二百五十二話:ワンワンパニック ④
風が吹く。
「やあっ!」
ブラックホーンシリーズを装備したミサが疾風となって魔物に槍を突き立てる。
共鳴。
ブラックホーンシャドウから伝わるエネルギーが槍を強化する。
青みを帯びていた槍の穂先は漆黒のオーラを纏い怪物の肌を貫く。
「グルッ――!?」
ヒットアンドウエイ。
バニー型ヘルムの長い耳が慣性で前に進む。
驚異的な速度でバックステップしたミサ。
現れた敵を迎撃しようとしたもう一体の怪物が岩の壁に弾かれる。
「ロックウォール!」
「ギャァ!?」
一閃。
大鎌の刃が隙を見せた2体を斬り裂く。
炎の魔人は大振りの一撃に合わせ俺に照準を合わせた。
「させません!」「させないわ!」
木実ちゃんと玉木さんの声が重なり、魔法も重なるように飛ぶ。
「「――――
水蛇っ!?
水刃を伴うエメラルドの水蛇が宙を舞う。
二人の協力?合体?魔法が炸裂する!
なんだかわからんが凄くカッコイイ!
「「グルアッ!?」」
残る2体ごと炎の魔人を呑み込んだ。
水蒸気が濃い霧のように広がり視界を遮る。
(ワザと受けた?)
炎の魔人が熱光線で迎え撃てば、水蒸気爆発が起きていたかも。
「シンクくん! 大丈夫ですか!?」
戦場を覆う異常事態に木実ちゃんの声が響く。
斜め後方。
三人で固まっている。 『エポノセロス』が後方の仲間の位置を正確に導く。
そして
「アースウォール!」
葵の土属性魔法で作られた土壁の前で大鎌を振り回し熱光線を斬り裂く。
爆発タイプの攻撃も大楯と土壁でガードできそうだ。
魔法の打ち合いが始まる。
炎の魔人もまた赤い半透明なバリアを展開しこちらの攻撃を防いでいる。
「熱いんですけどーー!?」
空気が焼ける。
それに水蒸気が発生し続け湿度は異常上昇していく。
屋外露天スチームサウナ状態だっ!?
「アクアヴェール!」
「涼しいっ!」
木実ちゃんのバフスキル。
水の衣が暑さを軽減してくれる。
しかし水蒸気の向こうから赤い光線が乱れ飛ぶ。
炎の魔人の手数ごり押しがうぜぇ!
というかいつまで打ち続けるんだよ。
えっ、チートキャラなの? まだ魔力は底をつかないのかっ!?
1対3の遠距離魔法合戦は続いていく。
「はぁっ、はぁっ」
葵の疲労がヤバイ。
俺と玉木さんが来る前からずっと防衛していたみたいだし、そろそろ魔力切れが近いか? 体力も厳しいだろう。
「……」
皆のおかげで取り巻きは倒せた。
後は任せろ!
俺は『クリムゾンデスサイズ』を握る手に力を籠め一気に――――投げた。
◇◆◇
炎の魔人、イフリートは観察する。
「……」
目の前に飛来するいくつもの魔法はさしたる脅威ではない。
己を殺しうるのはただ一つ。
禍々しいオーラを放つ漆黒にして深紅の刃。
『クリムゾンデスサイズ』。
大精霊さえ消滅させるその死神の鎌がこちらの首を虎視眈々と狙っていると。
アレは決して侮ってはいけない武器だと、理解する。
「……」
だが……警戒しすぎたか?
どうにも所有者は使いこなせていない。
吸収した魂も少ないようだ。 アレでは宝の持ち腐れだと。 そうイフリートは思う。
「?」
キラリと宙に煌めく大鎌が見えた。
放物線を描きイフリートを目指し落下してくる。
愚か。 そんな攻撃が当たるはずもない。 ましてダメージなど受けない。
と、イフリートの無表情は物語っている。
「――――」
消えた。
宙に視線を飛ばした一瞬で、黒い騎士が消えた。
どこに?と周囲を探すイフリートの聴覚に、カシュカシュカシュ!と高速で規則正しい音が飛び込む。
「――――『虚空回転斬り・廻』ッッ!!」
音のする宙を見れば、大鎌ごと回転する黒い騎士が迫っていた。
紅の大斬円。
その背後にいるはずのない死神を幻視する。
炎の魔人の遠距離範囲を突破した黒の騎士の刃がついに届く。
『ホオオオオオオオオオオオオオオオオオ』
二メートルはある炎の魔人を真っ二つに斬り裂く。
止まらない大斬円は数十メートル魔物を斬り殺してから止まった。
ふらふらとする黒の騎士――神駆は「やったか!?」と後方を確認する。
『ホアアアアア――――ア゛ア゛ア゛ア゛ッ――!!』
「――――っ!?」
そして見えた光景に驚く。
二つに分かれた炎の魔人が膨れ上がり一つに戻っていくのだ。
いくつもの炎が集まり、まるでマグマのように燃え盛っている。
しかも三メートル以上はあろう大型に変化した。
「変身したぁー!?」
止めを狙っていたミサが慌てて飛びのく。
猛烈な熱波が周囲に放たれる。
「第二形態かよ……」
と呟く神駆の目の前に、炎群の魔人が姿を現した。
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