二百三十三話:……木実ちゃん?
異界デート三日目。
「水牢!」
木実ちゃんが魔法を覚えた。
蛇型の魔物を水の牢獄に捕える。
水で満たされた牢獄で暴れる蛇型の魔物。
なかなか残酷な倒し方だ。
「キシャア!!」
半人半蛇。
上半身は女性であり下半身は蛇の魔物が激怒している。
眷属である蛇型の魔物を拷問しているからだろうか?
(ラミアかな?)
女マーマンに比べれば美形であるが、体色は薄い緑で藻のような長い髪は生理的に無理だ。 女性の美しさは髪と肌から第一印象を受ける。 つまり最悪に気持ち悪い。
激怒する様子を訴える度、その長い髪で隠された胸がはだける。
「キシャ!」
「ぬっ!」
速ッ!
ジグザグに動き近寄ったラミアは一瞬止まった。
直後、高速の一撃を放つ。
緩急をつけたから速く感じたのもあるが、単純に速い。
蛇が噛みつく時のように、蛇の下半身溜めた時はゾッとした。
鋭い爪の一撃を防ぐ。
『エポノセロス』とぶつかり激しい金属音が響く。
「キシャ!」
ヒットアンドウェイ!
初速が速いな。
逆に言えば連撃は苦手なようだ。
魚頭じゃ手も足も出ずに殺されるだろう。
ひょっとすると魚頭を狩りに来たのかもしれない。
「水縛!」
ラミアが溜めに入った瞬間。
周囲の沼地から水の布が纏わりつく。
ナイスですよ!
「シャアッ!?」
袈裟斬り。
銀閃が女の体を斜めに切り裂く。
蛇の下半身がのたうつ様に蠢くがやがて静かになった。
上半身は人に近いとはいえ問題なく斬れるな。
殺気が凄いからだろう。
命乞いされたら嫌だからしないでね?
「昨日の羽衣のおかげみたいです!」
素晴らしい。
詠唱していないけど、魔法ではないのかな?
というか木実ちゃんの体を水色の輝きが纏っている。
濡れた羽衣のようで光を反射する水面のようにキラキラとしていた。
「あ」
水牢に閉じ込めていた蛇も死んだようだ。
内側で逃げようと暴れていたけど出ることは最後まで叶わなかった。
どの程度の強度なんだろうか。
シャム太たちに解体は任せる。
人形たちが人に似た魔物を搔っ捌く姿はなかなかに狂気を感じる。
魔石を取り出すと魂魄ポイントを獲得し、魔物は煙となって消えていく。
あいかわらず不思議な光景である。
「あっちからいっぱい気配を感じるよ!」
うん。
俺の気配察知でも反応してるね。
無数の反応が一カ所に固まっている。
「う……」
少し窪んだ沼地。
まるで生き物のように地面が動いている、と思ったら蛇の集合体だった。
トラウマになるレベルの蛇の集合体だ。
そういう魔物なのか?と疑ってしまう。
さっきの蛇たちが大量にいるだけだろう。
冬眠から目覚めた蛇が一斉に巣穴から出てきたような。
何匹か捕まえて爺ように蛇酒でも作ろうかな?
「クセェ」
「臭いですね……」
ちょっと近づいたら独特の臭いが漂ってくる。
爬虫類の臭い。
蛇たちは体を擦りつけ合っている。
もうダメ。
「『デックイグニス』」
「ええ!?」
開戦の合図を待たず、遠距離から問答無用で攻撃を仕掛ける。
大量の標的を狙ったせいか、大きな炎獣が一体突っ走っていく。
異変を感じた蛇たちは首を高くあげこちらを見ていた。
無数のつぶらな瞳がこちらを見ていた。
纏まってうごうごしている姿は気持ちが悪いが、単体で見ると意外と可愛い顔をしており愛嬌もある。
ゴオオオッ!!
特大の炎柱が可愛らしい顔をした蛇たちを焼き払った。
空へと灼熱の炎が赤く放たれた。
「「「キシャア!!」」」
ブチ怒のラミアが3体。
それに少し大きな体躯の白いラミアを姿を現す。
白い髪の中から山姥のような般若のような顔が睨んでくる。
まるで大切に育てていた我が子を一瞬で焼き払われた母親のような表情だ。
『ション! キシェエア! キッキシェア!!』
何か喋っている。
だが分からない通じない理解したくない。
白いラミアの手に持っている武器が紫色の輝きを放った。
「水牢!」
突進してくる三体のラミアのうち一体を木実ちゃんの魔法が捕らえる。
周囲の水が意志を持ったように囲む様子に捕らわれたラミアは驚愕の表情を見せた。
構わずに突っ込んでくる残り二体。
『ニャァ』
ノズの肉球弾が一体を足止めする。
残りの一体。
緩急をつけて高速の一撃を繰り出してくるが、冷静に対処する。
先ほど見た攻撃だし、速いが直線的でフェイントもないので大楯で合わせる。
ガン!と音を立て仰け反るラミア。
「キシャ!?」
体を戻すのが遅れるラミアを狙いすましたようにシャム太の双剣が襲う。
空中で体を横回転させながら乱舞。
女体部分が切り刻まれた。
いい動きをするね。
だてに魔石をちょろまかしていることだけはあるな!
『キルギア!』
白いラミアから魔法が発せられた。
その背に無数の水の矛を作り出していた。
沼地の水のように濁った水の矛。
禍々しい紫紺の矛がこちらを狙っている。
木実ちゃんを守るように斜線を切るが、数が多い。
『エポノセロス』を握る手に力が入る。
「任せて!」
背後から力強い声。
「【水の理】ッ! ――――水爆ッッ!!」
解放される力。
世界を塗り替えるように、禍々しい紫紺の矛は清純な青き球体へと姿を変える。
混ざりあい弧を描く。
「シャ――――」
異変を感じ振り返った白いラミアを水の爆発が襲った。
轟音と共に水飛沫が降ってくる。
「「……」」
もの凄い威力の魔法だが、沼地では使用禁止でお願いします。
泥だらけの二人と二体は残りのラミアを倒してお風呂に向かうのであった。
あと白いラミアのドロップアイテムで水属性の魔結晶をゲットした。
なかなか強い敵だったみたいだ。 もしくはレアな敵か。
なんにせよお嬢様学校の領地化まで後一つか。
残りは炎の魔結晶が欲しいな。
◇◆◇
久しぶりに東雲東高校に帰ってくると、なにやら物々しい様子だ。
「神社にいってきますね!」
木実ちゃんは神社へと向かっていった。
嬉しそうというか、楽しみな感じ。
ジョブチェンジだろうか?
「鬼頭君!」
いつも忙しそうなブラック領主様が走って来た。
「忍者さんたちに手紙をお願いできないかな?」
「うむ?」
「敵の情報と猫の手の防具の情報なんだ、できれば早めにお願いしたいんだけど……」
その情報は俺も知りたいのだけど、中見ていいのかな?
「もちろんだよ!」
ならば承ろう。
なんだかみんな緊張感があるのは新しい敵が出たからか。
武器の整備やポーションの準備など忙しそうだ。
届け物をする前に木実ちゃんにも言っておかないとな。
しかし神社へと歩を進めていくと、大変なことになっていた。
「奇跡じゃぁ……」
「
老人たちが地面に手を付き涙を流している。
その先には木実ちゃん。
……木実ちゃん?
「ど、どうしよう、シンクくん……」
神社で老人たちの信仰を集めるのは――――透き通るような青銀の髪の女神様であった。
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