二百七十一話:神鳴館女学院付属高校

「栞」


「~~っ」


 彼女の名前を呼ぶと俯かれた。

 顔を真っ赤にして照れている。

 いつもの凛とした彼女とのギャップを可愛いと思ってしまう。


「……シンクさん」


 美人メイドさんに部屋に通してもらった時は凄い疲れていそうだったが、血色は戻ってきたかな?

 働きすぎなのでは? 休暇は必要だと思うんですよ。

 ソファで隣に座り、彼女がぽつりぽつりと喋るのを聞いている。

 領主になることへの不安か。

 

「私、もっと頑張らないとですよね」


「……」


 真面目か?


 しかし信仰心か。 

 普通に考えたら感謝してると思うのだが……。

 東雲東高校との違いは、明確なシンボル?


 お嬢様学校だと戦闘面はほぼ生徒でやってるんだよな。

 避難してきた人たちにも生活面で手伝ってもらっているみたいだけど、一度戦わせたらいいのでは?

 そうすれば生徒たちの大変さも、凄さもちゃんと理解できるだろ。


「あ……」


 こんなに頑張ってるのに、理解されないのはしんどいだろうな。

 俺だったらブチギレてるぞ。


「ん……」


 痩せてる。

 ちゃんと食べてる?

 あー心配すぎて監禁したい。

 監禁王の洋館の鍵も渡したのでいつでもすぐ会える。

 これで鍵は8個全部繋がる場所ができた。

 本来の使い方としては5人に渡したのが正解なのだが、移動チートとして3カ所に疑似転移できる。


「……安心、します」


 抱きしめていると体温が伝わったのか顔色が良くなる。

 いつもの笑顔に戻って来た。


「シンクさんの胸板」


「……」


 そういえば筋肉フェチだったな。

 うっとりとした顔で大胸筋を撫でる栞。

 しばらく好きにさせてあげよう。

 


「……ぁ」


 細い指先が伸びていく。

 グレートソードを振り鍛えられた前腕の筋肉。 服の上からでも分かる盛り上がった胸筋。 複数に割れた腹筋。 そしてその先、おそるおそると触れた。


「……硬い、んですね? ~~っ!?」


 言った瞬間、顔を真っ赤にさせる栞。

 なんだか反応が新鮮で楽しい。

 他の花嫁たちは玉木さんに毒されてきているから。

 えちえちも嫌いではないが、恥じらうお嬢様も好きです。


 あーやっぱり、栞が評価されないのはおかしいよね。

 いやされているんだろうけど、もっと全員から評価されるべき。

 それこそ女神として扱われるべきなのだよ。


「あっ、お姫様抱っこ……!」


 ひゃぁ、と顔を両手で覆う。

 お姫様抱っこに憧れてたのだろうか?

 しばし悶え両手を外すと、ぱちりと目が合う。

 

「……はい」


 意図が伝わったのだろうか。

 頷き胸に顔を埋めた彼女から甘い良い香りがした。




◇◆◇





 『仙道 美愛』は元気である。


「さーっ、今日も特訓あるのみ! 打倒ベルゼ君!!」


 起床すると水浴びをし剣の修行に入る。

 深夜までアンデット系の魔物を相手に剣を振るっていたのに、よく飽きないものだ。

 体の動きを確かめるように入念にストレッチを行い、まずは素振りだ。

 神駆から貰った刀を使いゆっくりと振っていく。

 イメージと体の動きに齟齬がないか確かめるように、ゆっくりと。

 

「ふぅ……!」


 大粒の汗が落ちる。

 激しい運動ではないが、もの凄い集中力だ。

 美少女の汗が胴着に染み込んでいく。


「美愛お姉様! 大変ですっ!!」


「ん? どうしたの、円ちゃん?」


「し、栞お姉様がっ」


「え、栞ちゃんに何かあったの!?」


 いつもであればレモンドリンクや濡れタオル持ってきてくれる『鳥居 円』が慌てて道場に飛び込んできた。

 その手には何も持っておらず汗だくである。

 ぺたりとおでこにつく前髪も気にせずに叫んだ。


「家出しましたわーー!!」


「ええええっーー!?」


 『神鳴館女学院付属高校』、波乱の一週間が幕を開けたのであった。



 栞の部屋に残された一通の手紙の前で、多くの者が額に手を当てていた。


『新婚旅行に行ってくるからあとよろしく』


「私も連れてって、言ったのにーー!?」


「だから黙って行ったんじゃないのか!?」


「美愛お姉様っ!」


「美愛……それはないよ?」


「私のせいーー!?」


 喧々囂々。


「筆跡は栞お嬢様のものではありませんね。 昨夜は神駆様がいらしていましたので、おそらくは」


「意外と字、綺麗なんだな」


「春子お姉様は汚いですものね」


「ああ゛!?」


 忍者修行のせいで達筆な神駆。

 『忍びいろは』をマスターしており天井に吊るした筆で綺麗に書くことも可能。

 ジェイソンの変態的忍者特訓の賜物である。


「い、いつ帰ってくるんだろう? 栞がいないと大変だよね?」


「あ? なんだリョウは栞がいないと不安なのか? 私が守ってやるから心配するな」


「ふぇ?」


「春子お姉様! 近いですわっ!!」


 中性的なイケメンであるリョウは薙刀部主将『戎崎 春子』のドストライクであった。

 背が高くがっしりとした体格の体育会系女子と、小柄で中性的なイケメンの組み合わせは犯罪チックである。 


「あ、裏にも何か書いてあるよ!」


 ぺらりと裏返すと、全員が息を呑んだ。


『なお領主代行はツインテに任せるのでよろしく』


 ツインテ。

 この場にはツインテールが二人いるが、神駆がツインテと呼ぶのは一人しかいない。


「「「ええーーーー!?」」」


 剣の神童『仙道 美愛』である。


「私っぃいいいいいいいいいい!?」


 なお生活力、女子力、統率力、人望は皆無な模様。




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