二百八十三話:†
メドドロンの体から赤黒いオーラが吹き上がっている。
「ヴォ!ヴォ!ヴォォオオオッッ!!」
「ぐっ!?」
迸る殺意が塊となって襲ってくる。
攻撃の威力は上がり、攻撃速度も上がっている。
だが隙も多くなった。
バーサーク状態か?
攻撃は乱雑だ、カウンターを入れるチャンスなのだが……。
「ちっ!」
しかし黄金の輝きも健在で、強固な守りが無防備に見える攻撃を可能としている。
下手に手を出せばこちらが負うダメージのほうが大きいだろう。
ダメージレースでは不利。
ポーションと木実ちゃんの回復を貰って五分といったところ。
いや、やはり体力面で不利だ。
「ヴォオオオオ!!」
「っ……」
耐える。
バーサーク状態に終わりがあるかはわからない。
だが耐える。 強烈な攻撃に腕が痺れ、殴られた箇所が熱を帯びるように痛む。 ギリッと歯を噛み締め、反撃を我慢し敵を睨みつける。 暴風のような攻撃にも、俺の心は決して折れない。
「ぐっっ!」
エポノセロスが伝えてくれるから。
俺の背後の護る者たち。
そして頼りになる仲間の存在を。
「やぁ!」
影が走っている。
一瞬でメドドロンに肉薄し、蜂のように刺し、兎のように飛びのく。
うん、効いてはいないな。
だけどあの臆病だったミサがこの強烈な殺気の中に飛び込んでくる。
成長したなぁ……。
「はぁっ!!」
ダメージは無くとも、気は反れる。
反撃の機会を得る。
ただ耐え続けるのは厳しい。
少しでもこちらも攻撃を返す、しかし決して無理はしないように。
チャンスを待て。
玉木さんの魔法が敵の動きを止め、栞の矢が敵を穿ち、木実ちゃんの魔法が俺の傷を癒してくれる。
う~ん。
これぞボス戦って感じでテンション上がってきたぜ!
葵がいないので防御に不安はあるが、どうやら脳筋タイプらしい。
「らぁあああ!!」
「ヴォッ!!」
あとは何か突破口を開ければ――――
『――――――――****ッッ!!』
そう考えていた俺の耳朶に、魂の叫び声が飛び込んできた。
◇◆◇
『鹿野 美咲』の特殊ジョブ【ランナー】は走ることに特化したジョブである。
「くっ!」
元から所持している固有スキル【韋駄天】は俊敏の強化、それに敵を追う際に速度上昇のバフが掛かる。
ジョブスキルも走力を強化し、基本スキルでも脚力や敏捷を強化していた。
ちなみに彼女の持つ【スキルホルダー】はもっとも早くスキルを10個集めた者に贈られる称号である。
性格故か、特に気にせず使えそうなスキルを取った結果だった。
ミサは神駆に次ぐ称号の保持者である。【走者】の称号は走りを強化してくれている。 【蒐集家】の称号は大量の素材と魔石を回収した結果だ、『SR以上排出率UP(3日)』の時の乱獲祭にてゲットしている。 効果に神駆が嫉妬していた【アイテムボックスLv.1】の獲得がある神称号である。
(硬すぎるわ……!)
ミサは速度を活かし果敢に攻める。
殺気を放つ怪物に飛び込むのは勇気がいる。
しかし神駆と共に戦い続けた経験が、ミサを精神的に成長させている。
槍術スキルで強化した槍がメドドロンに突き立つが、その黄金の輝きを放つ体毛に弾かれる。
メドドロンが背を振り返る前にバックステップで離脱するミサ。
死角からの攻撃であったにも関わらず、まったくダメージを与えることができない。
攻撃が弱いのだ。
残念ながら武器、それにスキルレベルがメドドロンと対峙するには釣り合っていない。
唯一防具はブラックホーンバニーを着用しているため釣り合っているだろう。
バックステップに合わせてSFチックなバトルスーツが動きをサポートしている。
敵が攻撃するよりも早く離脱することを可能としていた。
「シンク……!」
歯痒い。
赤黒いオーラを吹き出すメドドロンの猛攻に耐える神駆。
防戦一方の彼を助けるべく、臆病なミサが果敢に攻めるも決め手に欠ける。
どうすれば彼の役に立てるのか?
彼を護りたいと、ウサギヘルムの下で唇を噛みしめる。
「え?」
ミサが真剣に悩んだ時、声が聞こえた気がした。 どこかで聞いたことのあるようなないような声。
そしてバトルスーツを流れる青白いラインが下腹部へと流れ集まり渦を巻く。
熱い。 下腹部から熱が渦を巻く。
それに誰かがやはり呼んでいる。
叫べ。叫べ。腹の底から叫べと。
『私を呼べッ!!』と。
強い絆を感じた。
「――――
彼女の叫びと共に。
甲高い馬の嘶きと共に、漆黒の機械馬が顕現する。
――――リィィイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!
漆黒の光粒を発する『ブラックホーンシャドウ』が『ブラックホーンバニー』と重なる。
二つの装備は黒い光の粒子となり混ざり合っていく。
「んん゛ん゛っ!!」
主を護る為、今、――最速の二人は合体する。
「……シンク、今度は私が駆けつけるわ!」
【裏†兎】《ラバーバニー》降臨ッ!
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