二百五十九:合同結婚式 当日 ②


 初恋は実らない。


「……綺麗ですね」


 そんな言葉を思い出しながら、『一ノ瀬 栞』は呟いた。

 本当に綺麗だった。

 栞の心の中のぐちゃぐちゃとは違う。

 純白の花嫁たち。

 混沌に呑まれかけている。

 染まっていく。

 深い闇に。


「……本当に。 少し・・挨拶に行きたいですね?」


 ……闇落ちお嬢様、爆誕☆


「ベルゼお兄ちゃん……円にあんなことやこんなことをしておいて――――貰ってくれないなんてひどいですわっ!」


「わぁ!? 声が大きいよ円っーー!」


「ほんとそうだよね! ベルゼ君ってば、私も貰ってくれればいいのにーー!」


「美愛姉ちゃんは黙ってて!」


「酷いっ!?」


 友好的な関係を維持するためにきているのか、不穏をまき散らしにきたのか分からないお嬢様御一行。

 そんな彼女たちをそわそわと見る東雲東高校生たち。

 

「四人いるんだから、五人目の可能性もあるくない!?」


「あるっしょ」


「てきとうな相槌すんなよぉお!」


「うざいっしょ!」


 さらにギャルズが混線する。

 彼女たちをエスコートするように元東雲東高校所属、現忍者集団『鬼面組』がエスコートしている。 どこか勝ち誇った表情で東雲東高校の男子たちを見ていた。


「くそっ、なんだアイツら! 変な格好のクセにっ」


 『鬼面組』の者たちは現代忍者風の格好をしており、少し特殊であった。


「どういう技術で、空に、建物が……?」


「さぁ……?」


 人が空に、宙に浮かぶ建物に吸い込まれていく。

 光の柱がSFチックであり、まるでUFOに攫われているようだ。

 アブダクションであれば記憶を消されるか悪戯をされてしまうだろうに、東雲東高校に所属する者たちは平気で入っていくのはなぜなのだろうか?

 もはやこの程度は慣れっこだというのだろう。

 キャトルミューティレーションされるかもと心配はないのだろうか。


「ほえーー」


 ほえーー。とする者と、ビクビクする者たちは光の柱に入っていくのだった。


 結婚式場を選ぶ上で重要なことは?

 それはもちろんロマンティックであること!

 海外の結婚式場で人気と言えば、白い砂浜にトロピカルガーデン付きのホテル式なんて最高だろう。

 ココはまさにそれである。

 『ウエディングフィールド』。

 海こそないが、白い砂浜と青いプール。トロピカルガーデンにおしゃれな白い建物。

 なにより解放的な空は最高である。

 

「なるほど、たまにシンク君がつけてたメスのにおいね」


「え?」


 『ウエディングフィールド』に来たみんなが「ほえぇ……」としている中、栞は別の場所に飛ばされていた。

 『花嫁控室』ブライズルームにて、花嫁四人からの襲撃を受けていたのだ。

 先手を打たれる栞。

 いかに千里眼を持っていてもこの展開は見通せない。

 玉木の魔手が迫る。


「処女ビッチのにおいだわ」


「ひゃん!?」


 玉木さんのニオイチェックによれば栞は処女ビッチのようだ。 

 ちなみに玉木以外はわりと親交もあった。 以前は温泉を借りたり葵のお母さんに会いに行ったり、制服を貸してもらったりと面倒を見てくれていたのだ。

 神駆と良い仲というのは知らなかったようであるが。

 ミサのお父さん、鹿野警部補からの話なども聞いておりなんだか凄い人になっている。


「ふふ、良いと思うわ」


「な、なな、なんなんですかーー!?」


 徐々に脱がされていく栞。

 一体どうするつもりなのか。

 下着姿にされ扉の外へと放り出される。

 こんな酷いことがあっていいのだろうか?

 純白を身に纏った花嫁たちは悪魔だったのか。


「あ……」


 哀れな生贄は覇王の供物として捧げられるのだった。




◇◆◇




 猫人形メイドたちが忙しそうに動く。

 可愛くデフォルメされた猫人形メイドたちはその丸い手で器用に飲み物を配っている。 


「ケーキ、でっかぁああ!?」


 結婚式場の中央には巨大なウエディングケーキが鎮座していた。

 一体誰がどうやって作ったのか?

 不明すぎる古代の謎建築物のように雄々しく鎮座していた。

 

「栞お姉様……いませんね」


「うーん。 どこいっちゃんたんだろう?」


 用意された料理に舌鼓する参加者たち。

 卵をふんだんに使った巨大なオムライスや夏野菜を使ったサラダ、さらにみんが歓声を上げたのはたこ焼きであった。 子供も大人も大好き。 それがたこ焼きである。


「なんで人形が動いているんだろうか?」


「さぁ……?」


 実は人形の中に人が入っているのだ。

 結婚式スタッフのボランティアを買って出た服部領主たちが中の人をやっている。 他にも衣装はあったのだが、猫が好きと面白そうという理由で猫人形メイドは選ばれていた。


「なぁ、アイツ可愛くね。 お持ち帰りしちゃう?」


「鼻が大きい奴ってさ、デカいらしいぜ?」


「きゃは! じゃあアイツいいじゃん!」


 各所属は別れつつも様子を窺っていた。

 しかし会場に流れていた音楽が変わりライトが消されると一気に静まり返った。

 主役たちの入場である。


「え」


 幅広なバージンロードを横一列に並び突き進む、5人の花嫁・・・・・


「「「ええええ!?」」」 

 

 ウエディングベールに包まれているが間違いない。

 黒髪の美しく長い髪が特徴の女の子。


「――――栞ちゃんっ!?」


 『神鳴館女学院付属高校』の苦労人、黒髪ロングの花嫁姿での登場に一部から絶叫ともとれる歓声が上がった。

 「おめでとうございますっ、お姉様!」と、『一ノ瀬 栞』は誰よりも温かい声援を受け取るのだった。


 美しき純白の花嫁たちにみんなが息を飲む。


 青銀の髪の超絶巨乳美少女は神々しさを纏い優しく微笑み、翡翠色エメラルドのショートヘアからちょんと飛び出る長い耳を持った超巨乳美人エルフは女王の笑みを浮かべ、褐色肌のスポーツ系女子は恥ずかしそうに笑い、淫乱貧乳ロリは飛び跳ねて喜ぶ母親にVと手を作っている。 

 お淑やかなお嬢様もまた顔を朱に染めて仲間たちに笑顔を向ける。

 個性豊かな美少女ハーレムがそこにあった。


 男たちは思う、これこそが俺たちの目指す場所だと!


 そしていよいよ、新郎の登場である。


「――――っ」


 息を呑む。

 千人を超える参列者は全員、その男の存在感に呑まれた。

 圧倒的な力を示すような筋骨隆々の体躯は、オールホワイトコーデされたタキシードを内側から押し上げている。

 眼光は鋭く彫りは深い。


「神駆ぅ……!」

 

 一歩進むごとに威圧感は増していく。

 参列者たちはその男のなしてきた偉業を思い出す。

 その圧倒的な強者の風格オーラに触れて……。


「うむ」


 覇王降臨。

 バージンロードの先、花嫁たちの間に用意された玉座に座る神駆。


「えー、それでは、鬼頭君と……5人の花嫁の結婚式を始めさせていただきますッ!!」


 猫人形メイドでもわかる可愛い系男子、服部領主の音頭で結婚式は開幕するのだった!



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