二百四十一話:そうだ、返事はハイかYESしか認めない
危なかった。
「ふぅ……」
まさに危機一髪。
玉木さんの猛攻を耐えしのぎ、先にノックダウンさせようと思ったのに、逆に夜の女王化したエルフさんにヤラれてしまうところだった。
まぁいまさらな気もするのだが、……4人には責任を取るつもりはある。
本番はしてないのだけど。
重婚できる国にでも行こうか? ……重すぎるか? わからないよ、助けてジェイソン!
大事なのは彼女たちの気持ちだよね。 話し会うべきか。 いやしかし口下手なのだよ、俺は。 あれ、そういえば、告白ってしたっけ……? 彼女たちからは好きって言ってもらったのに、俺って最低な……。
『ピヨ!』
とりあえず、置いておこう。
また後で考えようそうしよう。
白鳩に急かされ歩く。
いきなり目の前に出現したけど、どうなってるんだ?
ハクアさんの能力だよな。
伝書鳩てきな? 異界まで来れるなんてすごいな。
「えっ?」
一度個室に入り俺の持っているマスターキーではなく、真珠のついた個室の鍵で外に出る。
『天海防衛ライン』近くのマンションの屋上へと出たのだが、雪が降っていた。
ダイヤモンドダスト。
空は夜空であり、やや曇ってはいるが月が見えている。
もう片方の空は紫色の雲に覆われたアンデットの支配地で紫雷がバチバチと光っている。
雪など降りそうな天気ではないのに、ここらへんだけ寒く雪が舞っている。
「はぁああ!!」
黄金のハンマーが振るわれ、黒いスケルトンを粉砕している。
粉々になったように骨が弾け飛んでいるぞ?
凄い火力だな。
「ん?」
よく見ると黒いスケルトンは凍っているようだ。
白いスケルトンやゾンビもいるが、それらも凍っている。
正確に言えば氷かけ。 動きは鈍く、電池の切れかけの人形のように動きは遅い。
防衛している者たちがハンマーでぶった叩き倒している。
アンデットの支配領域を見ると、黒いスケルトンたちが押し寄せて来ている。
向かってくる魔物は凍っていない。
割合も黒い奴が多くなっているようだ。
「どうなってる……?」
『シンクさん?』
黒髪ロングから念話だ。
凄く疲れたような声。
何かあったのか?
『繋がった……。 心配しましたよ……』
「うむ?」
『あなたに、なにかあったのかって……。 ……ごめんなさい、勝手にそう思っただけですから、シンクさんは悪くありません』
な、泣いてる!?
ひょっとして『監禁王の洋館』にいると念話繋がらないのかな?
ちなみに俺は念話スキルは持っていないので受信しかできない。
求むっ、泣いた女の子の慰め方ッ!
『黒いスケルトンの出現を確認しました。 物理防御に秀でており、魔法が有効のようです。 私のスキルでも見通せない、黒い靄が拡大しています。 お気をつけください、シンクさん』
お嬢様学校の方でも黒いスケルトンが出現しているのか……。
こちらの確認が済んだら早くいかないと。
アンデットの支配地域から嫌な感じがする。
ヒュゥと体を冷たい何かが吹き付ける。
「君、ちょっといいか?」
振り向くと女性がこちらを見ていた。
声色は繕ったような声だったが、表情は死んでいる。
警戒心マックスといった感じ。
「ここで何をしている? ちょっと、来てもらえるかな?」
美人ではあるが、瞳は鋭く無表情だ。
赤いニットセーターに黒のロングコートと不審者である。
ハクアさんと同じく白い髪をしているが、こちらは白銀のように煌めている。
まるで月の光を反射して光るダイアモンドダスト。
吐く息も白く、ゲレンデにいるのではと錯覚してしまう。
向かう先は一緒だろうし別に従ってもいいのだが、職質のようで抵抗したくなる。
「ふぅ……。 大人しくついてこい。 それとも、乱暴にされるのが好きか?」
「……」
ハスキーボイス、というかドスの効いた声ですね。
美人にそんな表情でそう言われたら、ゾクゾクしちゃうよ。
沈黙はお気に召さなかったようで一つ舌打ちをされた。
世界が凍る。
パキパキと音を立てるように世界が凍った気がした。
いや、事実凍っていたのかもしれない。
「なに……?」
凍てつくような風に顔を顰める。
けれど一瞬だ。
胸元を中心に『ブラックホーンオメガ』から全身に熱が伝わる。
蒼炎の加護、とでもいうべき温かさに全身が包まれる。
「と、統括ッ! その人はぁ、味方ですぅーー! ……えっと、ご主人、じゃない。 『空飛ぶバイク』ですーー!」
下からハンマーの人が大声で叫ぶ。
「なに?」
「……」
ハクアさんには名乗ったがハンマーの人には名乗ってないんだっけ?
俺も名前忘れちゃったけど……。
「報告書はしっかりと書けと言っただろうが……」
「ハイッ! スイマセン、スイマセンッ!」
赤ニットの人、統括さんから冷気がおさまる。
「すまない。 非常事態が発生している状況で正体不明の人物を見かけたのでな。 手荒な真似をして申し訳ない」
「赦す」
「……」
「問題ないよ、気にしないでください」って言おうと思ったのに。
統括さんは無表情で頬を引くつかせている。
「一人か? ベルゼバブ隊の者は、女剣士はいないのか?」
「ノー」
「そうか」
ベルゼバブ隊って、恥ずかしいな。
ジッと見つめられる。
値踏みされているようだ。
「女剣士の話しばかりだったが、良いじゃないか。 体格も顔だちも英雄に相応しい。 それに私の氷気を完全に抵抗しているようだしな……。 ――どうだ? 私と子作りをしないか?」
「はい?」
「そうだ、返事はハイかYESしか認めない」
統括はその白銀の髪をかき上げながら言い捨てた。
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