二百七十五話:


 世の中には決して怒らせてはいけない人がいる。


「せっかくの……ハネムーンなのにッ!」


 それは……ハネムーン中の花嫁様だ。


「吹き飛び踊れっ――――ウィンドストームッッ!!」


「【水の理】、『聖女の祝福』……」


 聖銀のネックレスはエメラルドの輝きを放つ。

 そして玉木さんの起こす暴風嵐に、木実ちゃんの魔法が上乗せされる。


嵐水神イウェニアッ!」


 水刃を加えた嵐が複数に分かれ魔物の群れを蹂躙してく。

 ここは沖縄本島。

 俺たちが旅行にきた島からさほど離れていない。

 

「ぅ……!?」


 沖縄には神の降り立った島々が複数あるのだという。

 そのうちのニライカナイに繋がる聖地『神の降り立つ島』にて信心深い島民たちに担ぎ上げられ沖縄本島奪還作戦へと向かった俺たち。


 うん、どうしてハネムーンで来ただけなのに魔物退治に駆り出されるんだろうね。


「アマミキヨ様……」


 瑞那さんが木実ちゃんをみてぼそりと呟く。

 神聖魔法を使ったせいか女神のように彼女は青く輝いている。

 ちなみに瑞那さんは接待してくれた女性で日本語ペラペラだ。

 信心深いのか、木実ちゃんをうるうるとした瞳で見ている。

 服装もドレスではなく剣と盾を持った部族衣装だ。


「皆さん、凄く頼もしくなりましたね……」


 ミニオーク・・・・・の軍勢を蹂躙する花嫁様たち。

 ただ栞は成長した彼女たちを見るのは初めてで驚いている。

 東雲市街地奪還作戦以来だもんな。

 みんな、あの頃とは別人のように強くなってる。

 ゴブリンにビビっていた彼女たちはもういない。


「うむ」


 しかし、相手はミニオークか。

 海を渡ってこっちまで勢力を伸ばしているのか。

 だけど……。

 メニューには『金双斧メドドロン支配地域』となっている。

 手下が同じミニオークなだけで違う魔王なのか?


「ん?」


 ミニオークたちを倒して進んでいく。

 沖縄っぽい植物の成る石畳。

 その先に、鮮やかな赤色の門が見えてくる。


「『守礼門』ですね」


「へー?」


「なんて書いてあるの?」


 門の周囲に人の気配を感じる。

 その奥にもたくさんの気配だ。


守禮之邦しゅれいのくにと書いてあります」


 ここが沖縄本島奪還作戦の本拠地か。


「ふぅ……」

 

 集まってくる人の多さ。

 その真剣な表情と熱量に、中途半端では終われない予感を覚える。

 長い戦いになりそうだな。 

 しかしそうなると困ったな。

 2,3日くらいだと思ってツインテなんかに任せてきてしまったけど、栞だけでも帰すべきか?

 しかし。


「シンクさん」


 いやぁ。

 燃えてるなぁ。

 

「成功させましょうね!」


 彼女はクールに見えて一番熱いんだよな。 




◇◆◇




 『金剛王牙カリュドン』魔王の自室。


「ケルベロス、不死王、ゴブリンの魔王に、ヒューマンのブラックナイト、それに……メドドロンの離反か」


「なっ、メドドロンが!?」


 幹部による侵攻報告会。

 順調な侵略を進める魔王に、想定外の問題が報告された。

 腹心の離反である。


「なぜそのようなバカなことっ!」


 怒り狂う猿人。

 同じ魔王に仕える腹心の裏切りに、感情を抑えきれない。


「……」


 魔王ランキングの順位が相当に下がっていた。

 現状ではただの数字でしかないが、今後どうなるかはわからない。

 黒の魔皇帝、いや黒の魔神の予言した一年後にはきっとなにか起こるのだと、カリュドンの感が告げていた。


「損失はデケェ」


「!」


 召喚に際して使用したリソース。

 さらに与えた武装に使用したものもそうだし、引き抜かれた部隊の損失もある。 

 だがカリュドンは笑った。


「く、くくく。 やっと面白くなってきたじゃねぇか」


 鋭い牙を剥き出しに、愉悦の笑みを浮かべる。

 太く鋭い金剛の逆牙がキラリと光った。


「笑い事じゃねぇよ、大将」


「そうですぜ。 奴は大将を『魔王の器じゃない』と抜かして去っていたらしい。 今すぐ追い詰めてぶっ殺しましょうぜ?」


 大きな体全体で豪快に笑う。

 仲間に裏切られたというのに、その姿は本当に愉快そうだ。


「魔王の器じゃねぇかぁ~! たしかになぁ」


 魔皇帝位争奪戦。

 それは魔族最大のお祭り。

 魔界全土の魔王、及びその眷属たちが集結する。

 

「俺は魔皇帝に就く者だからなぁ!!」


 血沸き肉躍る、はた迷惑なお祭りであった。




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