二百四十話:
夏の夜だというのに、底冷えするような怖気さを感じる風が吹いていた。
「うあぁ……」
『天海防衛ライン』の壁から眼前を見る者が呻き声のような呟きを零した。
まるで黒い海。
風に色がついたように、黒い波が空から押し寄せてくる様を見て。
吹き荒れる瘴気。
「――っ、来るぞッ!!」
ガンガンガンと警報の音を鳴らす。
魔物の襲撃を知らせるそれは、いつもより力が入っていた。
「黒い……スケルトン?」
武装した黒いスケルトン。
その身に纏う濃厚な死の気配に、対峙する者たちに緊張が走る。
「特殊個体? いや、多すぎるな……」
通常のスケルトンとゾンビもいるが、黒いスケルトンの数も多い。
時たま現れる特殊個体は大抵一体で出現したが、この黒いスケルトンたちは複数存在している。
「『デコボココンビ』に連絡、それに『赤城統括』にも緊急事態だと知らせてくれ」
「了解!」
黒いスケルトンの持つ盾が、鈍器を持って攻撃した男を弾き返す。
「はぁあ!?」
通常のスケルトンでは考えられない怪力。
続く凶刃を転がるように躱した。
赤い瞳が追ってくる。
幸いにそこまで速度はないようだ。
「くそっ、殴った感触がヤバイ。 魔法持ち呼んでくれ!」
「向こうで対処中だ! どうにかしろッ!」
「はぁああ!?」
『天海防衛ライン』の防壁は縦に長く続いている。
強力な魔物の襲撃があれば、その場所に人員を的確に割いて対応してきたのだが、全面に黒いスケルトンが出現していた。
「どうにかって、言ったってよぉおお!?」
『天海防衛ライン』は、いや、人類の多くは致命的な失態を犯している。
魔物に自由を与えたこと。
魔物の脅威に怯え後退を選んだこと。
魔物の勢力拡大を全力で阻止しなかったこと。
魔物の成長を許してしまった、つまりは魔王を侮ったということ。
人類は全力で抵抗しなければ、すぐに魔王たちに侵略されるだろう。
「アマネさん!」
「なによ!? この黒いの!!」
黄金のハンマーを振るうがいつものように一撃とはいかなかった。
小さな体を目いっぱいに使った強力な一撃も、黒いスケルトンの盾に防がれる。
黒い靄のようなモノが防御力を増加させているようだった。
物理的な攻撃に対する耐性でもあるかのように。
「漆黒の穴……溢れ出ている?」
蠢く漆黒の穴から漏れ出るように黒いスケルトンが姿を現す。
漆黒の穴の中心では一体何が起きているのか?
彼女のスキルでも覗き見ることができない。
白鳩が何かに打ち落とされてしまうから。
無数ともいえる数の黒いスケルトンが生み出される。
しかし、真の恐怖したのはその中心。
まるで奈落のような漆黒の穴。
占うまでもなく災厄が存在している。
またしても避難所を蹂躙される未来を幻視した。
「ご主人様……」
アルビノの少女の手から白鳩が飛び立ち、歪んだ空間に消えていく。
最後の望みを託してどこかに消えていった……。
◇◆◇
玉木は油断していた。
「んっ、ふぅっ、ぅぅっ!」
神駆がこれほどまでに成長しているとは予想外だ。
(またっ、わたしだけっ!? ――――んんんっ~~!!)
ちびっ子魔法少女と特訓をしていることは知っていた。
けれどこれほどの耐久力と持久力、それにテクニックを身につけているなんて!?
若さゆえに早いが、成長も著しい。
(もうだめぇえええええっ)
「ひんふゅっ、ふゅぅううううううううううううんっ!!」
お風呂を堪能した二人。
神駆はお疲れのようなのでベッドに、玉木は抱き枕として布団に潜入する。
とうぜん煮えたぎる情欲を抑えきれず、もぞもぞと誘惑を開始するえちえちエルフ。
何をどうしたかは伝えられないが、今は神駆の足のほうに玉木の頭がきている状態だった。
「ぷあっ、あんっああっ。 もう、欲しいよぉ……」
お姉さんとして我慢していた。
色々と誘惑はするけれど最後の一線は越えない。 それは若い二人を考慮してのこと。
しかしあまりにもじれったい神駆と木実の進展具合に、玉木の性欲の限界が訪れた!
早く二人がゴールしてあんなことやこんなことをしてくれれば、私もできるのに!と我慢が限界突破してしまったのだ!
「いいよね!? いいわよね!?」
良くないよ!と思いつつも無下にできない神駆。
馬乗りになった玉木の魅惑の腰が怪しく動く。
前後に動くたび小さく声を漏らし恍惚の表情を見せる。
そして彼女の細い腰が浮く。
まるで挟んでいた何か上に向かせるような手の動き。
いよいよ越えてしまうのか、神駆ッ!?
『ピヨ! ピヨ!』
「わあっ!?」
目の前に突如現れた白鳩に、玉木は驚き後ろにボフンと倒れこんだ。
「「……」」
代わりに起き上がった神駆の瞳とつぶらな赤い瞳が交差する。
やっちまったか?と訴えるような瞳に神駆は一撫でして答えた。
驚き目を回した玉木にタオルを掛け、神駆は『天海防衛ライン』の近くへと繋がる個室へと向かうのだった。
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