二百四十七話:観光デート ①


首都大阪・・・・


 そう大きく描かれた看板が門の上にでかでかと掲げられている。


「ああ゛あ゛っ! なんやぁっ!? コラボケタコナスッ!!」


「ジブウンどこのどいつやあああ!?」「カチコミかっワレェエエエッ!?!?」


 門兵さん?

 やけにカラフルな頭をしたというか全身コーディネイトをした奴らが謎の言語で話しかけてくる。


「活気があるわねぇ~~」


 玉木さんと二人でドライブデート。

 遠ければ遠い程良い、と冗談交じりに言われたので『ブラックホーンシャドウ』で空をかっ飛ばして来た。 ジェットコースター並みの速度で蛇行運転したり逆様になったり、ちょっとしたアトラクションである。 人によっては拷問かもしれないが、玉木さんはきゃっきゃと楽しんでいた。

 途中休憩を挟みつつ、オークの本拠地らしき場所は避けて遠出デートしてみた。

 数百キロは移動したと思うけど、空を飛べるとあっという間だ。

 2時間ほどで大阪までやってきてしまった。


「あああああんああんん!?」


 活気ねぇ。

 ヤンキーしかおらん。

 わらわらとカラフルギャングたちが出て来た。

 あまりにも奇抜なファッションすぎてつい鼻で笑ってしまった。


「なめとんかオドレ……」


「こらー! 新人を威嚇するなって言うとるやろ? はやく仕事に戻らんかいっ!」


 人込みをかき分けるようにして背の低い女の人が走って来た。

 オレンジのノースリーブシャツにタイトパンツの快活そうな女性だ。

 耳に大きな輪のピアスをつけている。 美人というより可愛い系。 おっぱいはなかなかだな。 Dランクか?


「シンクお兄ちゃん? デート中だよ? 分かってる?」


 俺の視線を鋭敏に察知する、ロリエルフたん。

 今日の玉木さんはロリ化しているので思っていることを素直に言ってくるよ!


「ひゃー、えらい可愛い女の子やね? こっちのお兄さん?もすごいイケメンや」


 そもそもなんで大阪って話しなのだが。

 玉木さんが雑談していて、基本俺は返事をするだけなのだが、大阪湾というかそこらへんにある某有名テーマパークはどうなったのかなぁ、みたいな話をしていた。

 一度は行ってみたかったなと玉木さんがぽろっと言ったので、ビューンと飛んできてしまったわけだ。

 この辺りに『監禁王の洋館』の個室を繋げておけば、クレハに京都に行きたいって言われた時もすぐ来れるしね。 


「久しぶりの来訪者にみんな舞い上がってたんや、驚かして堪忍やで。 ゆっくりしてってな、歓迎するわ! ……ところで、おたくら何しにきたんや? 避難しにきたって感じやなさそうやけど?」


「デートよ。U〇Jってこの辺じゃなかったかしら?」


 もともと大きい瞳を限界まで見開く女性。


「デートかいっ!?」


 さすが大阪人、リアクションが大きい。


「U〇Jなんかいっても誰もおらへんで? 廃墟や廃墟。 デートやったら、そやなぁ……明石大橋も落とされてもうたし、海遊館の魚も可哀そうやからってみんな食べてもうたしなぁ」


「「……」」


「冗談やん、ツッこんでや!」


 ゲラゲラと笑う女性。

 なかなかどうして元気だ。 

 この周辺はもうオークの進行拠点が点在している。

 オークの支配領域が広すぎてちょっとヤバい。

 この『首都大阪』も東雲東高校と同じく領地化しているようで、城壁に囲まれた拠点だ。 近くには大阪湾もあるし淀川もあるので水には困らなそう。


「アキコ」


 集まっていたヤンキーたちは解散し、遠巻きから見ていたが、一人の男性が声を掛けて来た。


「キョウ? どないしたん?」


「……そっちは?」


「観光デートやって」


「……」


 夏だというのに黒いフード付きパーカーを着た怪しい人物。

 黒いマスクで表情はわからないが、観光デートと聞いて驚いたように眉を上げた。


「……万博公園がオススメ。 あげる」


 男性が薄茶色のビニール袋を渡してくる。

 中を見る。

 この箱の形状はまさか……!?


「たこ!」


「うん」


 漏れ出る暴力的な香り。

 さすが大阪。 わかってるな!

 お返しに樽を渡す。

 木製の樽はマーマンマサトが入っている。


「いい香り! 楽しみね~~」


 玉木さんと手を繋ぎ、お勧めされた万博公園に向かう。 そこでゆっくりと食べようではないか。 久しぶりのたこ焼きに胸が躍るようだ。

 熱気を感じるたこ焼き。

 そういえばあの人、どっからたこ焼きだしたんだろう?

 大阪人は常にたこ焼きを常備しているとでもいうのだろうか。


 まぁどうでもいいか。




◇◆◇



 

「ちょい、キョウ? 万博公園って……」


「大丈夫。 あの人、強いよ」


「あーまぁ、えぐいオーラやったな」


 「東京もんかなー?」と神駆と玉木の奇抜なファッションに生粋の大阪人であるアキコは思った。 東京と大阪、その文化はもはや別の国と言っても過言ではない(偏見)。

 

「全員で束になっても勝てない。 格が違う」


「そこまでかっ!? だからたこ焼き渡して帰ってもろたんね?」


「うん。 治安、悪いから。 女の子に何かあって、逆鱗に触れたら終わり」


「ありそうで怖いわぁ。 治安もはよなんとかせんとね」


 血気最中んな者たちは魔物との戦闘では大いに役立つが、集団生活では困った者だ。

 我の強い者たちが集まり、新たな集団として生活を始める。

 プライドの高い者も多く、複数のグループが形成されていた。

 神駆ほどの突出した存在がいないことも影響しているのかもしれない。

 圧倒的カリスマの不在だ。


「しかし、圧倒的やったな」


「うん」


「圧倒的っロリコンやっ!」


 イケメンなのにもったいないわぁ~!と嘆くアキコ。


「……なんでや」


「小声でツッコミは恥ずかしいで、キョウ?」


「……」


 ツッコミも満足にできない怪しいフードマスクの男であるが、『首都大阪』の重要人物である。

 ぽんぽんと慰められながら男は神駆たちが去った方角を見る。


(あんな人もいるんだな……)


 男から見た神駆は『自由』の権化のように映った。

 誰にも縛られない。

 圧倒的自由を身に纏う存在。


「……」


 羨ましいと思った。

 この出会いが男に僅かな変化をもたらしたことを、本人は気づかない。

 彼のことをよく見ていたアキコだけが、『首都大阪』の領主となる男の出発点を知っているのだった。



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