二百五十一話:ワンワンパニック ③
大きく振りかぶられた太い前足は炎を纏う。
真っ赤に燃え盛る炎だ。
「おおおおッ!」
鋭い爪牙をジグザグの白い骨剣を持った反町が防ぐ。
硬質な金属音が響き、反町の巨体が後退する。
飛び出すようにうり二つの影はヘルハウンドに迫る。
「グアル!」
「――――シッ!」
牙を剥き出しに唸り剛腕が薙ぎ払らわれる。
九条は冷静に搔い潜りヘルハウンドの腹部を斬り裂くが浅い。
双頭の野犬であれば弱点部位だが、強固な腹筋に斬撃が防がれる。
ヘルハウンドの筋肉密度が刃を通さない。
「くっ! 刃が通らんッ」
九条の闘気を籠めた一撃でも難しいのだ。
反町の骨剣は打撃武器としてしか機能しない。
それでも果敢に攻め込む。
東雲東高校の切りこみ番長として引けない。
その巨体で、道を切り開く。
「おらっああああああッ!!」
剛腕と骨剣が交差する。
ヘルハウンドは鋭く睨みつけ女剣士を警戒している。
「なめんなぁあああああああああ!!」
「グルゥ!!」
咆哮と共に致命的な隙を見せる反町。
鼻で嗤うヘルハウンドが鋭い爪牙を突き立てる。
「――――オオオオオオオッ!!」
「ルッ――!?」
【金剛仁王】発動。
反町が見せたのは隙ではなくルーティン。
大打者がバッターボックスに入るとき、その雰囲気が変わるように。
反町の体は金剛の煌めきを見せ攻撃を防ぐ。
吹き飛ばされることなく繰り出される打撃は、致命的な隙を見せたヘルハウンドに炸裂する。
「――――『
二つの剣閃が交差するように敵を通過する。
ノックバックし硬直していたヘルハウンドをX字に斬り裂いた。
「ルゥアアアアア!?」
「畳みかける!」
「おうッ!!」
敵の攻撃を反町が防ぎ、九条が削る。
命がけの単純作業を続けていく。 小さな傷や火傷を負うが青銀の雨が癒してくれる。 緑と赤のバフが活力と勇気を与え、後方の声援が魂を焚きつけてくれた。
膂力や体の硬度は恐るべき物だが、成長した二人なら決して相手にできないほどではない。
しかし外から冷静に見ている玉木には不吉な
(――――くる!)
怪物の鬣が赤熱していく。
その太い前足がさらに深く濃い赤に染まり始める。
バッと距離を後ろにとったヘルハウンドは沈み、斜めに首だけを掲げ嫌な嗤いを浮かべた。
そして弾けるように飛ぶ。
肉食獣が飛び立つ獲物を捕らえる時に見せる最後の大跳躍のように。
「グルァアアアアアアアア!!」
「「――っ!?」」
赤く染まった爪牙を掲げ、口から炎を漏らす地獄犬。
溜まった怒りのようにマグマを彷彿とさせる赤。
『ボルケーノクロー』が、膨大なエネルギーの一撃は二人に迫る。
周囲から悲鳴に似た絶叫が上がる中。
凛とした妖精の歌が二人を守る。
「――――『エアリアルウィンド』ッ!」
玉木の胸元で聖銀のネックレスは
無数の風の弾丸は、跳躍する地獄犬を打ち付ける。
「グゥルウウウウウウウウウウウ!?」
炸裂するような音が何度も響き地獄犬の勢いが落ちる。
地に足がついても何度も続くその風弾に、前足をクロスし防ぐヘルハウンド。
致命的な隙を晒して。
「『
九条ともう一人の彼女『紅』の剣が再度X字を描き交差する。
今度は正確無比に敵の弱点を斬り裂いた。
脇の下から腱を切られた両前足がだらりと垂れる。
「どっしゃああああああッッーー!!」
咆哮と共に振るわれた骨剣は、無防備なヘルハウンドの頭部を捉える。
壊れた人形のように崩れ落ちる怪物。
周囲の魔物たちが後ずさる。
「「「っしゃーー!!」」」
東雲東高校側から歓喜の声が上がった。
◇◆◇
「グルアッ!」
振るわれた爪牙を大楯で防ぎ、短く持った大鎌を薙ぐ。
『ウロボロスカフ』を大鎌に取りつけ、まるで鎖鎌のように振り回す。
伸びた鎖も一瞬で手元に戻せるので、扱いなれていなくてもなんとかなる。
「チッ」
しかし4体は厄介だな。
しかも炎の魔人がサポートで動くので決めきれない。
スピード特化の熱光線と物理込みの範囲爆発でこちらの動きを止めてくる。
体力と精神力を削られていく。
「「グルッ!!」」
2体がその爪牙を乱舞し、後方から2体が跳躍し襲い掛かってくる。
「【
待機させていた【
なかなか硬いな。
「……」
観察されているようだ。
黒炎の怪物……いや、炎は赤くあの時ほどのプレッシャーは感じない。
強い敵ではあるけどね。
あれクラスだったら流石に4体は相手にできないしな。
問題は手の内をどんどん炎の魔人に見られていくこと。
一気に決めたいのに!
「はああっ!」
槍のように突き、そのまま放り投げる。
しかし繋げた手錠、『ウロボロスカフ』で引き戻し大鎌の刃を喰らわせる。
切り裂きはするがやはり致命傷には至らない。
黒のガチャ試練でやったように上手くできなかった。
(あの時はどうやったんだか……)
あの時の技をもう一回やれと言われても失敗しそうだ。
そうなると勝負を決めるのはやはり『クリムゾンストライク』か。
大鎌の宝玉には大量のエネルギーが溜められている。
特大の一発なら炎の魔人ごと倒せるかもしれない。
しかしもし万一障壁を破られたら……。
「「グルアッ!」」
確実に成功する為にチャンスを窺う。
すると後方から歓声が聞こえてきた。
「はは」
俺が炎の魔人を倒すより、皆が雑魚を殲滅するほうが早いかもしれない。
頼りになる。
「うむ」
一人で無茶しようとするのは悪い癖だよな。
後方の支援を待って、大鎌の熟練度稼ぎでもしてようか。
周りの雑魚も倒してエネルギーを補充しよう。
「【
「グルル!?」
炎の魔人を警戒しつつ、支援を待つ!
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