二百五十八話:合同結婚式 当日

 世界の終わり。


「なぁ……嘘だって言ってくれよ……」


 俺たちの月と太陽は、深い深い闇へと堕ちてしまった事実。


「嘘だうそだ――――ウソだぁああああああああああああああああ!!」


 男たちの絶叫は、祝福の鐘に遮られる。


――パン! パン! パン!


 いくつもの破裂音。

 舞い上がる紙吹雪。

 クラッカーに狙われたのは、4人の女性。


「「「「結婚っ、おめでとーー!!」」」」


 祝福の言葉を受け取ったのは、輝く純白のドレスに身を包んだ、4人の花嫁。


 『覇王の花嫁』たちである。


「わーー!」「お姉ちゃん、綺麗!」「WOW!クレハモ捕マエテホシイデェス!!」


 小さな子供たちから声援が溢れる。

 辛い日々を過ごすこんな時だからこそ、幸せなイベントを心から楽しむ。

 子供たちは目をキラキラと輝かせ、超老人シルバーマンたちは涙で瞳を潤ませ、野郎たちは血涙を流し喜んだ。

 

「俺たちの女神が……」「神は死んだ……」「絶望だ。 明日から何を希望に生きればいいんだ?」「いっそ……殺せ」


 辛く苦しい日々を支えてくれた女神たち。

 彼女たちのおかげでなんとかやってこれたのに。

 この先に何を生きがいに生きていけばいいのか。

 推しの結婚に納得できない男たちは絶望に染まっていた。


「うわぁ、ミサ姉ちゃん綺麗ーー!」


「ええっ、葵も綺麗じゃん!!」


 快活そうな女子の声が響く。

 見慣れない格好。

 いやどこかで見たことのある制服。


「おい、アレって」


「ああ、超お嬢様学校……『神鳴館女学院付属高校』の制服だッ!!」


「お嬢様キターー!」


 お嬢様御一行様が東雲東高校にやってきた。

 当然、神駆の結婚を祝うためである。

 クラフトワークスと共に同盟を結んでいるので、重要人物の結婚式と成れば当然出席するだろう。 


「……綺麗ですね」


 忙しい黒髪ロングを含めた30人ほどがやってきていた。


「そういえば、同盟組んでるんだよな!」


「そうだぜ!今は街道整備中だが、もうじき繋がるぞ!」


「ヤバくね!レベル高くねっ!?」


 絶望に侵されていた野郎たちが歓喜に奮える。

 制服お嬢様とはそれほどに男子高校生には効果抜群なのだ。


「神駆ぅ! 我が孫はどこだーー!?」


 ジェイソンが神駆を探している。

 久しぶりに忍者集団も東雲東高校に帰って来た。


「お兄さんが結婚……アイリショックなんですけど?」


「まぁ……わかるっしょ」


 しかもギャルをたくさん引き連れて。


「おいおい!? なんだあのギャル軍団!?」


「ブラ見えてますけどっ! パンツ見えそうですけど!?」


「忍者ルートが正解だと!?」


 季節は夏本番。

 ギャルたちの格好はだいぶアグレッシブになっている。

 世界は変わりしばらく時間は経ったが、割とまともな生活を送っていた東雲東高校。

 特に風紀には厳しい。 集団生活を円滑に進めるために必要なことだったから。

 逆に女子しかいなかったギャル高校は最底辺の風紀だ。

 見慣れない者からしたら目の毒である。


「結婚はまだ早いのではないか?」


「四人同時ですか!? ……若いっていいですね」


 クラフトワークスからも参加者が来ている。

 新婦の父である鹿野警部補は当然として、代表である『田中 誠』も仕事を早く片付け急ぎやってきていた。

 何を置いても出席すべきだと考えて。

 それも当然だろう。 

 過去を見ても未来を考えても、もっとも重要な人物の結婚式なのだから。

 がやがやとし始めた東雲東高校。

 花嫁4人は見世物のようにグラウンドに造られたお立ち台の上で皆の注目を浴びている。

 しかし肝心の花婿が姿を見せない。

 一体どうしたのか……? なにかあったのか?と心配の声が上がる。

 そんな時だ。


「お、おい!? なんだアレはーー!?」


 誰かが叫び声を上げ、空を指さした。


「UFO……?」


 そこにあったのは巨大な結婚式場である。

 いや、誰も結婚式場だとは思わないだろう。

 まるでUFOのような、円盤型の建物が宙に浮いているのだ。

 神駆の『ウエディングガチャ』から出た、SSR『ウエディングフィールド』だとは夢にも思わない。


「はは、花嫁を、攫いに来たのか?」


 あまりにもバカげた光景に、誰もが口をポカンと開けていた。


「みんな! 先に行ってるわーー!」


「皆さん、後からこちらに入ってください!」


 宙に浮く建物から光の柱が4人の花嫁に降りてくる。

 アブダクションされる牛のように。

 彼女たちはその場から消え去るのだった。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る