二百四十二話:黒いスケルトン

 変態だ。


 美人だが、恐らく妙齢の女性。

 30歳手前といったところの美人さんに子作りを要求された。

 もう事案ですよこれは、僕15歳だからね?


「行くぞ」


「はいっ!」


「……はぃ」


 30名程の部隊で進軍を開始する。

 夏だというのにみんな冬の格好だ。

 先頭を行く統括のスキルへの対策。

 敵だけでなく味方にも影響のあるスキルとは使いずらいね。


「凍てつけ。 ……やはり、アンデットには不向きだな」


 広範囲のアンデットが一斉に凍りつく。

 しかし倒している間に氷は解け始め動き出す。


「十分ですよ! 統括ッ!」


 生者であれば凍らせれば倒せるか、凍傷でダメージを負わせられるんだろうが、アンデットには効き目が弱いようだ。

 それでも物理攻撃が通りやすくなるようで、黄金のハンマーを振り回すロリ巨乳さんが敵をなぎ倒していく。


「ピヨちゃん」


 大きくなった白鳩。

 ボウン!と擬音が付きそうな感じで黒いスケルトンを踏みつぶしていく。


「働いたらどうだ? ご主人様」


 なぜか同行することになった俺は手持ち無沙汰だ。

 結構みんな強いし、統括のスキルが強力すぎる。

 さすがは最前線・・・の責任者か。

 ある程度の実力がなければみんな従わないだろう。


「私の男になるなら、それなりに実力を示しておいた方が良いだろう。 なぁ? やる気あるのか?」


 やる気はあるよ、でも男になる気はないよ?


 女性は歳を取ると性欲が高くなるというのは本当らしい。

 そんな美人で冷たい無表情の奥で一体ナニを考えているというのだろうか。

 

「……私の、ご主人様です」


「いいだろう。 シェアしようじゃないか」


「……よくないです?」


 上目遣いでこちらを窺うハクアさん。

 この人もなぜか好感度が最初から高い。

 これがモテ期というやつだろうか?

 世紀末の不思議。


「新手が来るぞぉ!!」


 野太い男の声が響く。

 正面からデュラハン型……じゃないな。 

 それよりも少し小さいし、骨の馬にスケルトンが騎乗している形だ。

 やはり色は黒く靄のようなものが全身を覆っている。

 ブラックスケルトンライダーって感じかな。


「くそっ!?」


 統括の氷気による凍結よりも早くこちらに到着する。

 ハンマーを振るうが華麗に避けられる。

 

「ちっ、味方に影響を及ぼす。あまり近くは使えん」


 ぶっちゃけ、統括の側は寒い。

 みんな離れているのは単に統括が怖いからではなく、スキルの影響に関係している。

 護衛は俺だけだ。

 防寒着を着用しているハクアさんと統括の二人。

 他にも魔法を扱える人はいるが、防衛ラインの護衛で残っているらしい。


 ブラックスケルトンライダーが2体。

 味方のハンマーを躱し、その赤い瞳は統括だけを見て突っ込んでくる。

 ヘイトを集めているようだ。


「――――っ!?」


 一閃。


「ふん」


 『ブラックホーンフレイ』で問題なく切断できた。

 宝玉から剣先へとSPによる補強というかエフェクトが走っているけど、属性的な物が付与されているのだろうか? 蒼炎バフみたいな。 


 周囲の味方が息をのむ。


「素晴らしい。 予想以上だ」


 無表情に口角を上げる統括。


「救世主の器だ」


 なんか怖いこと言ってる。

 絶対そんな器じゃないから。

 ただのコミュ症ボッチだから。

 あ、いや、最近はボッチじゃないけど。


「……異端者にはなってくれるなよ」


 二体目を屠る。

 統括がなにか呟いていたがよく聞こえなかった。




「はぁ、はぁ、……濃くなってきたわね」


 ロリ巨乳さんが荒い呼吸を整える。

 大きく呼吸する度、白いレザー装備をその双丘は上下させる。

 当たり前だが奥地に進むに連れ敵の遭遇率も跳ね上がる。 

 敵の数も増えたが、黒い靄というか瘴気のようなものが辺りに色濃く見えるようになった。 ほぼ全ての敵が黒いスケルトン種に代わっている。

 そういえばゾンビは黒くないのはなんでだろう?


「……いくつか存在しているようです、ご主人様」


 白鳩が偵察を終えてハクアさんの影に戻る。

 

「儀式的な物か? やはり時間を与えることは致命的なミスになる。 中央を説得する為にも、確証となる成果が欲しい」


 目の前にはかつては存在しなかった建物が出来ているらしい。

 まるでコロシアムのようにすり鉢状の円形闘技場だ。 前に見た砦とも違う形をしている。漏れ出るように黒いスケルトンたちが出てきていた。


「っ! 盾構えろッ!!」


 なにか燃え盛るような音が聞こえたと思うと、男が叫ぶ。

 その後に聞こえてきたのは絶叫だ。


「熱つ゛ぅ!」


 紫焔が盾を持った男を燃やす。


「氷気! 下がれっ」


 統括のスキルに鎮火された男が盾を構えたまま下がってくる。

 その視線は前方を向いたままだ。 合わせてみんな少し下がる。

 代わりに敵の部隊が前に出る。


「メイジ系変異種? いや……」


 たまにリーダー的な強い個体はいる。

 特殊個体のような。

 しかし今目の前には複数のローブを纏ったスケルトンが存在していた。

 手にはその瞳のように赤い宝石のついた骨のワンド持っていた。 ローブの下の骨も黒いように見える。

 ブラックスケルトンメイジ。

 魔法を使うスケルトンか。


 双頭の野犬の炎のブレスよりも遠距離から、紫焔は放たれる。

 盾による防御も意味をなさない。 防御ごと燃やされる。

 

 撤退。


「ちっ……」


 なんの成果も上げられず撤退する。

 暗い表情で帰れば待っている者たちの落胆する顔は目に見える。

 統括の嫌そうな顔は、共に来た味方の被害を考え決断しようとしていた。


「『デックイグニス』」


 蒼炎に輝く長剣を顔の前で構え詠唱する。


 無数の黒いスケルトン。

 剣と盾を持つブラックスケルトンウォーリアー、骨の馬に騎乗するブラックスケルトンライダー、骨のワンドを持つブラックスケルトンメイジ。

 標的のみを捉え、長剣を振るう。


 炎獣が味方を避け宙を走る。


「「「――ッッ!!」」」


 激突。

 黒い怪物たちに喰らいく炎獣。

 天へと昇る浄化の炎は味方の顔を照らし、熱波は皮膚を焼くように熱い。

 炎柱は暗かった世界を明るく照らようだった。


「……本当に予想以上だな、君はッ!」


 驚きと畏怖、そして狂気に満ちた瞳が俺を見てくる。

 まぁ慣れた物だ。

 今では快感ですらあるよ。


「潰す」


「……流石です、ご主人様」


 恍惚の表情で見てくるハクアさんがちょっと怖い。





――――――――――――


久しぶりの大雪ですね(関東地方)

明日は更新できるか微妙です……(>_<)

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