けるんじゃないか?と心配になる。

 たぶん大丈夫だろうけど、【千棘万化インフィニティヴィエティ】を発動させメドドロンへと投擲する。


「「「――――っ」」」


 太陽が墜ちた。


「ヴォ――――――――」


 その蒼炎の槍の接近に気づいたメドドロンは双斧で迎え撃とうとするが、その武器ごと黄金の輝きすらも貫きメドドロンを貫通する。

 その瞬間、まるで太陽が落ちて来たのではと錯覚するほどの大爆発が巻き起こった。


「うわぁあ!?」


 あ。

 

「――――こらぁ! シンクーー!!」


 凄いな。

 爆発に巻き込まれたはずなのにもうあんな場所に移動している。

 ミサのあの装備は一体?

 『ブラックホーンシャドウ』の存在を感じるのだが。


 なにはともあれチャンスを作ってくれて感謝だな。

 あのまま防戦一方だったらちょっとまずかったかもしれん。

 猿人といい、メドドロンといい、魔物は火力特化が多すぎるんだよ。


 殺意高すぎ!



「――」


 油断した。

 膨れ上がる殺意に気づくのが遅すぎる。


「っ――――!!」


 たしかに貫いた。その後の大爆発。あれで生きているわけがない。

 その油断が、俺の回避を遅らせる。


「――――ギャルアアアアアアアアアアッッ!!」


 決死の一撃。

 たとえ殺されようとも、相手も殺してやる。

 狂戦士は狂った表情で大口をあけ、その鋭く尖った太い牙を突き立てんと大口を開けて襲い掛かってくる。

 もはや手に武器はなく逃がさんとばかりに両手を広げて、ただただ俺の首元に喰らいつかんと迫っていた。

 致命的な油断がもたらした絶望的な死の瞬間。


(っ、腕を犠牲に、いや蹴りで突き放すっ)


 無駄だ。

 種族としての体力の差以外に、決定的な体格の差が存在した。

 咄嗟的な力比べでは勝てるはずもない。

 前蹴りで距離をとるにはタイミングも体勢も悪すぎる。

 腕を差し出したところで捕まり首に牙が突き立つ。


(あきらめるなッ!)


 首元に凶牙が突き立った瞬間に敵の首をへし折ってやると、覚悟を決めた。

 また木実ちゃんたちを泣かせてしまうかもしれない。

 クソッたれと自分の愚かさを呪った瞬間。


 死の瀬戸際。


「うわぁあああ!!」


 兎の叫び声が聞こえた。


 【韋駄天・影兎】


 メドドロンの背後の影から、超速の機影が現れる。

 

「ラピッドファイアッッ!!」


 メドドロンの風穴に突き立つガンランス。

 ゼロ距離バーストが炸裂する。


「ヴォ……ォ……」


 倒れたメドドロンをロボの脚が踏みつける。


「……待たせたね、シンク?」


 まるでヒーローだ。

 煙と砂塵にまみれるミサがきらきらと輝いて見えた。

 少しかっこつけすぎである。


「……ふっ」


「あ、なんで笑うのよー!? そこは褒めなさいよーー!!」


 本当に助かったありがとうなミサ。


「ふぁ!?」


「?」


「いまっ、……気のせい?」


 良くわからんが、疲れた。

 まだまだ残党のオークは島にいるようだけど、『金双斧メドドロンの支配地域』から『闘争地域』に変化している。

 残りはゆっくりでいいよね……?


 俺たちハネムーンで旅行にきただけだし。


 


――――――――――――


お読みいただきありがとうございます。


ミサのメカ装備のイメージが伝わりづらい……


白黒アリス服+ISみたいな感じです……脚部装甲デカめの('ω')

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