二百五十話:ワンワンパニック ②


 炎を斬り殺す・・・・


「おお」


 大鎌の一撃は迫る豪炎を掻き消した。

 殺された炎は紅玉に吸収されていく。

 さらに周囲の魔物の魂?も吸収していく。

 魂魄ポイントとは別の何か。 

 ヴォルフガングやエポノセロスとは違うエネルギー体系なんだよね。


「ははっ」


 なんにせよ、遠距離攻撃を無効化できるのは熱い。

 さすがはURウルトラレア。 反則チートすぎるでしょう!

 くふふ、焦ってはどうかね炎の魔人君よ。


「……」


 喋らないタイプっぽいな。

 つまらん。 

 断末魔の悲鳴くらいは上げろよな?


「はっはああーー! ――――っ!?」


 一気に決めてやると、ブラックホーンシャドウで彼我の距離を一気に詰める。

 馬の嘶きの如き排気音を響かせながら突き進む黒鉄馬を、炎の魔人が冷静に対処してきた。 

 光線のようだった豪炎が変化する。

 爆発エクスプロージョン

 目の前で爆発し衝撃波が進行を妨げる。

 ガガガッと何かが混ざっているようで打ち付けてくる。


「エポノセロス!」


 岩のような赤熱した塊が大楯をガンガンと叩きつけてくる。


「――ッ!」


 カッ!と豪炎が襲い掛かる。

 ブラックホーンシャドウはウィリーをするように前輪を持ち上げた。

 それに合わせ大鎌を振るう。


「あぶね」


 ギリギリのところで豪炎を斬り裂いた。

 ブラックホーンシャドウのアシストがなかったら間に合わなかったかも。

 強い。

 こちらを睨みつける炎の魔人に知性を感じる。 純粋な炎の豪炎から物理的なダメージを含む爆発攻撃をためしてきたのだろう。

 ダラダラと戦うのは危険か。 

 一気に決めたいところだが……。


「黒炎の怪物……?」


 やたらと前足が発達した黒い大型野犬。

 鬣はオレンジ色に発光し炎のように見える。

 首には大きなトゲトゲの首輪があり、炎の魔人の側を警戒している。

 しかもその数は4体。


「ふぅ……」


 あの時より成長していることは確かだ。

 しかしトラウマか。

 死闘を思い出す。

 体を焦がす黒炎。 鋭い爪の一撃は熱を持ち肉を抉る。 砂嵐から飛び出す爛々と輝く赤い瞳を思い出す。


――――ヒュ


 ぐるぐると回る悪循環の思考を斬り裂く。


「うむ」


 あの時の俺には『クリムゾンデスサイズ』は無かった。

 体を包む漆黒の鎧も空を駆ける相棒も頼りになる大盾も。

 そして信頼して後ろを任せられる仲間たちも。


 青、緑、赤と体を包み込むバフが温かい。


 一人じゃないと教えてくれる。

 頑張れっ、と背中を押してくれる。


「『護る』」


 護りたいモノが増えた。

 欲張りになったのだろうか?

 もっと強くならないと。

 俺は欲張りだから、もっともっと護りたいモノは増えていくのだから。




◇◆◇




 大きな爆発音に城壁の上の彼女たちは一斉に向く。


「シンクくん!」


 黒い影が動き安堵する。

 

「早く援護に向かいたいわね」


「はい、でもこっちも多いです」


 かつて東雲東高校を襲った魚頭の奇襲よりも数が多い。

 城壁が無かった一気にやられていただろう。

 服部領主の選択は間違っていなかった。

 

「負傷した人はラインより撤退して! 鹿野さんは穴のカバーをお願いします」


「了解ッ!」


 ブラックメタリックなバトルスーツを着たミサが駆ける。

 先ほどのダメージは火傷を含め木実の神聖魔法で完治した。

 初級中級ポーションのストックもまだまだあるが、どれほど戦闘が続くのかわからない今は温存しておきたい。


「木実ちゃん、まだ魔法は使える?」


「はい。 疲労感はあるんですが、……誰かに支えてもらっているような、補助されている感覚です」


 全体回復魔法や状態異常を回復するスキルを使っている。

 玉木は経験的に魔力が厳しいのではと思ったが、木実はまだ平気そうだ。

 魔法は覚えたてで慣れていないはずだが、様になっている。

 これもジョブのおかげだろうか?


「私もジョブとりたいわね~」


「悩んでいるんですか?」


「んー」


 神駆と出かけることも多い玉木はかなりの魂魄ポイントを保有していたが、まだジョブを選んでいなかった。 

 その理由はシークレットジョブ。

 表示はされているが、選択できないようだ。

 なにか条件を満たしていないのだろう。

 それが何かは分からなかった。

 

「もう少しってところかしら?」


「?」


 ただし神駆の話しを聞き、おおよその見当はついた。

 どの道もう少し時間はかかりそうだった。

 残念ながらこの戦いには間に合いそうにない。


「葵ちゃんと、代わってくるわ! 長い戦いになりそうだもの……!」


「はい!」


 野犬たちの襲撃が終わらない。

 神駆が敵の大将を倒してくれることを祈るが、もし怪我を負って撤退してくることもあるかもしれない。 その時に安全な場所を確保することは、残った彼女たちの責務。

 絶対にこの場所は死守する。

 彼の、私たちの居場所は奪わせないと、彼女たちは強く思っている。


「っ皆! 頑張ってください! 僕たちの、居場所はっ! 僕たちで守り抜きますよッッ!!」


「「「おう!!」」」


「僕も前に!」


「「「服部は下がってろッ!!」」」


「ええっーー!?」


 いつもの漫才をする東雲東高校生たちの前に、強敵が現れる。


「っ、アレは……!」


 玉木は嫌な記憶と共に汗が噴き出る。

 黒い大型の野犬。

 前足は異常発達した太い筋肉をしており、鬣は炎のようにオレンジ色をしている。 身を焦がすような異様な臭いが周囲に流れる。

 炎の魔人を護衛する4体とは別の1体。

 かつて死闘を繰り広げた彼女たち4人に焦りの色が浮かぶ。


「気を付けてください!」


 ヘルハウンド。

 地獄犬とも呼ばれる魔界の犬が襲い掛かる。


「ぐはあああああああ!?」


 盾を持った学生が盾ごと殴り飛ばされる。

 前衛としてスキル構成をしていた学生は、敵のあまりの膂力に驚愕する。

 何人もの味方を巻き込み倒れた。

 致命的な隙に野犬が群がる。


「――――『飯綱いずな斬り』」


 その凶悪な牙が生徒に届くことは無かった。

 神速の剣閃が野犬を屠ったから。

 ポニーテールとスカートが風に靡く。

 

「九条さん!」


 美少女剣士が二人、それにギザギザの骨剣をもつ巨漢が生徒たちの前に出る。


「長鼻級か?」


「わからない。でも、強い」


 九条、反町、常に前線を張ってきた二人がヘルハウンドと相対する。



―――――――――――――――



いつもお読みいただきありがとうございます!


本日はバレンタインデー。

限定近況ノートの方で一話バレンタインネタを投稿しております。

|ω・)サポパスイベにノセラレタ訳じゃないよ……?


これからも応援よろしくお願いしますm(__)m


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る