二百八十話:この波を逃すな! ついにキタ! 銀の輝きッ!!

「あへへへ……♡」


「……大丈夫ですか、ミサさん?」


 おーい?と尻天するミサに声を掛ける栞。

 しかしトリップ中の彼女からの返事はない。


「やりすぎでは……?」


「うむ」


 『うむ』じゃありません。と怒られる。

 俺のマネをする栞が可愛い。

 ブラックホーンバニーによる裏バニーSP補充は危険なのだ。

 スーツと黒光りする宝玉によって感度を何倍にも増幅させられてしまうから。

 その分溜まるのも早いのだが。

 あまりやりすぎると廃人化しそうである。


「ガチャを回してもいいですか?」


 ふふ。

 順調にガチャ沼にはまりつつある栞さん。

 お嬢様を底なしの沼にご招待するとは、なんと気持ちの良い。


「うむ」


「ありがとうございます!」


 ペンギン型ルームウェアを着た彼女は嬉しそうに微笑む。

 どこか気合も入っているようだ。


「皆さん本当に凄いです……私も強くなりたいです、シンクさん」


 『皆さん』というのは、花嫁sのことだろう。

 

 いつぞやの救出作戦の時とはまったく違う、頼もしい彼女たちを見て栞はどう思ったのか。

 

(栞も十分凄いんだけどな)


 【千里眼】もそうだが弓の腕も凄い。

 念話による広範囲指示統制。長距離射撃に、スキルを使った超長距離射撃とぶっ壊れ性能なんだけどね?

 課題は継戦能力と範囲殲滅であろうか? 万一に備えて身体能力の強化と防具強化、それに武器の新調も必要だな。

 

 ガラガラと筐体の中のカプセルが動く。


「ああ……白です」


「……」


 ラック値もどうにかならないだろうか?

 

 こちらに来てからもずっと回しているのだが、一向にSSRを引ける気配がない。

 まぁ0.002%だしね。

 よほどのガチャ運がないと難しいだろう。


「次こそ……!」


 物欲センサーが反応している。

 無心だ。

 無心で回すのだ。


「ぁっ」


 ガチャから意識を外させる為に、栞のペンギン型ルームウェアの触り心地を堪能する。

 

「し、シンクさん?」


「回す」


「は、はい」


 さらさらした手触りはひんやりと気持ちい。

 夏にぴったりのルームウェアである。

 葵は猫。ミサは兎。栞はペンギンとなんとなくイメージ通り……いや、ペンギンのイメージってなんだ?

 栞のイメージ……凛とした表情に艶やかな綺麗な黒髪、すべてを見通すような瞳。 

 皇帝ペンギン……?


「あ! 青きました!」


「うむ」


 Rではしゃぐ栞。

 ぴょんぴょんとペンギンフードが跳ねる。

 そしてSSRどころかSRすら引いていないことに気が付く。

 これは、先が長いぞ。


「シン……お楽しみ中?」


 たしかにお楽しみ中ではあるが。

 黒猫型ルームウエアを着た葵が現れる。

 今、監禁王の洋館にみんないるのだが、なぜかみんな自室にいない。

 玉木さんと木実ちゃんはお風呂にいるようだ。

 

「……まぜて」


「おふっ」


 猫は普段触るとツンとした態度なのに、他の猫を触っているとやけに近づいて体を擦りつけてくる。

 こいつは私のだぞと、マーキングしているのだろう。


「シンクさん?」


「続けて」


「は、はい」


 ガチャを回すのは時間が掛かる。

 特に筐体型だと。

 無心の境地に導くためペンギンさんの体を撫でていく。


「ジー」


「っ、っ」


 葵ちゃんのヤキモチ!?

 いつもより攻め手が際どいところをッ。

 あっ、そこはだめぇぇぇ!


「あっ、青ッ」


 連続Rと調子が良い。

 やはり物欲センサーを回避することが重要なのだ。


「この調子でどんどんっ、いきますっ!」


「うむッ!」


「ジー」


 俺が葵の魔手に耐えている間にっ、頑張れっ!

 ガラガラと回る筐体。

 くっ、いつもならドキドキと楽しみなその時間が長い。

 はっ、はやく!


「あっ、また青ですっ」


「あ、あおいっ!?」


 きゃっきゃと喜ぶ栞。

 それも当然か、三連続Rとノリに乗っているのだ、この流れを止めるわけにはいかない。

 俺が葵を食い止めている間にっ、引くんだ、栞ッ!


「はふっ」


「ッッ!」


 そこに舌ッ!?

 変態ロリニャンコの舌が入ってはいけない場所に!

 俺の動揺が栞に伝わらないように注意を払いながら、何度もガチャを回していく。

 まだか?

 まだなのかっ!?

 葵ちゃんの焦らしプレイのように、まだまだSSRは出ない。

 だがついにっ!


「シンクさんっ! いつもとっ、ガチャの演出が違います!」


 カッカッカッ!と光を発する筐体。

 ガタガタと大きく揺れ確定演出・・・・が入る。

 俺の膝も葵の禁忌の技によりガクガクにさせられている。

 炎槍の穂先は真っ赤に腫れあがり、寸前で止められすぎた影響か感覚がおかしくなっている。

 

「羽根です!」


 それは結婚式の会場でみた光景と酷似していた。

 SSRの訪れを告げる祝福の羽根が舞い上がる。

 銀の輝きが辺りを照らし出す。

 今回調整はバッチリで式場の時のような過剰エフェクトは起こっていない。

 ファンファーレと共に銀のカプセルが排出される。


「銀っ!!」


「んん゛ん゛!!」


 ついにキタSSRの大当たりに、大声をあげて喜ぶ栞。

 合わせるように葵の動きも激しく、ついに解放の時を迎えた。

 

「シンクさ――きゃあああっ!?」


 銀のカプセルから現れたSSR武器を手に、盛大に祝福のシャワーを浴びる栞であった。


「「「……」」」


 ボーっと惚けてしまった栞は床にへたりこみ。

 俺はソロリソロリと逃げようとする葵を捕まえる。

 少々やりすぎである。


「罰」


 イタズラにゃんこにはお仕置きが必要である。

 ついに監禁王の洋館の秘密の部屋を使うときがきたか。


「し、シン……?」


 思えば葵には色々と開発させられてきた。

 しかし知っているだろうか?

 やっていいのはやられる覚悟のある者だけだということを。


「シ――――」


 俺は葵を捕まえたまま、封印された秘密の部屋へと入っていくのだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る