二百三十五話:アオハルなの?


 眼前に迫る無数の魔物。

 狭い道路にミチミチに詰め込まれて押し寄せてくる。

 まるで花火祭りの橋の上のような光景だ。


「お兄さん見てるからね! ―――おまえらッ、気合入れろよッ!!」


「はいよー」「えいえいおー」「っしょー」


「でも色目は使うなよ! ――ぶっ殺すゾッッ!!」


 気合入ってるなぁ。

 藤崎女子側の方が数では負けている。

 それに道路での戦闘は三方向から敵が正門に押し寄せてくる形だ。

 余計に人数が分散され不利となる。


「バリケード構築急げ!」


 山木さんたちがあらかじめ作ってあったバリケードを運び補強している。

 ハの字を逆さにした形で道路を狭めている。 鋭く尖らせた杭が突き出していた。

 足元にロープは張られ敵の突進速度も落とせるだろう。

 バードには有効かな。


「放て!」


 左右の道路に校舎から投石が行われる。

 あまり近くから投げると壁を越えようとするのでかなり遠投だ。

 これだけ敵が密集していれば適当に投げても当たるので問題ないか。

 敵にゴブリンほどの知恵がないのか?

 ロープに引っかかった味方の上を踏みしめて正門前へと突き進んでいる。

 

「囲んでボコれ!!」「転ばせるっしょ!」


 ミニオークたちの視線が女子生徒たちを情欲に駆られた瞳で見ている。

 前で戦う男を無視して突き進もうとするミニオークすらいるぞ。


「なめんなっ!」


「エヒエヒ!?」


 ジェイソンのシゴキを受けた忍者高校生たちが俊敏な動きでミニオークを屠る。

 中々に鍛えこまれた体をしている。

 なにより顔つきが違う。

 一体どれだけの経験・・を積んだというのか?


「ひゅう! カッコイイよーー!」


「いいね! がんばれー!!」


 戦闘中だというのにギャルたちがきゃっきゃと男たちを褒めたてる。

 男たちもそれに応えさらに戦意を上げていく。

 アオハルなの?


「……」


 というか忍者要素が無いんだが?

 軍隊なんだが?

 ジェイソンによって肉体的限界とモラル破壊を施された狂戦士の軍団なんだが?


 中でも光っているのはやはり山木さんか。


「オオオオオオオオッ!」


 両手に持ったトンファーで次々と魔物を屠っていく。

 橙色に発光する両手。

 ツインテや九条先輩と同じくオーラを放っている。

 中々のスキルレベルなのでは?

 追随する迷彩服の人もいい動きだ。 


 かつて駐屯地で見せていたような暗い感情は感じられない。

 吹っ切れたように、本能のままに、その拳を振るっている。

 頼りになる兄貴って感じだなぁ。


 

『――バァィアイイイイイイイイイイイイイイイイ!!』


 戦場に怪物の咆哮は響く。


 ビリビリと空気を震わせ、皆の体が恐怖に硬直する。

 魂魄から震え上がらせる。

 逆に魔物は鼓舞された。

 おそらくそういったスキルなんだろう。


 正面から進軍してくるのは一際大きなオーク。

 鬼鳴村で戦ったオークと似ている。

 ハイオークって感じかな。

 両手には大きな両手斧を持っている。


「……ちっ」


 手伝わないのか?とジェイソンを見れば「まぁ見ていろ」とサムズアップされた。

 死人がでても知らないぞ?


「交代つ、前は後退っ、後ろは交代っ!」


「ああん?」「なにいってんのさ?」


「いいから代われーー!」


 まだ武器防具は全員分ないようで、適度に隊列変えながら装備の換装も行っている。

 補給もしっかりと行い炎天下でバテないように水分補給もしっかりと。


「うまし! 生き返るねぇ」


「やっば! 水最高!!」


 そういえばあの噴水、さぽから凄い感謝されたな。

 なんか力も湧いてくるとか肌も綺麗になるとか、なんらかの効果のある水のようである。


「シールドッ!!」


 両手斧を構え飛んだハイオーク。

 膨大なエネルギーを蓄えた赤い一撃が決まる。

 弾け飛ぶアスファルトと共に衝撃波が襲い掛かる。

 前面でシールドを構えた屈強な男たちがその手に下半身に力を籠め耐える。

 ぶつかり合う音が響き衝撃波で吹き飛ばされそうになる体を後ろの隊員たちが支える。

 耐えしのぐっ!


「バアアアアアィイ!!」


 憤怒の表情で迫るハイオーク。

 邪魔だといわんばかりに両手斧を振りバリケードを破壊した。

 しかしその隙をついて、忍者たちが放つ。


「――――撃てぇ!」


 筒状の銃器から弾丸が放たれる。

 まるで花火のように大きな音を立て、閃光が辺りを包む。

 

「百雷砲じゃ!」


 HAHAHAHA!と上機嫌なジェイソン。

 風に乗って火薬のにおいが漂ってくる。

 まさか忍者たちはここでも爆弾製造しているんだろうか?


「バァァ……」

  

「効いてるぞ! たたみかけろッ!!」


 四肢に縄をかけ男たちが引っ張る。

 動きを封じたところに怒涛の連撃が繰り返される。

 縄ごと振り回されそうになる男たちが必死に堪え、ついにハイオークが討伐された。


 ジョーカージェイソン抜きで倒すか!


 やるね。



 

 勝利を喜び合う彼らから離れ藤崎市の大型ショッピングモールへ。

 ここはダンディな猫の主人がいる【猫の手】がある。

 『キャメドーの卵』を売っている重要拠点だ。


「おいおい」


 うん。

 ミニオークたちに占拠されてる。

 【猫の手】は無事だろうか……?

 

「む?」


 屋上へと『監禁王の洋館』を使い出た俺はそのまま中へと降りていく。

 襲ってくるミニオークを撃退しながら、2階の店があった場所に赴く。

 店はあるのだが、入り口に猫の手の文様が浮かんでいる。

 まるで結界のようにミニオークたちの侵入を拒んでいる。


「【千棘万化インフィニティヴィエティ】」

 

 静かにミニオークたちを狙撃し店へと近づくが、肉球の結界は解けない。

 魔物だけでなく俺も入店することはできなかった。


「卵……」


 卵だけじゃない。

 これからラインナップ更新をしていけば肉だって手に入るかもしれないのに……。

 とりあえず大型ショッピングモール内を掃討してみようか。

 『ブラックホーンフレイ』を手に駆ける。

 

「駆逐する」


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る