二百七十四話:

 生徒会室にて美人メイドさんとお嬢様が話し合っている。


「水源問題もあります。 男性戦闘員の方が増えましたので、ロッカールームとシャワールーム、それに武具の調整など考えなければいけません」


「えー? 一緒で良くない?」


「良くありません」


 美人メイドさんの圧力に、上唇と鼻先で挟んでいたペンを落とす領主代行。

 数日のやりとりで領主代行が様になって……こない。

 剣術馬鹿は剣術馬鹿でしかない。

 

「書類はちゃんと目を通してサインしてください。 ほら、ここの計算が間違ってますよ?」


「目がチカチカしてみれないよ~」

 

 魔石と素材の収支報告書。

 こんな日報なんてつける意味あるのだろうか?

 美愛は机にだるそうに体を預ける。

 長いツインテールがとぐろを巻いている。


「栞お嬢様がいらっしゃらないので、集会を開いたほうが良いかもしれません。 皆さんも不安がるでしょうし」


「えー、ホームルームって嫌い」


「好き嫌いの問題じゃありませんよ?」


 美愛のツインテールをほどき櫛をいれる美人メイドさん。

 ろくに手入れをしていないのに、やけに艶やかな長い髪。 さほど手間もかからず綺麗なツインテールに戻った。


「夏ですから少しはケアしたほうがいいですよ? ……相変わらず必要ないくらいに艶々ですね」


「あぅー」


 頬をつつかれて弄られた。

 窓の外から夏の虫の音が聞こえてくる。 風も入ってくるが、むわっとしていて疲れた脳のクールダウンには向かない。

 ベルゼ君の別荘に行きたい。 そう思いながら美愛は視線を動かす。

 猫のような大きな瞳が美人メイドさんに向けられた。


「伊織さんは、もうフレイヤ隊には参加しないの?」


「はい。 皆さんにご迷惑をおかけしてしまいますから」


「そんなことないと思うけど……」


「栞お嬢様のサポートも必要なことです」


 それは確かに、と領主代行は仕事量の多さに頷く。


「栞ちゃんの負担を減らしたいけど、どうしたらいいんだろう~~」


 自分のことしか考えていなかった少女の変化に、美人メイドさんが微笑む。


「一緒に考えましょうね」


「はーい」


 なんだかんだ文句を言いつつも、ペンダコを作りながら仕事をこなす美愛。

 今日は一仕事終えたら甘いお菓子でも出してあげようかと、美人メイドさんは準備するのであった。





◇◆◇




 新婚旅行2日目。

 

「あ! シネリキヨ様だ!」


 ああ、そういえば結婚後1か月以内の旅行はハネムーンていうらしいけど、新婚旅行でいいよね。

 前は一人で来たけど、今回は全員で来たよ。


「海っ――――綺麗ーー!」


「キラキラ……!」


 監禁王の洋館の疑似転移を使い扉から出ると、目の前にはエメラルドグリーンの海と白い砂浜のプライベートビーチが広がっている。

 

「しねっ……キヨ様! 今日は綺麗な女いっぱい!」


 死ね!?

 いや、ただ噛んだだけか。

 なんだかよくわからないが島民の人から『シネリキヨ様』とか『ヒヌカン』て呼ばれてるんだよね。

 まぁデックイグニスで魔物を焼き殺したからなんだろうけど。


「キヨ様、また遊ぼ!」


 前回来た時に砂の城を作った子供たちかな。

 わらわらと集まって来た。

 子供に好かれるとは俺も丸んくなったものだ、というかここの子供たちのキラキラした純粋な瞳が眩しすぎる。 なんなのこの可愛い生物ーー!

 


「やーー!」


「ミサっ、速い」


 魔物がいるかもって伝えたのに、ミサと葵が全力ダッシュで海に走っていく。

 いやまぁ、気配察知でいないのはわかるけども。 少しは用心しようね。


「わぁ……もう沖縄は来れないと思ってました……」


「私もです……」


 持ち込んだ物資で拠点づくり。

 木実ちゃんと栞が浮き輪を膨らませている。 木実ちゃんに関しては無くても浮きそうだが必要なのだろうか?

 シーパラソルにサンラウンジャー。 BBQ用の鉄板も用意してみた。 飲み水は沢山持ってきているけど、体を洗う用のシャワーとかほしいな。 ギャル高で出た噴水みたいなやつ。

 久しぶりにハウジングガチャでも回そうかな?


「ふふふ、海の家みたいじゃないかしら? 高校の頃にバイトしてたのよね~」


 それで玉木さんは鉄板焼きが上手なのだろうか?


 別荘というか秘密基地計画をここに発動しよう。

 監禁王の洋館のおかげで必要はないのだが、沖縄の海ってやっぱり憧れるよね。


「シネリキヨ様。 後で少し、お時間をよろしいでしょうか?」


 沖縄っぽい華やかなドレスの美人さんに声を掛けられた。

 綺麗系なのに可愛い、瞳の大きさとまつ毛の感じなのだろうか?


「うむ」


「ありがとうございます。 ではのちほど、おまちしております」


 スタイルいいな~と見送っていると。

 ジューー、と音を立てて醤油の焦げるいい匂いがしてきた。

 振り返ると笑顔の玉木さんがこちらを見ている。


「シンクくん。 さっきのは誰かしら~~?」


 笑顔だ。 

 しかし目の殺意は隠しきれない。

 浮き輪を膨らましていた二人もジロリとこちらを見ている。

 誤解ですよ。

 前回来た時にちょっと接待してくれた女の人です。 特に何もしてないよ!

 しかしこの空気は……。

 せっかくのハネムーンなのにマズいぞ!?


「シンクーー! ウェイクボードやろうよぉー! 引っ張ってーー!」


「シン……遊ぼ?」


 俺は逃げるように『ブラックホーンシャドウ』を出して海を走る。

 荷台に『ウロボロスカフ』を取りつけ、もう片方をミサが持つ。

 その足にはスノボーのような、短いサーフボード。


「ははっ!」


 シャドウを海上で走らせればミサも引っ張られて海の上を走る。

 波を飛び越え回転しながら水しぶきを上げている。

 さすがのバランス感覚だ。


「次……私も!」


 はたして運動音痴の葵はできるのだろうか?

 メタルマジックハンドでサポートしつつ、二人は波乗りを楽しんでいる。


 

「もう。 別に怒ってないのよ? シンク君には」


「……玉木さんは、いえ、なんでもないです」


「ん、遠慮しなくていいのよ? お互いシンク君を支える妻なんだから」


 玉木の世界の中心は神駆である。

 その神駆を支える妻は大切な仲間だ。 手を取り合って神駆を囲むのだ。

 だから遠慮なんていらない。


「本当に、シンクさんが大切なんですね」


 神駆の力を目当てに近づいてくる女から彼を守るのだ。


「ふふ、みんなもね?」


 だからだろう。


「シネリキヨ様。 どうか沖縄本島奪還作戦にご協力をお願いいたします。 どうか、なにとぞ……炎神様ヒヌカンのお力をお貸しくださいませ」


 後で話しにきた島民たちの言葉に、玉木は少し冷たい微笑みを向けてしまうのだった。




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