二百三十六話:手、手がっ!?


 藤崎駐屯地の演習地に大きな檻が出来ていた。

 黒い鉄材によって作られているが、不思議なことに繋ぎ目が見えない。

 隊員たちもどこにあったのか疑問に思ったが口には出さなかった。


「やめてくれよ! 俺たちが何をしたっていうんだよ!」


「……なにもしないからだ。 まだわからないのか?」


「は?」


「ほんとうに、救いようがないな」


 京極指令の言う通りだと、隊員たちは呆れて離れていく。

 炎天下の中放置された者たちは、口々に愚痴を言い合っている。

 

 最初こそこの酷い仕打ちに異議を唱えた者もいたが、問答無用で檻に放り込まれてからは誰一人として口答えしなくなった。


 むごいものだ。


「死んじゃうって!?」


 藤崎駐屯地に貢献しないクズの生死など興味ない。

 隊員たちの環境は改善され連帯感は強化された。

 それは同じ罪を負ったからだろうか。

 全てを背負う覚悟を見せる男の言葉に共感したからか。


 藤崎駐屯地を恐怖と狂気が支配していく。


「飯だ」


「……なんだよ、コレ?」


 赤黒いスープ。

 大量の肉片と油が浮いている。

 臭い。


 扉は開けず引き出しに食事を入れ中へと放置した隊員はその呟きに答えず去っていく。

 久しぶりに見た肉はまったく食欲をそそわない。

 これなら『かんぱん』のほうがマシである。

 しかし喉は乾いた。

 

「……クソ!」


 一口飲む。


「うぇああ゛っ――――」


 体が拒絶し戻してしまった。

 饐えた臭いが檻に充満する。

 非難めいた目を向ける他の者たちはソレに手を出すことは無かった。



 そんな地獄の光景を遠巻きに避難民たちは見ていた。


「最近、人がいなくなってるってさ」


「あ? アレじゃなくて?」


「いや違う、失踪してるらしい」


「……脱走じゃなくて?」


「……」


 どこに行くと言うのだ。

 世界は変わり果て怪物が跋扈する世界で。

 たとえ酷い環境であっても、怪物を討伐してくれる者たちがいるこの場所を離れてどこに……。 

 電気・ガス・水道、全てのライフラインが途絶えた。 

 それらを補うために行っていた行動の全てを隊員たちが行ってきた。

 加えての怪物との戦闘。

 それなのに……今まで自分たちが彼らに取ってきた態度は酷かったと、改めて思い知る。


「当然の罰なのか……」


 今もまだ襲ってくる怪物と戦い傷ついてる彼らは守ってくれている。

 けれど理解せず非難する者たちも多い。

 避難民たちの中でも意見は割れ始めていた。


 あまりにも遅いというのに。




◇◆◇




 ミニオークたちに指示をだすオークへと宙を蹴り肉薄する。


「エブヒッ!?」


 ショッピングモール二階。

 真ん中のエリアは天井まで床はないタイプ。

 重装備の俺がトリッキーな動きを見せたことに動揺したオークは抵抗できずに長剣に斬り裂かれる。


「エヒエヒ!」


 『ブラックホーンナイト』は重量軽減でもあるのか重装備でありながら軽い。

 動きを阻害しないように関節部分はメッシュぽくなっている。 鋼糸ってやつだろうか? 弱点になるような脆さではない。

 ミニオークの振るった棍棒ごときでは傷つかない。

 驚愕するミニオークを一刀両断する。


「ふはは」


 なによりフルセットになったことで性能も上がっている。


 フルセット装備ボーナスか!?


 建物が燃えても困るので『デックイグニス』は封印。

 ひたすら近接戦闘をこなす。

 視界が広い。

 まるで360度見えるかのように感じる。


「はあっ!」


 『ヴォルフライザー』と比べて『ブラックホーンフレイ』は細く短い。

 グレートソードとバスターソードの違いだ。

 実に戦いやすい。

 斬り捨てることもできるし、まるで槍のように突くこともできる。

 盾のような取り扱いは難しいが、そこは『ブラックホーンリア』の機動力でカバーだ。

 虚空回転斬りには向かない、黒閃や千枚兜通しはやりやすいかな。 


「はは!」


 俺は新たな技の開発をしながら、掃討戦を続けていく。


 


◇◆◇




 玉木は油断していた。


「お姉さん言ったよね? 抜け駆けは禁止だって……?」


「「はい……」」


 玉木は東雲東高校のお仕事に追われなかなか神駆とイチャイチャできないフラストレーションを溜めていた。

 でもみんなそうだからしょうがないよねと、あとでいっぱい褒めてもらえばいいやと、仕事を頑張っていた。

 夏の日差しでも日焼けしないエルフって最高だなと、お手入れも欠かさずに神駆との蜜月を楽しみに頑張っていたのに。


 なのにだ!


「神駆くんとお泊りデート」


 三人がジョブを得たので色々話を聞いていたらとんでもない事実が発覚した。


「一緒にお風呂」


 今、玉木の目の前で三人は正座をさせられていた。


「なんでまた私も……」


「ついでよ」


「酷い!?」


 最近は地の部分が出てきた玉木。

 女王様の貫禄である。


「私は……三人だから……」


「葵ちゃん!?」


 女王様の威圧にちびっ子魔女は怯んだ。


「そう、でも、……二人っきりでいっぱい甘えたんでしょ?」


「ギク……」


「やっぱり!」


「葵ちゃんっ!?」


 わちゃわちゃコントをする3人をミサは楽しそうだなと眺めていた。

 わりとボーイッシュな彼女はこのメンバーなら誰が神駆と一緒にいても気にしない。 別の女と一緒にいるとちょっとモヤっとしてしまうが。


 そんなことよりだ。


「えっ、嘘でしょ?」


 気になることは一つだ。


「また……成長しただとッ!?」


 た、確かめねば……!!


 青銀の髪とか思い切ったイメチェンだなと思っていたが、嘘だろ?と木実の一部を後ろから鷲掴みにするミサ。


「うひゃ!?」


「っ!?」


 手が埋もれる。

 なんとういう柔らかさ。

 マショマロおっぱいだ。

 

「手、手がっ!? ――――喰われるッ!?」


 ミサの手が小刻みに震えその弾力に恐れ慄いた。

 声にならない声を呟きミサはダウンした。


 憐れむようにネペンデス君はベッドに寝かせ介抱する。


「嘘……!?」


 次の餌食は葵であった。


「次は私がお泊りデートしますからね!」


 玉木が高らかに宣言し女子会は終了するのであった。



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