二百四十八話:観光デート ②
万博公園広すぎワロタ。
「264ha……約8万坪ね!」
全然ピンとこないよ。
東京ドーム何個分ですか?
「人の手が入らないから、最後かもしれないわね~」
自然公園は緑が濃くなっていた。
あまりみたことのない、背の高い白いふわふわのついたススキみたいな植物が群生している。 パンパスグラスとかいうらしい。 入り口にあったパンフレットに書いてある。
他にも色とりどりの植物が咲き誇っている。 花八景と呼ばれる場所のようだ。
これでも万博公園の一角でしかない。
「アヒルボート!」
サイクルボートっていうらしいよ。
湖のような池でアヒルボートに乗り込む。 ちょっと狭いな。 ぷかぷかと浮かぶ乗り物。 座り込むと水面との近さに驚く。
「こういうデート、してみたかったんだ」
ロリ玉木さんが体を寄せてくる。
可愛い。
こんな可愛い妹がいたら世のお兄ちゃんは皆シスコンになってしまうよ。
俺は決してロリコンではない。
妹という存在に憧れているだけだ。
決してロリコンではない。
「カリッとしたなかからトロトロんん~~!」
「うま」
パリサク感のある生地の中からとろっとろの生地が旨味爆弾のように口内を蹂躙する。
旨味の濃さに脳が覚醒したようだ。
ソース、マヨネーズ、かつおぶし、それにとろっとろ生地の中にある紅ショウガは見事に調和している。
「このっ、んっ、たこ触感がクセに、なるのよね!」
「うむ」
ぷりぷりのたこが美味しい。
たこ焼きは素晴らしいな。
「たこは無いけど、帰ったらママノエで作ってみようかしら!」
「!」
天啓の閃き。
玉木さんのママノエ料理に新たな可能性がっ!
ママノエ教団の教祖としてママノエ布教活動にぜひ新メニューを頑張ってもらいたい。
「~~♪」
手を繋いで歩いていく。
夏を告げる虫の音。
日差しは強いがエルフになった玉木さんは日焼けしないらしい。
それでも背が低くなってるから、熱中症には気を付けてね。 子供の方が地面に近い分照り返しの温度が高いのだ。
「うーん! のんびりできたわね~~。 デートには良かったけど、なんだか不思議な感じね」
さすがは地元民のおすすめスポットだ。
公園は素晴らしいし、博物館も入ってみたが独特な飾り物があって面白かった。
温泉もあったけど入れる感じじゃなかったのが残念。 ポンプ系が動いてないから死に水になっている。
やはり源泉かけ流しの秘湯じゃないとダメだな。
不思議な感じか、たしかに魔物の気配が全然しない。
こういう広い公園とかは大抵魔物が拠点にしていることが多かったんだが……?
「最後に、あそこ行ってみましょうか!」
玉木さんが指さしたのは、一際大きなモニュメント。
最初からずっと気にはなってたんだけどね。
万博公園といったらコレだろう。
コレがなにかは知らなくても見たことはあるはず。
太陽の塔。
実にぶき……、独創的なシンボルである。
「シンク君!」
パンフレットによれば41メートルあるらしい。
10階建てのビルより高い。
ちなみにウルトラマンと同じ高さだ。
「っ」
玉木さんを抱きかかえ、飛びのく。
無数の矢が降り注ぐ。
地面に突き刺さった矢は短く羽が無い。
命中精度が悪いのか乱雑に広範囲に突き刺さった。
「ふああ、お姫様だっこきちゃ」
落ちないように首に手を回してきた玉木さんがなにか呟く。
いつもとは違う甘い匂いがする。 ロリ化した影響だろうか?
眼前を見ると矢を放ってきた敵の正体を目にする。
人……人形? 不気味な兜をつけた人形のような戦士が複数立っている。
手にはクロスボウのような武器と小さな丸盾と剣も装備しているのが見える。
気配察知には反応がなかったんだがな。
「警備兵なのかな?」
「ふむ?」
よく見れば人形の胸元に太陽の塔のシンボルが刻まれている。
どういうことなの?
近づかなければ襲ってこないようだが……。
守られてると気になっちゃうよね。
無理矢理突破してそこにナニがあるのか探ってみるか?
「……」
しかしお姫様抱っこした玉木さんを見て好奇心に蓋をする。
なんか嫌な
今じゃないな。
「帰る」
「そうねぇ、そんなに興味もないわね」
個室を繋ぐ場所探して『監禁王の洋館』へと戻ることにした。
なぜか凄く、巨大モニュメントから視線を感じた気がしたけど、気のせいだ。
お願いだから夢には出てこないでね?
◇◆◇
「なんすか、アレ……?」
寺田2曹は呟く。
彼は『藤崎女子高校』と『藤崎駐屯地』を往復する生活を送っているが、1日前までは存在しなかったモノを目にしてつい呟いてしまった。
「魔物……?」
物陰に隠れジッと観察する。
不定形の赤黒い物体。 大きさはバランスボールくらいだろう。 もう少し可愛い見た目ならば国民的RPGに出てくるスライムだ。 ただし色合いが不気味すぎて人気はでないだろうが。
「っ、ヤバいっす……!」
不気味な生物に気を取られ周囲の警戒を怠った。
ミニオークたちの集団がこちらを包囲している。
魔物との遭遇率も上がっており、『藤崎駐屯地』付近でもミニオークは頻出している。
寺田はスキルを総動員して気配を消しミニオークに見つからないように祈る。
メスを探し出す嗅覚にはすぐれるミニオークたちも、男一人の寺田には気づかなかったようだ。
もしくは目立つ場所に敵がいるからそもそも探していないのかもしれない。
「え」
寺田は目の前で起こった光景を信じられなかった。
赤黒いスライムは近寄ったミニオークたちを殲滅した。
ウニの棘のように伸びた体はミニオークたちを貫き捕食する。
絶叫するミニオークたちが振るう棍棒も赤黒いスライムには効かない。
生きたままその不定形の体に呑み込まれていく。
グロイ倒し方である。
(あんな敵がきたらヤバいっす!)
はやく駐屯地に戻って新たな敵の脅威を知らせないと! そう考えた寺田であったが、彼が単独行動をしているのは秘密である。 駐屯地に数人の協力者がいるためうまくごましている。 しかしそれも限界かもしれないと思っていた。
自衛隊仲間たちの変化が著しいのだ。
寺田たちが異分子として見られるのも時間の問題だろう。
いやすでに思われている可能性もある。
「……?」
ミニオークたちを蹂躙した赤黒いスライムを観察する寺田だったが、違和感に気づく。
「巡回している?」
まるで隊員が行うように駐屯地に敵が近づかないか警備巡回しているようだ。
もしくは駐屯地から逃げ出す者がいないか見張っているのか。
なんだか嫌な予感がした。
決して近づいてはいけない。
赤黒いスライムにも、駐屯地にも。
「っ」
その寺田の予感は的中する。
複数の赤黒いスライム。
それに追われる人。
駐屯地から逃げて来たのだろう。
目の前に現れた赤黒いスライムに胸を貫かれる。
「ぁ……」
見知った顔だった。
協力してくれていた隊員だ。
赤黒いスライムたちに群がれてその姿は消えてしまったが。
「うぇっ」
赤黒いスライムたちがいなくなると、そこには何も残っていなかった。
一体何が起こっているのか?
確認するべきだったかもしれないが、吐き気を押さえる寺田は来た道を急ぎ帰る。
今見たことをもっとも信頼できる男、山木に伝えるために。
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