二百三十七話:掃討×遭遇×猿人


 ミニオークとバードから獲得できる魂魄ポイントは2~4といったところ。


「少ない」


 オークは20~30、大きい猪は50くらい。

 侵攻拠点を一つ潰して300~400ってところだろう。

 ガチャスキル5で解放されたスキルガチャは、一回で千魂魄ポイント必要だというのに……。


「解除されないな?」


 ショッピングモール内の掃討は完了したが、【猫の手】の肉球結界は解除されない。

 なぜだろうか?

 時間が必要? それとも……。


「周辺も掃討するか……」


 静かなショッピングモール内に呟きが響く。

 しかしすぐに搔き消された。

 怪物たちの慌ただしい足音によって。


 外から入って来たミニオークたちに囲まれる。


「ふむ」


 戦い方を変える。


「エヒエヒ!」


 あえて避けない。


「エヒ――」


 ただただ直線的に最速で最短で敵を屠る。

 カウンターではなく相打ちだ。

 ガン!と棍棒が当たる音が響く。

 

「『デックブルワーク』」


 詠唱と共に『ブラックホーンナイト』は漆黒のオーラを纏う。

 まるで内から零れるように溢れ出す。

 棍棒が与えたであろうダメージは波紋となって周囲へと弾き返される。

 

「ヒッ!?」


 驚愕の表情を浮かべるミニオークたちを屠っていく。

 数の有利も攻撃が通じなければ意味がない。

 打撃武器はその衝撃を弾き返し、斬撃は強固な鎧が守る。

 

「最高」


 雑魚狩りはこうでないと。

 フルフェイスの下で俺の口角は吊り上がる。

 魔物が煙を上げ魔石とドロップアイテムに変わっていく。

 まるでネトゲのレベル上げのようで笑えてくる。

 これで今は電源すら付かなくなったスマホも用無しだ。 もともと友達がいなかったからネトゲくらいにしか使っていなかったからね。


 考えながら戦闘を行っていると、ふとスキルを閃く。

 先ほどの『デックブルワーク』もそうだし『黒閃』などもそうだ。

 熟練度を満たして解放されたのかもしれないな。

 『デックイグニス』のように最初から使えたのはなぜだろう?


「ふむ」


 『ブラックホーンナイト』は初期スキルでパッシブを持っていたとか?

 まぁなんでもいいか。

 とにかく効率的に魔物を屠れるようになったし、防御力アップは望むところだ。


 ショッピングモールを出ると、中継拠点が築かれていた。

 大きな櫓がいくつも並びまるで砦のようだ。

 大鍋から煙は立ち込め、食事をしていた形跡もある。 こいつら食べるんだな? 魚頭の集落では不気味なオブジェクトがあるだけだったが。


 櫓から弓矢が飛んでくる。

 遠距離攻撃持ちも出始めたか。

 こうなってくると一気に難易度が上がるぞ。

 

「【千棘万化インフィニティヴィエティ】」


 魔棘をライフルのように弓兵に飛ばす。

 魔王のスキルは投擲ではなく、あくまで魔王のスキル。

 狙いを寸分たがわず、なんなら軌道すらも制御して身を隠した弓兵を貫く。

 櫓という絶対有利にいたはずなのに、無駄だったな。



「――――ッ!!」


 悪寒。

 

 広がった視界がソイツを捉えるより先に、本能に従って飛びのいた。

 雷光が目の前を真っ白に染め上げる。

 痺れるような感覚が通りすぎ轟音が耳朶を撫でる。


 ――――チ゛ィィイイ!

 

 アスファルトの焦げるような嫌な臭い。


「ぐっ!?」


 着地した俺に二撃目が襲い掛かった。

 先行放電を受けた瞬間、『ブラックホーンナイト』の腰回りの防具が伸び地面へとアースする。 

 真横からの落雷を地面へと受け流すが、痺れとも衝撃ともいえる何かが体を襲う。

 熱を持ってダメージを伝えてくる。

 一瞬呼吸が止まったが、思考はクリアになっていく。

 【不撓不屈】の発動。


(余裕か!?)

 

 敵の姿を見るが追撃の気配はない。

 こちらに手を向け、目を見開いていた。

 ミニオークの驚愕の表情に似ている。


(一気に決める!)

 

 服部先輩の手紙にあった、『猿人』。

 雷の魔法を使う、か。

 地面を蹴るブーツの宝玉が漆黒に輝き疾駆する。


「はぁあああ!!」


「ア゛ア゛アアホホッーー!!」


 彼我の距離を一気に詰め、長剣を振るう。

 SPを吸い上げた宝玉から蒼炎が剣先へと伸びる。

 突進からの斬撃に対し、『猿人』は野太い奇声を上げ迎え撃ってきた。


「「――ッツ!?」」


 拳と長剣がぶつかり合う。

 紫電を纏った『猿人』の拳が、蒼炎を封殺する。

 それに、桁違いの膂力。

 疾駆していた俺が、――――押されるッ!?


「ア゛アホッーー!!」


「ぐっ!?」


 打ち合っていない方の拳が襲ってくるのを肘でガード。

 衝撃と共に雷撃が襲ってくる。

 痺れる、がすぐに回復する。

 木実ちゃんのピンクの雷撃に慣れていなかったら痺れて動けなかったかもしれん。

 ただ焼くような痛みがある。


「っは!?」


「アア゛ホ゛!」


 バックステップで距離を取ると、詰められた。

 振るってくる拳を長剣でガードするが、雷撃が邪魔だ。


(こいつ、魔法タイプじゃない!?)


 メインは近接なのか!?

 まるでインファイトボクサーのように距離を潰し連打を浴びせてくる。

 ガードは出来ているが追加効果の雷がうぜぇ。

 最初に放たれた雷撃ほどの威力じゃないのが救いか。


「ふぅぅ……!」


 【不撓不屈】が切れたら連打を捌けるかわからない。

 怒り狂った猿のようにその鋭い牙を剥き出して襲い掛かってくる。

 連打、連打、連打! 疲れ知らずの化け物の猛攻が止まらない。

 両腕に付けた黄金の腕輪は紫電を放ち続けている。


「【エポノセロス】ッ!」


 大楯を召喚しジャストガード。

 

「ア゛ホ゛!?」


 エポノセロスの表面に浮かぶトリケラトプスのような幻影。

 僅かに『猿人』が怯んだ。


「『デックイグニス』ッ!」


 後方へと跳躍しながら長剣を振るう。

 視界に捉えた『猿人』へ炎獣が突き進む。

 宙を駆け一直線に向かい、炎の柱を上げた。


「――――『羅弩棘擲インフィニティパイル』ッッ!」 


 束ねた竹串を宙へと投げ【千棘万化インフィニティヴィエティ】を発動させる。

 集中力を束めそれらを統合していく。

 脳が焼き切れそうになるほどの負荷を感じる。

 死神を倒した時は夢中だったから分からなかったが、もの凄い負担が脳に掛かる。

 それでも【不撓不屈】による集中力の強化が技を成功させる。

 幾重にも束なった魔棘は螺旋を描き融合した。

 

「ア゛――――」


 特大魔棘は螺旋を描き炎柱から出ようとした『猿人』を直撃する。

 周囲の空間すら破壊しそうな一撃は、炎柱を消し飛ばし敵の中継拠点を巻き添えに『猿人』を吹き飛ばす。


「っ……」


 殺意。

 先ほどよりも濃厚なソレは、土煙を上げる前方より色濃く放たれた。


 ――――退却!


 『ブラックホーンシャドウ』で全力で逃げる。

 その瞬間。

 カッ!と雷光が走り何本もの落雷が中空より召喚され辺りを埋め尽くす。


「危ねぇ!?」


 暴雷嵐サンダーストームだ。

 少しでも逃げ遅れたら危険だった。

 

「……」


 チャンスか?

 雷の嵐で敵の姿は見えないが、必死な感じもする。

 先ほどの攻撃はまともに喰らったようだし、瀕死の抵抗か?


「やめとこ……」


 【不撓不屈】が切れたせいか精神的な疲れがある。

 なんか体もヒリヒリするし、火傷してる?

 大人しく撤退しよう。


 雷はやっぱり苦手だ。



 


◇◆◇




「おかえりなさい、シンク君! って、大丈夫ッ!?」


「?」


 東雲東高校に帰ると笑顔の玉木さんが出迎えてくれる。

 しかし焦ったようにこちらを見ている。

 多少の火傷は負ったけどこれくらいなら一晩も寝れば治る。

 魂魄ランクが上がったおかげかスキルレベルのおかげか、自然治癒力は高まっている。


「か、髪が……」


「っ!?」


 えっ、と慌てて近くのガラスを見る。


 な、なんじゃこりゃあああ!?


 蒼銀のウルフヘアだった俺の髪がっ!

 チリチリアフロに!?

 サイドがツーブロックのせいで以前よりも酷い髪型にッッ!

 フルフェイスだったのに、なぜ!?

 

「だ、大丈夫よ、シンク君。 似合ってるわ!」


 ハーフ顔だからね!

 クォーターだけど彫りが深いから意外と似合うけど、より恐れられそうなんですけど?


「髪、切る」


「あら、じゃあお姉さんが切ってあげよっか?」


 またシャム太にでも頼もうかと思ったけど、玉木さんがヤル気だ。

 

「いきましょ?」


 嬉しいが、疲れたので眠りたいのだけど。


「マッサージしてあげる♡」


「うほっ」


 どこのマッサージでしょうか?

 思わずごくりと喉がなってしまうあたり、まだまだ元気かもしれない。

 いや戦闘で昂っているだけか。


「火傷してるじゃない!? 痕が残ったら大変! ポーションもお姉さんが、ぬりぬりしてあげるね?」


 いつになく世話焼きな玉木さん。

 ボディタッチが多めで周りの視線が痛い。

 バカップルみたいですぞ。


「ふふふ、シンク君」


「……」


 完全に甘えんぼさんモードの玉木さんにがっちりホールドされた。

 これは長い夜になりそうだ。




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