二百八十二話:VSメドドロン
斧、戦斧、ハルバード。
「ヴォオオオオオオオオオオオオオッ!」
どれとも言いづらい二振りの武器。
部下を討たれ単身突貫してくる怪物の持つ武器が黄金に輝く。
茶色と赤の体毛はその黄金の輝きを受け取るように、淡く光っている。
「デックイグニス!」
まるで速度オーバーの暴走するトラックが迫るような重圧。
俺は長剣を振るい炎獣を敵へと向ける。
「――ォオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「っ」
炎獣と衝突し炎の柱が上がるが、怪物……まぁメドドロンであろうは無視して突っ込んでくる。
その体は無傷。 体毛が焦げることも武装が傷つくこともなく、勢いすら落とさず。
むしろ怒りの形相でさらに速度を増してくる。
「ウィンドフォース!」「セイントブレス!」
後方から支援の魔法が掛かる。
玉木さんの風属性のバフが体を軽くしてくれる。
木実ちゃんの聖属性のバフが力を漲らせてくれる。
「あ」
いつもなら葵の土属性バフが体を保護してくれるのだが。
今はちょっとお仕置き中でいないんだった。
しまったな。
早く帰って解除してあげないと。
「――――リィアッッ!!」
「ッ!?」
嘘だろぉ!?
走る勢いそのままにメドドロンは両手の戦斧を投げつけてくる。
投げるタイプの武器には見えなかったが、柄の部分の長さは変化し斧くらいになっている。
黄金の軌跡が俺を一直線に捉えていた。
「エポノセロス」
大楯を換装すると、背後が良くわかる。
回避はできない。
着弾時の影響がわからないから、斜線上にいる味方が心配だ。
「『デックブルワーク』!」
詠唱と共にブラックホーンナイトから漆黒のオーラが溢れ出る。
大楯ごと包み込み、敵の攻撃を防ぐ。
轟音と激しい衝撃は大楯から伝わってくるが、漆黒のオーラが衝撃を周囲へと流す。
二発目の斧も防いだところで、足止めされていたのだと気づいた。
「ガアアアアアアア!!」
「らっああああああああ!!」
長剣と戦斧が、大楯と戦斧が、何度とぶつかり合い火花を散らす。
咆哮をぶつけ合うように、メドドロンとの近接戦は開始される。
「ぐっ!?」
リズムが掴みづらい。
相手の武器を見れば、その長さは瞬時に変化を繰り返す。
柄の長さを自在に操れるようだ。
それに武器自体の大きさと重さも。
まるで如意棒のような戦斧である。
(戦いずらいっ!!)
両手に持った斧に突き飛ばされ、距離が開いたところに柄の長さを活かした戦斧の強烈な斬撃が襲い掛かる。少しでも距離を取れば斧を投げつけてくるし、まるで複数の武器を持つ戦士団を相手にしているようだ。
「ぬぅん!!」
「ガァアッ!!」
黄金と赤が交わる。
ブラックホーンオメガを全力展開した力比べは辛うじて引き分ける。
エポノセロスによる防御も『デックブルワーク』によるバフで引き分け。
発生する衝撃波のダメージはなさそうだな。
メドドロンの体を纏う黄金の輝きが守っているようだ。
「ォオオオオオオオオオオオ!!」
「っ!」
しかし、やはり体力は相手のほうが上だ。
無尽蔵の体力で、双斧が振るわれ続ける。
いやこれは……。
(速度が上がっている!?)
嫌な汗が流れる。
暑さのせいではない。
魔法的な防御耐性、無限とも思える体力、遠中近を可能とする双斧、さらに攻撃速度の上昇と相手の実力の底が見えない。
炎の魔人。
「オオオオオオオオオオオ!!」
あの第二形態を思い出す。
死にかけたトラウマが脳に警報鳴らす。
凶暴性の中に見える戦士の確かな実力。
ただの怪物じゃない、歴戦の狂戦士の風格。
なによりガチャマスターとしての本能が、その双斧のポテンシャルを理解する。
まだこの敵は何か力を隠し持っていると。
「「――――『水精蛇』《ミズチ》!」」
木実ちゃんと玉木さんの交わる声。
二人の花嫁による合体魔法。
俺は急ぎメドドロンから距離を取る。
水刃を伴うエメラルドの水蛇は宙を舞い奴を呑み込む。
「『星霜光矢』」
足を止めた所に栞の正確無比な狙撃が炸裂する。
天から光の矢が水流に呑み込まれる敵を正確に打ち抜く。
(やったか……?)
水蛇の顎に噛まれ水刃に刻まれ光の矢で打ち抜かれた。
はたして、無傷のメドドロンが憤怒の形相で立っている。
「ォオォォ」
体毛を覆う黄金の輝きの下。
その怒りを現すかのような。
「――――ヴォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
赤黒いオーラを吹き出しながら、メドドロンの反撃が開始された。
◇◆◇
領主代行を仰せつかったツインテは黒穴撲滅遠征を提案する。
「無茶だろ!」
「そうですわ、お姉さま!」
「栞もいなし、シン兄ちゃんもいないんだよ!?」
しかし反対意見多数により否決された!
「ええー!? でもさ、黒い穴放っておくとマズくない? どんどん増えてるし、黒いの。 一匹みたら百匹はいるって言うよ!?」
「ゴキブリみたいに言うな!」
「穴だって放っておくとどんどん広がって痛い痛いになっちゃうよ!?」
「虫歯みたいに言わないでくださいませ!」
わいわいと騒がしい会議だ。
「うーん……たしかに、一理あるかも? ゴブリンも増えてるんだよね……! あいつら一匹紛れ込むと気づいたら百匹くらい増えてるから!」
『ゴブ・即・斬』を信条とするリョウはゴブリンを駆逐したい。
栞による千里眼の監視体制が無くなった為、どうしてもゴブリンによる侵入を阻止できない。
やつらは狡猾で残忍で厄介なのだ。
女性の多いお嬢様学校では特に警戒している。
捕まった女生徒の末路は考えたくもない。
「もうそろそろ帰ってくるだろ。 ……帰ってくる、よな?」
「栞お姉様なら帰ってきますわ!」
「まぁそうだと思うんだが……。ああいう真面目なやつほど、男に惚れると面倒だろ?」
「う……」
今まで真面目過ぎるほど働いてくれていた。
その頑張りに報いてこれていただろうか?
なんだかんだと文句をいってしまう、文句というほどでもないが、愚痴のような。
特に美愛は迷惑をかけていた。
「うわぁああん! お願い栞ちゃんっ、早く帰ってきてぇええええええええええええ」
すっかりペンダコも硬くなった美愛は切実に願うのだった。
そろそろ時刻は夕暮れを迎えようというときだ。
会議室のドアを勢いよく開ける生徒が現れる。
「報告します! アンデットの軍勢襲来! 黒個体多数確認しました!」
いつもより早い。
さらに廊下を走る音と共に生徒が息を切らせて走り込んでくる。
「ほ、報告! ゴブリンの襲撃をっ、確認! 大型特殊個体を引き連れていますッ!!」
「「「っ!?」」」
同時襲撃。
間が悪い。
まるで示し合わせたようなタイミングで、異常事態は起きる。
「誰か日ごろの行いが悪い奴がいるんじゃないか?」
「「ジー」」
「なんで私を見るのッ!?」
『神鳴館女学院付属高校』に危機が迫る。
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