二百六十話:合同結婚式 当日 ③
どうしても、彼女を幸せにしたかった。
「シンクさん……」
下着姿で放り出された彼女は涙目だ。
うん。 やりすぎですよ、玉木さん? あとでお仕置きです!
「あ」
そっと抱きしめる。
体温の低い彼女。
ゆっくりと温度は上がり、逆に心臓の音は落ち着いていく。
「……花嫁さんに、叱られますよ?」
それは怖いな。
でも今後も黒髪ロングを抱きしめたいな。 綺麗で艶っとした黒髪も撫でたい。 恥ずかしがるところも見たいし、桜色の小さい唇も何度も奪いたい。
うん、怒られるな。
怒られない方法は一つしかないよね。
「栞」
「あっ」
黒髪ロングをお姫様抱っこし連れていく。
ドレスルームに何着もの色違いのカラードレス。
中央には純白のウエディングドレスも飾られている。
それを輝いた瞳でみる栞。
「結婚しよう」
「ぇっ、んっ」
断られても困るので口を塞ぐ。
瞬く大きな瞳に、輝く星が見えた。
頬が紅潮していく。
「んぁ……私も、いいんですか?」
皆の許可は取ってあるから大丈夫。
相談するときはめちゃくちゃ勇気が必要だったな。
なんだろう浮気を白状しているようで、変な汗を大量に掻いたよ。
「結婚せよ」
「は、い!」
大粒の涙を零して彼女はOKをくれた。
良かった。 断られたら恥ずかしすぎて憤死しちゃうところだった。
仮の指輪を左手の薬指に。
『エンゲージメントリング』はもう少し待ってね。
「嬉しいです……。あっ」
今日の彼女はグレーの下着だ。
そんな気分だったのだろうか?
純白の衣装の下には良くない。
「こ、ここでっ!?」
もじもじする栞の下着を剥ぎ取り少し悪戯したあと、白いエッチな下着を渡した。
「んんっ、コレっ、少しっ――卑猥では!?」
清楚なお嬢様が純白のウエディングドレスの下に卑猥な下着をつけてると思うと興奮するよね。
「もう、シンクさん!」
少し怒られたが、ちゃんと着てくれました。
彼女の長く綺麗な黒髪は純白のドレスに良く映える。
「綺麗だ」
「……ありがとうございます」
栞は今まで一番幸せそうな笑みを見せてくれた。
やっぱりみんなにちゃんと相談して良かった。
俺も少しは成長しているだろう。
さぁ後は結婚式をしっかりと盛り上げるだけだ。
……無理難題すぎないか?
◇◆◇
割れんばかりの拍手が怒号のように鳴り響く。
「……っ」
花嫁たちの入場で会場のボルテージは最高潮だ。
誰もが祝福するために立ち上がり手を叩いて声を掛けている。
わかるよ、みんな人気者だからね。
学校のアイドルたちが花嫁衣装で歩いていくのだから。
「――――栞ちゃんっ!?」
ツインテの間抜けな叫び声で少し落ち着く。
「ふぅ……」
緊張している。
戦闘の時の高揚感による緊張と違って、嫌な緊張だ。
陰キャが全校集会で表彰されて皆の前で一言みたいな、そんな緊張だ。
「ふぅぅぅぅ……」
『ブラックホーンオメガ』を着ていれば少しは落ち着いたかもしれない。
しかし今はただの白いタキシード。
花嫁たちの着せ替え人形となり、全身白一色のオールホワイトコーデに決定された。
曲調が変わる。 先ほどまでは軽快な打楽器に派手な音色で盛り上げる感じだったのに、今はRPGのラスボス前のような重厚感のある曲なんだが? 入りずらいよね。 凄い注目集まっとるやん。
しかしバージンロードを進んだ花嫁たちが待っている。
「行くか」
気合を入れていこう。
丹田に力を籠めろ!
「――――っ」
会場中が息を呑むのが分かった。
まるで猛獣に偶然出くわしちゃいました、みたいな雰囲気。
やめてやめて! もっとほら、拍手喝采でお願いしますよ!?
俺の表情も思わずこわばる。
「神駆ぅ……!」
号泣するジェイソンを無視し突き進む。
もう俺には花嫁たちしか見えない。
「うむ」
彼女たちの間。
麗しい花嫁を横に侍らせ用意された豪奢な椅子に腰を掛ける。
なんだこの悪役感は!?
「えー、それでは、鬼頭君と……5人の花嫁の結婚式を始めさせていただきますッ!!」
あ、そういえば花嫁が5人なの服部先輩に伝えてなかったな。
「ではまずは、新郎新婦のご紹介から――――」
人形姿のせいで余計に可愛い。
遊園地のキャストとか天職なんじゃないかな?
「うむ」
「はい! 鬼頭君はーー」
しかも新郎スピーチ代行サービスまでしてくれるとは!
なんと優秀な領主様でしょう。
だいぶ盛られた話でむずがゆいが我慢しよう。
みんな笑いながら食事をして盛り上がっている。
「では皆さん、ご注目ください! あちらに鎮座するウエディングケーキに、いざケーキ入刀のお時間です!」
みんな気になっていたのか、歓声が上がる。
なかでも「本物なのか?」という声もちらほら。
たしかに食品サンプルというかもはやただの建造物なんだよね。
「大きいですね!」
木実ちゃんも大喜びのサイズだ。
「胸やけしそう」
一人で食べるわけじゃないぞ、ミサよ。
6人で一つのナイフを持ちケーキを切る。
『ブラックホーンフレイ』で一刀両断にしてもよいのだが、食品だからね。
猫人形メイドさんたちに頑張ってわけてもらおう。
「はい、あーん」
「シンクくん、あーん」
ケーキを一口ずつ食べさせあう。
ファーストバイトっていうらしいね。
5人分あーんしてたら中々大変である。
あとなぜか血涙流してる人がいるのはなんでなんだ?
「みなさん、たくさんあるのでいっぱい食べていってくださいね!」
「「「「はーい!」」」」
まぁたしかに美女ハーレムあーんはインパクトあるか。
式場の空気もだいぶ和み、順調に進んでいく。
結婚式の特別も最初だけだったな。
酒が入ればいつもの宴会と変わらない。
やんややんやと盛り上がる。
「おまえら、地獄の忍者修行じゃなかったのかよ!?」
「ふっ。 男はやはり筋肉なんだよ」
「なんだその余裕は……まさかっ!?」
久しぶりの再会の者たちもいて大いに盛り上がっていた。
「お兄さん! アイリも6人目に!!」
「……7人目でも、いいっしょ?」
「ベルゼ君! 酷いよーー! どうして私だけ仲間外れなのかな!?」
「ベルゼお兄ちゃんっ、円にあんなことやこんなことをしておいて、ボロ雑巾のように捨てるなんてひどいですぅ~~!」
「クレハヲ貰ッテクダサイ、ダーリン♡」
アレレ。
みんなは祝福されているのに、俺のとこだけクレームが押し寄せてくるぞ。
「シン兄ちゃん! おめでとーー!」
「うむ」
やっぱり持つべきものは
純粋な祝福が嬉しい。
また一緒に温泉入りに行こうな。
「えー、皆様! 宴もたけなわでございますが、この楽しい会もそろそろ終了のお時間が近づいて参りました……最後に! 新郎新婦から締めのお言葉をお願いしますっ!!」
無茶ぶりキターー!?
服部先輩、無茶っすよ。
花嫁たちがあらかじめ考えていたような文章をすらすらと読む中、俺は死刑執行を待つ気分だったね。
同じく無茶ぶりだったはずの栞はすらすらと喋ってしまうあたり格の違いを見せつけられた気分だ。
まぁ優秀な指揮官様だからな!
結婚式プランを皆に丸投げしたツケが回ってきたか。
あれ、ちょっと怒ってたりしたのかしら。
いや俺にも最高の引き出物を用意するという使命が。
ああ、そうだ。
「願え。 さすれば、与えられん」
「……と、新郎からでしたー!」
さっきまでの拍手喝采と違って『?』が浮かんだパチパチである。
「そして皆様、こちらは新郎からのサプライズプレゼントです!」
その言葉に合わせ、俺が用意していた最高の引き出物が姿を現す。
「合同結婚式記念品! 引き出物
さぁ、皆をガチャ沼に引きずり込もうか?
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