二百五十四話:……ふぉふぉみふぁん?

 なんだ……?


シャァァァ――――


 気持ちいい。

 指一本すら動かせない体。

 あるのはジクジクと続く熱の痛みだけだったのに。

 熱が取り払われていく。

 その感覚が、気持ちいい。


「木実っ、もっとよ、もっと!」

「頑張ってーー! 木実ちゃん!」

「凄いよ……木実!」


 瞼が重い。

 視界は暗いまま。

 でも聞こえてくる。

 みんなの声だ。


「恥ずかしいよぉおおおおおおお!?」


 木実ちゃん?

 近くで木実ちゃんの叫ぶ声が聞こえる。

 どうしたんだろう。

 困ってるなら助けないと。

 確認したい。

 でもダメだ。

 まだ顔は熱を持っている。

 特に瞼。

 いや、目をやらてしまったらしい。


「んっふっぅ……もう、んん゛ん゛っ」


「ど、どうしたのっ!? 木実!」


「無理に、しようとするとっ、きもちっ、ガクガクしちゃううううううううううんんんんーー!?」


 くっそぉ!

 どうしたんだっ、ナニがおきてるんだぁ!?

 

チョロロ、チョロ……チョロ


 体を侵していた熱はほとんど消え去った。

 後は顔だけだ。

 ……甘い香りがする。


「木実……あと少し!」


「ひゃあ!? 葵ちゃぁぁああああ――――だっめっ!?」


 戻って来た感覚。

 顔に何かが迫っている。

 ふにっとした何かが俺の頭を両側から包み込んだ。

 唇に甘い雫が落ちる。


「んっまひっ!」


「ふぁああ!? 喋っちゃだめええっ!?」


「ふごふご!?」


 ご、拷問!?

 顔の下半分を何か柔らかいモノで押さえつけられた。

 俺は必死に動くようになった口を動かす。


「ん゛ひんっ、あっ、すっちゅあーー!?」


 甘露が口に入ってくる。

 俺の体を蝕んでいた熱は体の芯から消えようとしている。

 俺はもっともっとと、必死に舌を動かした。

 まるで赤子のようだ。

 体は動かず目も開かない。

 しかし、口と舌で必死に母親のおっぱいをせがむ赤子のよう。


「やっ、まってっ、だめっ、だめっだめえっ!? きちゃ、きちゃうううううううう――――ッ!?」

 

――――プシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 なんだ?

 口を塞がれたことで必死に酸素を取り込もうとしていた俺の鼻に、大量の水が入り込んだ感覚がある。

 しかし不思議なことに、苦しくない。

 普通だったら死ぬほど苦しいはずなのに。

 むしろいくらでも吸えてしまう。

 

「ふごふご」


 目の熱が、重くて動かせることのできなかった瞼が今動く。


「……ふぉふぉみふぁん?」


「っ! シンクくんッ!!」


 視界に飛び込んできたのはボロボロの下着姿の木実ちゃんだった。

 かわいいおへそが見えてるし、焼け焦げてボロボロのブラジャー。

 こぼれんばかりの双丘が揺れている。

 覗き込むように輝く瞳が見つめてくる。


 しかしなぜ俺の顔の上に乗っているんだ?


 いや、そもそもこの口に当たってるのって……!?

 いやいや、さっきから嘗め回して吸い尽くして飲み干したのは、そんなまさか!?


「あ!」

「起きた!」

「シンク君がおっきしたわ! ――――っここに、まだ・・・残ってる!」


 えっ!

 俺今どんな状況ですか!?

 まだ上手く体が動かせない……。

 一体どこが起きたんだ!?


 そんな俺の視界は塞がれていく。

 垂れさがる青銀の髪で。


「……おはよう、シンクくん」


「……」


 彼女の桜色唇が額に触れる。

 ポタポタと、輝く大きな瞳から雫が落ちてくる。


「うえぇぇ、シンクくん、良かったっ、良かったよぉぉ……」


「……」


 木実ちゃんの温もりを感じながら、誰かが俺のアレを握る感覚がある。

 ちょっと待って。

 待って待って。

 今感動のシーン――――。


「アッーー!?」


 最後に残っていた熱も勢いよく体外に排出されたのだった。





◇◆◇





 なるほど、木実ちゃんの聖水によって俺は助かったのか。


「……ごめんね、シンクくん」


 何を誤ることがあるのだろうか? 

 たとえ体中を聖水まみれにされようともなんら問題ない。

 それに木実ちゃん聖水なら2リットルは飲めるよ。


「ええっ!? それは変態さんだよ!」


「さすがにヒクわ!」


「シン、変態」


「お姉さんのも飲んでみる?」


 熱は去った。

 傷もポーションとスキルのおかげでほぼ治った。

 しかし体は思うように動かせない。

 なので監禁王の洋館にて俺は彼女たちに介護されていた。


 ここなら魔石を消費するがエアコンもあるしお風呂もあって快適だ。

 プールサイドのベッドでイチャイチャ中である。

 なんだかいつもより皆が優しい。


「あ、ありがとうシャム太くん」


 シャム太とノズが給仕をしてくれている。

 この子たちここだと活発に動くよね。

 向こうだとエネルギーを消費するのか、常には出ていない。


「んーー! あっちと違ってカラッとしてて、ほんと過ごしやすいわよね~」


 ミサはこっちが大のお気に入りである。

 しょっちゅう入り浸っている。

 暑いのが苦手なのもあるか。


「しばらくこっちでゆっくりしましょうね?」


 あの激戦の後から、俺たちはこっちに引き籠っている。

 まぁ皆は交代で戻っているが、夜はこちらにきて全員一緒に眠っているのだ。

 おやすみのチュウとおはようのチュウが四人分である。


 どこの王族のハーレムですか!?


 しかしこれはアレだよね。

 もう言わないといけない。


「どうしました、シンクくん?」


「どうしたのかな~シンク君?」


「んん~聞こえないわよ~?」


「シン、……もっと大きい声で」 


 アレ、イジメられてる?


「ダイ……スキ」


「わたしたちも、大好きですよ」


「その後、今、なにか言わなかったかしら~?」


 彼女たちの手がススっと俺の体を這う。

 その手には指輪が嵌められている。

 俺の指に嵌めているのと同じ物だ。


「……」

 

 この先もずっと護りたいと、そう願った。

 たとえ生まれ変わったとしてもずっと。

 だからこれは、その為に必要なことなのだ。


「結婚せよ」


 間違えた。

 「残りの人生全部かけて君たちを幸せにする、来世もきっと幸せにしてみせる。だからどうか僕のお嫁さんになってください」って言おうとしたのに!


「「「「はい!」」」」


 でもなんか食い気味に返事を貰えたからいいか。

 

「じゃあ予定通り合同結婚式にしましょう」


「そうですね!」


「異議なし――盛大にやらないとね!」


「うんうん」


 あれれ、なんか凄い勢いとスケールで話しが進んでいくぞ…?




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