二百四十九話:ワンワンパニック ①

 玉木さんは朝方にロリ化してしまった。

 今から寝て目が覚めたら元に戻っているだろう。


「ふぁんふいい? ひぃんふふん」


「んんっ!」


 元々小顔な玉木さん。

 シュッとした美人なエルフさん。

 今は幼女になったことで少し顔立ちが変化し肌ももちっとしている。

 ナニかを口いっぱいに頬張る様はとてもいけないものを見ているようだ。


「ふぉお?」


「ぅおう!?」


 『監禁王の洋館』に帰ってきてからはママノエ料理の研究を二人でして、二人でお風呂に入りまったりしていた。 そろそろ寝ようかというところで、玉木さんはなんの躊躇いもなくベッドに入ってくる。

 いつものようなわがまま魅惑ボディではないので、安心して眠れるとおもった矢先。

 玉木さんの夜のお勉強会が始まってしまった。

 俺の弱点を隅々まで探るべくロリ玉木さんが体を這いずる。

 

「ん~ふう、ふふふ」

 

 小さな口から小さな舌が棒キャンディを舐めるように動く。

 ゾワゾワとした痺れにも似た感触が駆け巡る。

 垂れた前髪を手にかけながらこちらを空色の瞳がジッと見ている。

 その瞳に丸裸にされているようで恥ずかしい。

 なんというか、この館にいる時の玉木さんは凄いのだ。

 積極的かつドSなのだ。

 

「ずっと一緒にいたいわ、シンクお兄ちゃん」


 ちょっと怖いほどに。


「ずっと……閉じ込めて……」


 胸の中で呟くロリ玉木さんは可愛い寝息を立て寝てしまった。





◇◆◇




 ワンワンパニックだ。 

 大小様々な野犬の怪物はパニック映画の如く襲い掛かってきている。

 魔物の大軍である。


「『勇気の旗』っ!」


 城壁の上で服部先輩の振るう槍が赤く輝く。

 穂先を赤い布で覆ったその槍から前方で戦う者たちにバフが飛ぶ。

 戦意高揚の効果は野犬の群れに立ち向かう者たちを勇気づける。

 

「『聖女の祝福』、神聖魔法……『ホーリーシャワー』ッ!」


 青銀の輝きは世界を濡らす。

 降り注ぐ祝福の雨が、傷ついた仲間を癒していく。

 魔法を使った影響か、木実ちゃんは女神のように輝いている。


「綺麗ねぇ」


 元に戻った玉木さんと共に東雲東高校に帰ってくると、学校は騒然としており緊急事態だということはすぐに分かった。

 こういうときのここのみんなの動きは凄い。

 全員が一丸となり立ち向かうのだ。

 戦闘に参加できない子供やママさんたちも、物資の補給や連絡係に奔走する。 

 俺たちを見かけて声を掛けてくれたのもそんな人たちだ。


「ミサちゃん、本当に変わったわね」


 戦場を上空から俯瞰していると、一人際立っている者がいる。

 ブラックメタリックなバトルスーツは青白い輝きを放つ。 まるで兎が草原を自由に駆けるように。 夜空を照らす稲妻のように。 恐ろしい程の緩急、急制動を繰り返しながら、敵を屠っていく。

 そこにはソファで暑さにダレていたミサの面影はない。

 激戦で立派に成長した軽戦士は大活躍していた。


「あっ!?」


 だが、豪炎がミサを包み込む。

 空中を駆け、民家を足場に縦横無尽の動きを見せていた。

 しかし民家ごと特大の炎が襲い掛かった。


「大丈夫」


「あっ、良かった……」


 掻き消えたようなバックステップで回避したミサ。

 だがダメージは負ってしまったようで木実ちゃんの元まで下がっている。


「大地の母よ、地に満ちて岩となり、我が敵を貫け!――アーススパイク!!」


 広範囲に岩杭は広がり野犬たちを串刺しにする。

 後退したミサの代わりにちびっ子魔法使い葵ちゃんの魔法が炸裂する。

 岩杭は野犬たちの機動力を削ぐ。


「っ――――『アースウォール』ッ!!」


 敵後方から強力な熱源反応。

 カッ!と光ると同時に押し寄せる熱波。

 葵の魔法が土の壁を作り皆を守る。

 ジョブを得た恩恵か、それにガチャアイテムの力もあるだろう。

 押し寄せた炎の波を防ぎきった。


「出る」


「あっ、シンクくん!玉木さん!」


「遅れてごめんなさいね! 『風の精霊、少しだけ力を貸して、ウィンドフォース』」


 城壁の上に玉木さんを送り届け、敵を倒すとしよう。

 恐らくあの炎の魔人が来ている。


「鬼頭君……」


 敵の強さを感じ取ったのか、服部先輩が青い顔をしていた。

 槍を持つ手が震えている。 しかし唇を噛み締め力強く握り直した。


「火傷したぁ……乙女の柔肌になんてことっ……! シンクっ、あいつボコボコにしてきて!」


 火傷したと文句を言うミサ。

 アフロヘア―にはなっていないようだ、解せぬ。

 

「おう」


「任せたわよ!」


「お願いします、シンクくん!」


 ミサに背中を押され、木実ちゃんは手を取りその胸に押し当てるように祈る。

 暖かい神聖なエネルギーが流れ込んでくる。

 木実ちゃんの最終兵器から聖女の祝福を頂きました。


 力が漲ってくるぜッ!


「ふふ、頑張ってっ、シンク君!」


 お姉さんエルフの笑顔に見送られ高度を一気に上昇する。

 敵の大集団は皆に任せる。

 今の彼女たちなら、東雲東高校の皆なら敵の大軍でもなんとかできるはずだ。


 俺は最大の脅威を取り除く!


「ん」


 こちらに気づいた葵が任せろとサムズアップする。

 なぜか手を上下に振っているが、『任せろ』のサムズアップだよね?


「おっと」


 下から発光と共に豪炎が宙を駆けてくる。

 『ブラックホーンシャドウ』を急加速させて回避する。

 SPは満タンだ。 昨日の夜にマックスまで補充したので遠慮なくいかせてもらう。

 

「『デックイグニス』」


 炎獣は宙を駆け降り、敵に命中する。

 いくつもの炎柱が立ち上がり野犬を燃やし尽くす。

 断末魔の悲鳴が上がる中、ソイツは炎を纏いこちらを睨みつけていた。


「無傷ね」


 炎の化身。

 人型をしているから炎の魔人といった感じかな。

 野犬の進化系ではないきがする。

 以前に死闘を繰り広げた黒炎の怪物はまだ進化系って感じだったけど。

 こいつはまったくの別物だ。


「『クリムゾンデスサイズ』」


 フレイは属性的に不利かと思ったので、大鎌を取り出す。

 するとこちらに手を翳し豪炎を放ち続けていた炎の魔人の動きが止まる。

 

「……?」


 たしかにカッコイイし禍々しいが、それほど驚くか?

 炎の魔人は明らかに動揺をしている。

 流石はURウルトラレアアイテムということか。

 炎の魔人さえも畏怖させるとは!

 

「参る!」


 まぁまだ使いこなせないんだけどね。

  


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る