二百四十三話:は?
「まだ出せるのか?」
まだまだ出ますよ。
「絶倫だな」
「……」
変な誤解を生むからやめてください。
SPはまだまだあるから『デックイグニス』を放つのに問題は無い。
しかし、魔物の数が多いので補給できれば良いのだが。
この場にいる『処女』は……。
「は?」
「ん、どうした? 私の顔に何かついているか?」
俺はメタリックフレームのインテリヤクザ眼鏡をかけ周囲の女性たちを見た。
この眼鏡は処女を判別してくれるのだ。
結果は次の通り。
ハクア『処女』
アマネ『処女』
ここまでは分かる、順当だろう。
しかし……。
統括『処女』
な、なんだと……?
「変な奴だな……?」
もう訳がわからないよ。
クソビッチ上官じゃないのかよ、夜な夜な隊の男どもを侍らせてハッスル三昧じゃないのかよっ。 処女だけどア〇ルビッチとかいうオチですかぁ?
「そんなに見つめられると、恥ずかしいぞ……?」
無表情で頬を赤らめるなよっ。
「……年上が好みなんですか?」
ハクアさんも年上だと思うけどね!
まさかの事態に動揺を隠せない。
しかし戦闘は待ってくれない。
気配察知はビンビンに魔物の襲来を告げてくる。
左右から魔物が向かってきている。
おそらくすべて黒いスケルトン。
「ちょ、ちょ、っとヤバいわよ!?」
ヤバイ。
「どうされますかっ、統括!?」
「ふむ……」
これは魚頭無限狩り以来のヤバさだ。
さすがの敵の多さに皆が青い顔をしている。
これだけいると凍らせて倒す前に溶けて動き出しそうだ。
乱戦になれば統括のスキルはフレンドリーファイアで使えないからな。
他にも隠し玉はありそうだけど。
「ふは」
後退してきた部隊たちと入れ替わり前へ。
二人の護衛はもういいだろう。
俺は新たなるスキルガチャの為に魂魄ポイントが欲しいのだよ。
しかもハクアさん曰く、この施設みたいのが複数あるらしい。
一個くらい狩りつくしても問題ないだろう?
「おい、君?」
継続戦闘を考えて『ヴォルフライザー』に換装する。
チェーンソーのような大剣は振るうとその刃を回転させ、甲高い音を響かせる。
フレイよりも重く長い、しかし手に馴染む。
「「「っ……」」」
まるで俺の狂気が伝播したように、後方から息を飲む音だけが響く。
スケルトンたちのカチャカチャとした音も聞こえない。
黒いスケルトンは音を消す特性もあるんだろうか?
「征く」
敵も強くなっている。
足踏みは許されない。
狩って狩って狩りまくって、ガチャを回す。
「待てっ――――」
黒いスケルトンにも、猿人にも、炎の魔人にも、……たとえ魔王でも。
彼女たちを傷つけさせない為に。
胸は熱く蒼炎が全身を焼く。
「はっ、ははっ、――――はははは!!」
漆黒の闇を蒼い狼が駆け抜ける。
◇◆◇
狂わせる。
「「「ガゥルル……」」」
まるで下等な魔物のような呻き声を漏らす部屋の主は、壁の一点で鬱陶しく明滅するソレを見つめていた。
『最下位』
そう描かれたネオンライトが魔王の心を狂わせる。
黒の魔神の呪いか。
いや魔王というものはそもそもプライドが高い。
まして黒の魔皇帝となるために『魔皇帝位争奪戦』に参加してきた血気盛んな魔王であればなおさら。
「「「どこで狂った」」」
見つめる明滅するネオンライトは、まるで生き物のように部屋を行き来する。
ランキングの変動により魔王の部屋を移動するのだ。
しかしながら、ここしばらくはひとところに留まっている。
「「「どこで……」」」
要因はいくつかあるだろう。
一つに本拠地の選定ミス。
666体の魔王が同時に地球へと顕現する。
その際に本拠地の場所を決める重要なファクターとして、地中を流れる気『龍脈』を計算し龍穴近く、そして獲物が多くいる場所に本拠地を作った魔王は多かった。
本拠地を強化するリソースは多い方が良い。その選択は間違っていないだろう。
ただし、そう単純に考えた者が多く魔王同士のリソースの奪い合いが起こることくらいは想定すべきであるが。
「「「……」」」
ネオンライトがうざい。
ただの光の明滅が大いに心を苛立たせる。
「「「魚人」」」
魔王が討たれたことは全ての魔王が知っている。
ただしどの魔王が討たれたかを知っている者は少ない。
領地を隣接した者くらいだ。
現状は異界となり侵攻できない。 アンデット、オーク、ヒューマンに囲まれ侵攻を妨げられていることも『最下位』から脱出できない要因の一つ。
「別の魔王に破られたと思ったが」「まさか」「ヒューマンに」
三つの顔が別々に喋る。
一体しかいない魔王の部屋でワイワイと口々に語る。
最初に躓いたのはどこだ?と、そしていつものように一つの結論に至る。
「クロが死んだからか」「「……」」
すでにいなくなった眷属を思う。
少なくないリソースを投じ召喚した己の眷属を。
『最下位』へと転落するきっかけになった出来事を。
不完全な状態とはいえ信頼できる部下が消滅したという事実を理解したくなかった。 己の権能の一部を持った可愛い部下の消失を認めたくなかった。
しかし結論がそこに行き着く。
「「「許さぬ……!」」」
沸々と湧き上がる怒りにその体が燃える。
漆黒だった体毛は赤く赤く燃え上がり部屋の温度は一気に上昇する。
黒と赤の混ざりあったような炎が躍るように揺れている。
『獄炎』
「イフリートが言っていたか」「ああ」「魔王の力を感じたと」
『獄炎のケルベロス』
「奪える?」「高みに」「そうだ」
黒の魔皇帝位を目指す魔王。
「「「奪えッ!」」」
三頭犬の怪物は鋭い牙を剥き出しに口を揃え吠えるのだった。
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