二百四十六話:玉木パニック

 眩しい日差しにゆっくりと目が覚める。


「ふぁぁ……」


 爽やかな緑の香り。

 ふかふかのベッドで上半身を起こした玉木。

 はらりとシーツが落ちる。


「んーー……シンクくん~?」


 落ちたシーツを手繰り寄せ双丘を隠す。

 神駆が入ればはしたない姿は見せたくない。

 誘惑するときはいいのだ。 しかし普段からはしたないとは思われたくない。


「昨日……どうしたの、かしら?」


 昨日の最後の記憶が定かではない。

 イチャイチャしていたことは覚えているのだが、途中から暴走状態に入り夢か現実かわからない。 夢の中でも暴走状態だったから……。

 玉木はベッドのシーツを確認するが、赤いものが無いことに安堵した。

 どうせなら初めては記憶にしっかりと刻んでおきたいのだ。


「あ、ベッドで寝ればいいのに~~♡」


 ソファで眠る神駆を発見した玉木は破顔する。

 神駆はしょっちゅうフラフラとどこかへ行ってしまうから。

 無防備な神駆の寝顔を堪能する玉木。

 

「写真撮りたい……」


 女子とはなんでも写真に収めたい生き物だ。

 玉木もスマホが使える頃はよく写真を撮っていた。

 網膜に焼け付けるようにしばらくじっと見つめる。

 満足したように鼻息を一つ吐く。


「ふふ、あら? なにかしら、コレ」


 神駆のお腹の当たりに白い丸い物があった。

 

「カプセル? 落として割れたら困るわよね? 机に置いておきましょ」


 玉木の細い指先が伸び、白いカプセルを手に取った。


「わっ、わああああ!?」


 パカンと割れて光が溢れ出す。

 割れた瞬間「やっちゃったー!?」と焦る玉木、そして眩しい光に思わず目を瞑る。

 

>>>スキル【ロリ化】を獲得しました。


 脳内に響くアナウンスと共に体が変化する。

 

「わっ、わわ、わわわわ!?」


 縮む、縮む、縮む。


「ええーー!?」


 ロリエルフたん爆誕。 




◇◆◇




「どふっ!?」


 急な衝撃に目を覚ます。

 腹部に何かが乗っかったようだ。

 敵襲? 

 いや殺意も敵意も感じない。 

 でもなにか叫んでいる。


「シンク君! どうしようっ」


 玉木さん?

 なんだか少し声が変だ。

 寝起きでぼやける視界がクリアになっていく。

 俺の大胸筋に手をやり顔を埋める玉木さん。


「ん……?」


 朝日を反射し煌めく緑玉色エメラルドの髪。 精霊でも住み着いていそうなほどキラキラと輝いている。 ショートヘアも少し伸びただろうか? 空色の瞳を隠しそうだ。

 ピョンと長細い耳は尖っている

 

「無いのっ」


 まるで寝ている主人の腹の上にダイブし朝飯を要求する猫のように、俺の腹の上に乗っかりこちらに何かを訴える玉木さん。

 何か無くしてしまったらしい。

 指輪かな? 俺も無くしたと思ってめちゃくちゃ焦った時がある。 シャム太が見つけてくれたが、どうしてあんなところに?みたいなところにあるからビックリする。


「――――胸がっ、無いのよーー!?」


「?」


 何を言ってるんだろう?

 そう思い俺の腹筋の上で体を起こした彼女の異変に気付く。

 た、たしかに、胸がない。

 俺の腹の上で全裸の貧乳ロリエルフが「嫌ぁーー!!」と頭を抱え左右に振っていた。

 推定年齢9歳。

 胸もなくアンダーヘアーもない。

 声も幼女ボイスで普段の妖艶さはない。

 落ちないように手で支えればすっぽりと体が納まってしまう。

 普通に片腕に乗りそうだな。


 しかしなぜこんなことに?


 「ふえ~ん」と甘えてくるロリ玉木さん。

 事情を聴きたいのだが、とりあえず何か着せよう。

 片腕で抱っこ。

 玉木さんは首に手を回しながら呟く。


「今日は二人でイチャイチャデートする予定だったのに……これじゃお兄ちゃんと妹のお出かけだよ」


 たしかにデートの予定ではあったね。

 どこに行くか決めてなかったけど……。


「お兄ちゃんと妹? シンク、お兄ちゃん……悪くないわね」


 クフフ、と腕の中の玉木さんは怪しく呟いた。



「えっ、可愛い。 似合うかな、シンクお兄ちゃん?」


「うむ」


 玉木さんが選んだのは薄緑色のメイド服のような洋服。

 しかしガチャ産の薄緑色のメイド服は彼女が着るとジャストフィットし、なぜかロリ服に変化していた。 

 サイズフィットする不思議はあるのだが、見た目も変化しただと……?

 随所にパンダの絵柄と頭のホワイトブリムは両サイドにパンダをあしらった緑色のリボンに変化している。 ロリっぽい衣装なのだが、安っぽさはない。 斜め掛けできるパンダ鞄がキュートである。


「あ、パンツの紐もパンダになってるよ」


「う、うむ」


 ロリになってもパンツは紐パンなんだね。

 決して俺はロリコンではないのだが、玉木さんのスカートをたくし上げる動作にどきっとした。


「う~ん? シンクお兄ちゃん、どうかしたの?」


「……」


 絶対分かってやってますよね?


「ねぇねぇ、お兄ちゃんとデート、したいな!」


 いつもと違ってストレートに甘えてくる玉木さん。

 いやまぁいつも甘えては来るけど、気を使っているのはわかってた。 俺のことを優先して、無理は言わない。 皆にも気を使っていたしね。 みんなのお姉さんって感じ。


 だがロリ玉木さんはストレートに甘えてくる。


「どこか遠くに! 二人っきりで、行きたいな~~」


 なんだ、この可愛い生物は。

 お兄ちゃんは全力で妹を可愛がりたい。

 どうやら俺に二人目の妹が出来たらしい。

 

「うむ!」


「やったぁ!」


 腹筋というか下半身に飛び込んできた玉木さんがクンカクンカしている。


「また、違う女のニオイがする、よ?」


「おふ!?」


 光を失った空色の瞳が見上げてくる。

 ギュンと一点に力が入る。


「お仕置きが必要だよ、シンクお兄ちゃん」


「た、たま」


 ヤンデレ幼女!?

 ロリになっても女王様の素質がッ。

 そもそもなんで幼女になったの?


「そうだ、ごめんなさい。 シンクお兄ちゃんのお腹にあった、白いカプセル……割っちゃったの。 ごめんなさい……」


「ん?」


 お腹にあった白いカプセル?

 まったく身に覚えがないのだが。


「そしたら、ピカーって光って光に包まれたら、【ロリ化】のスキルを獲得しましたって」


「ほぅ……」


 白いカプセル……ガチャだよな?

 寝る前にガチャ見てたけど、ひょっとして間違えて押しちゃったのか。

 しかもスキルガチャっぽい。

 初ガチャを寝落ちで回すって……。


「お、怒ってる……?」


「ノー」


 別に怒ってはないよ。

 まぁ寝てたしノーカンということで。

 というか【ロリ化】とか、恐ろしすぎる。

 もし俺が使っていたらどうなっていたんだ?


 ロリ化したのだろうか……?


 むしろ玉木さんが犠牲になってくれて助かった。


「んん……♡」


 柔らかい髪を撫でてあげる。

 いつもよりちょっともちっとした顔が柔らかい笑みを浮かべる。

 

「シンクお兄ちゃん、しゅき!」


 本当に玉木さんが使ってくれてよかった。

 俺がこんなあざといことになったら憤死していただろう、羞恥心で。


「あ、でも24時間で切れるっぽいわ。 再使用も24時間できないみたい」


「ふむ」


「……好きな時に妹プレイできるね?」


 玉木さん、そのロリフェイスで舌で唇を舐める仕草はちょっとダメです。

 手を上下に動かすのはやめてくださいっ!


「今日は前に乗ってもいいかな?」


 遠くに行きたいということなので、遠征デートでもしますかね。 

 ミサ専用シートは危険なので、俺の目の前に座らせる。


「ふふ、楽しみだよ、シンクお兄ちゃん!」


 どこまで行こうか?

 海とか行っちゃおうかな?



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