二百四十五話:「「……!」」
少し疲れた。
「シンクさん!」
『天海防衛ライン』に戻り戦果を報告すると、大絶叫が響いた。
それは歓喜の絶叫だ。
まるで弱小野球チームが初めて勝った時のような喜び方だった。
当然、始まるのは大宴会である。
みんなが食料を出し合い、秘蔵の金色のヤツを持ち出した。
俺もなんか嬉しくなったので少し差し入れをしてやった。
『なぁ……いいだろう? ちょっとだけだ、先っぽだけだから、な?』
酔っ払いその白い肌を紅く染めた統括に天幕に拉致されかけたところで逃げ出した。
もう完全にロックオンされてたね。
既成事実を作って俺を『天海防衛ライン』に引き込むつもりだろう。
体を張るのはいいが、そういった張り方はよくないと思いますまる。
「……さっきは、その、ごめんなさい。 取り乱しました」
お嬢様学校に来ると黒いスケルトンの脅威は去ったようだった。
前線で武装した黒髪ロングを見つける。
手に持っているのは長弓。 動きやすそうな武装ではあるが、少し派手な色を使っているのは指揮官だと分かりやすいようにだろうか。
さっきの念話を気にしているようだけど、俺のことを心配してくれたわけだし気にしなくていいのに。
ぽん、と頭に手をやり撫でる。
戦闘で乱れた髪が気になるのか、彼女は横を向き髪に手をやった。
「……夜が明けますね」
「うむ……」
薄明けの空に赤いグラデーションが現れ始める。
綺麗だった。
彼女の瞳はマジックアワーのように神秘的に色づいていた。
「あ~……シン兄ちゃんだぁ。 疲れたぁ……」
「ベルゼ君、やっほぉ……」
「しんどいぜ……。 これが、さすがに、毎日かぁ……?」
疲労困憊。
そう表情に出ている前衛部隊たちが戻ってくる。
特に薙刀使いのお姉さんはしんどそうだ。
元凶は倒した。 と言いたいところだが、ハクアさん曰くまだあるらしい。
黒い穴のような場所。
先ほど倒した場所よりは小さいが、徐々に拡大していっていると。
まぁそれなりに時間は掛かるみたいだし、とりあえずは倒したと言っていいかな?
みんな精神的にきつそうだし、安心させたほうがいいだろう。
「えっ? く、詳しく聞いても大丈夫でしょうか!?」
「うむ」
「で、ではこちらにっ」
黒髪ロングに手を取られてお嬢様学校へ。
まわりから黄色い声援が飛ぶ。
「栞お姉様をよろしくお願いします!!」
と、なぜか涙する女生徒が多い。
これはみんな疲れているな。 深夜テンションではやしたてている感じ。 文化祭の後夜祭とかこんな感じなのだろうか?
文化祭とかやりたかったな。
「……なるほど。 黒い穴……私のスキルでも見通せない場所がいくつかあるのですが、おそらくそのどれかでしょうね」
いつも案内してくれる部屋。
美人メイドさんはおらず二人きりだ。
黒髪ロングは武装を外し、動きやすい軽装になっている。
「すいません、埃っぽかったですか?」
俺も同じだから気にするなと言いたいところだが、ブラックホーンナイトの衣装チェンジですっかり戦闘の汚れは落ちてる。
ただ命を懸けた戦闘の高揚と、SPの枯渇によるブラックホーンシリーズのデメリットが、
女の子の汗のにおい。
それは鼻孔を擽り全身に興奮をもたらす。
脊髄をビリビリと甘い刺激が駆け巡り脳で花火を起こし、大量分泌された脳内麻薬は脊髄を通り体の隅々に甘露を送り続ける。
(ヤバ……)
自分の意識とは関係なく……。
いや、オメガの悪意のパンプアップがある。
「ふぇ?」
戦闘の汚れを今更に気づいて恥じた黒髪ロングが僅かに距離を置こうとしたので、引き寄せる。 うん、抱き寄せた。
「ぁっ」
バランスを取ろうと俺の太もも近くに手をやった彼女の細い指先はナニか硬いモノに触れる。
恥ずかしそうに顔を赤らめ俯く彼女。
長く綺麗な黒髪は垂れてその表情を隠す。
見たい。
「あっ」
白い肌を真っ赤に染めるその表情に興奮が納まらない。
ゆっくりと顔を近づけると、彼女は瞳を閉じる。
彼女の心臓の音が聞こえてくるほど密着していた。
「んっ……」
二人しかいない静かな部屋に二人の吐息の漏れる音だけが響いた。
◇◆◇
『監禁王の洋館』の自室に戻って来た。
乱れたベッドにえちえち巨乳エルフさんが裸で寝ている。
実に良い寝顔だ。 薄いシーツのようなタオルケットをかけているが、体のラインが丸わかりだしなんなら透けて見える気がする。
裸で寝ると気持ちいいよね。
起こすと悪いのでソファで寝るかな。
「ふぅ……」
疲れた。
『猿人』からの玉木さんそして黒いスケルトンの連戦だった。
肉体的にも精神的にも疲れた一日だった。
いやもう日付変わって日が出てるしね……。
「……」
もし一人だったら。
黒騎士に勝てただろうか?
剣技は互角。
盾の使い方は相手の方が上手かった。 というか戦い方が経験を積んだ戦士だったね。
戦い続け生き延び続けたからだろう。
つまり魔物も成長するのだ。 進化よりもその事実のほうに驚愕した。
「ヤバイなぁ……」
今日はヤバイばっかり言ってるな。
「ヤバイ」
成長できるのは俺たちだけの特権じゃないってこと。
睡魔に意識が微睡む。
ガチャ、回してないな。
ジョブを早く決めて、パッと回したい。
ガチャマスターかブラックライダーか、それとも他の特殊ジョブにするか。
悩んだけどやっぱりガチャマスターかな。
しかし他のシークレットジョブが解放されるかも、とも思ってしまった。
獲得条件を満たしていないのは『死神』と『超越者』。
気になる。というか説明不足。運営にクレームを……。
「ん……」
ガチャのウインドウを眺めながらウトウトと、俺は寝落ちした。
次はどのガチャを回そうか、そう思いながら……。
「「……」」
部屋の主が眠ると、人形は動き出す。
どこからか出したシーツのようなタオルケットを掛ける。
虚空から紫色の石を取り出し二人で分け合う。
主人は大雑把だから気づかない。
気づいても別に怒らない。
「……」「……」
主人のスキルが発動していた。
睡眠中でも発動するスキルは存在する。 警戒系のパッシブスキルなどだ。
人形は覗き込む。
泥のように眠る主人は気づかない。
「「……!」」
やってみたかった。
主人があまりにも楽しそうにソレをやるものだから、つい好奇心で。
ウィンドウをタップすると、画面が切り替わる。
まるで大宇宙のような画面だった。
綺麗な星々が入り乱れぐるぐると回っている。
中央に渦巻くブラックホール。
押せ押せ押せッ!と煽ってくるようだった。
「「……!」」
押してしまった。
ギュルルルルーー!
と周りの星々がブラックホールに吞まれていく。
それはまるで全ての欲望を飲み込む闇。
光などない。
漆黒。
「「!」」
そして白い輝きが産まれる。
黒白緑青赤銀金、あらゆる色の集まる壁が混ざり合いトンネルを創る。
ホワイトホール。
ただ唯一の純白から一つ零れ落ちた。
「白ぉ……」
「「……」」
それは白いカプセル。
ハズレだ。
「「……(ヤバイ)」」
人形たちは逃げるように、どこかへ消えていった。
残ったのは白いカプセルが一つ。
割れて中身が出ることなく残っている。
果たして、失った千魂魄ポイントに神駆は気づくのだろうか?
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