二百三十二話:浮いている
視覚を奪われたことにより、別の器官が研ぎ澄まされる。
「風が気持ちいいね」
爽やかな緑の風は顔を撫でる。
隣で入浴している木実ちゃんの存在を強く感じる。
生命力というのか、オーラのようなモノがよくわかった。
気配察知を取っている影響だろうか?
第六感が研ぎ澄まされていた。
「お風呂、やっぱりいいね……。 みんなが頑張ってるのに申し訳ないなぁ」
心眼。
湯船に浮かぶ二つの双丘を知覚する。
大きい。
「わわ?」
シャム太が桶に飲み物を乗せて持ってきてくれた。
お風呂に入りながら飲むドリンクは最高である。
できる人形だ。
「ありがとう、シャム太くん」
甘い香り。
ジュースだろうか?
甘い物好きの木実ちゃんへのチョイスを良く解ってるね。
カルピスみたいなマンゴーのような微炭酸水。
ほのかな酒精を感じる。
ネペンデス君の実を使ったお酒を薄めたのだろう。
あのままだと濃いからね。
「美味しい」
「うむ」
昼間から長風呂で飲む酒は格別だね。
できれば琥珀色のヤツがほしい。
ジェイソンからも辛口を要求されてたし、琥珀色のも作ろうかしら。
「ん!?」
湯船の中で俺の体には膜が出来ていた。
水風呂だと分かりやすい。 羽衣なんて呼ばれる現象だ。
温度境界層を突破してきた柔らかなモノを感じる。
「ん~~、ずっと入ってたいや」
だ、大胆では!?
先ほどまでは拳一つ分くらいまで離れていたのに。
今、俺の三角筋に柔らかなふくらみが当たっている。
服越しではたまに玉木さんと張り合ってか押し付けられたこともある。
しかし、今は裸体ですぞ。
生のぷにぷにがカチカチにぷにぷにですよ?
「……とっちゃおう、かな?」
木実ちゃんがこちらを向いて見ていたのが分かる。
何を取っちゃうんです?
体を洗ってから何も巻いていないのは心眼で確認済みですよ?
あまりに近い位置からの
【不撓不屈】さん仕事してくださいお願いします。
飲み物からではない、甘い香りが鼻孔を擽る。 そのままダイレクトに脳をシェイクする。 脳震盪にも似た感覚が意識を朦朧とさせ思考を鈍らせる。
「あっ、だえだよぉ?」
広い湯船を狭く使っている。
彼女の肩に腕を回す。
自然と彼女の小さな体は俺に引き寄せられる。
柔らかなふくらみは流れるように俺の胸筋の上に乗る。
「もぅ、シンクきゅん」
極楽湯。
ビクビクと胸筋を動かすと湯船が大きく波打つ。
「んんっ」
手は出してないですよ?
「もぅ♡」
「んほぅ!?」
痺れるっ!?
お返しとばかりに一部を握られたのだが、ピンクの稲妻が走る。
下半身から脊髄を通り脳天へと直撃しぱらぱらと花火が打ちあがる。
思わず声が漏れた。
我慢だ。
辛い特訓を思い出せ!
……よわよわ猫さんを思い出しただけだった。
「シンクくぅん」
だ、大胆ではっ!?
たわわなふくらみの圧がっ。
彼女の手の動きに合わせ、何度も打ち上げられるピンク色の花火。
万事休す。
山火事は避けられない。 と思ったのだが、静かな寝息が聞こえてきた。
「すぅ……」
鎖骨辺りに顔を預け寝てしまった……。
そういえば木実ちゃんお酒弱いんだったか。
お風呂で体が温まってるから余計に回るのが早い。
戦闘の疲れもあっただろうしね。
「ん!?」
浮いている。
まるで聖女が降臨したように湯船に浮かんでいる。
これが神秘か。
「にゃら……ふへへ……」
俺は彼女を起こさないようにお姫様抱っこで運ぶ。
のぼせると怖いからね、風通し良いところで寝かせてあげよう。
もちろん紳士なので目隠ししたままですよ。
もう心眼スキルはマスターした。
うん普通にタオルが濡れて透け始めてるだけなんだが。
「……」
目隠しを外す。
幸せそうに眠る天使の寝顔に癒されました。
◇◆◇
『異界迷宮:ダアゴン沼地』二日目。
「やぁあ!」
探検家のような服装にレザー装備を身に着ける木実ちゃん。
昨日の服はボロボロにされてしまったので、ガチャ産のコスチューム装備だ。
たぶん能力は無い。
「ギコッ!?」
振るったメイスが魚頭の脳天をへこませる。
『エポノセロス』による仲間への能力上昇はあるが、その動きの良さは木実ちゃんの素の力。
押さえつけた野犬を殺すのに何度もテニスラケットを振っていた彼女はもういない。
通常よりも強い魚頭を相手に善戦している。
「爪が怖いね」
太く鋭い爪。
当たれば防具を破り鮮血を見舞わせるだろう。
心配でハラハラするよ。
ポーションを片手にいつでも助けられるように構えている。
うん、過保護すぎるな。 でも仕方ない、心配なんだもの。
「どっちに進もう?」
迷路のように枝分かれする沼地。
見分けるヒントは臭いと植物。
沼地独特の臭さはどこも一緒だが、昨日のぬるぬる植物がいたほうからは爽やかな香りがする。 木も背の高い物が多い。
魚頭の集落側は木の高さは低く、沼地も浅い。 それにネペンデス君の葉も多くみられる。 共生しているのだろう。
昨日はフラワーパークを楽しんだので、今日はトレジャーハントを楽しもう。
別名『魚頭狩り殺戮マックス』だ。
『ブラックホーンシャドウ』に乗ったまま進んでいくと開けた場所にテーマパークが現れる。
斥候でもいたのか、こちらを待ち構えている。
「な、なんだかすごい怒ってるね?」
ビキニアーマーを着こんだ女マーマンは激高しその肥え太った贅肉を揺らしている。
なぜみんなビキニアーマーなんだ?
部族の決まりでもあるのだろうか。
目が汚される。
『ギェ、ギェルトム!』
女マーマンから放たれた赤黒いオーラが魚頭たちを包み込む。
凶悪な爪は強化され暗い輝きを放つ。
「っ……」
魚頭たちの群れが一斉に向かってくる。
その瞳は俺の後ろの木実ちゃんに向いている。
股間を膨らませた雑魚どもが欲望に満ちたまん丸の瞳をギラつかせていた。
「死ね」
抜き放つのは『ブラックホーンフレイ』。
長剣の宝玉も苛立つように漆黒のオーラを滾らせている。
「『デックイグニス』」
SPは満タンだ。
気にせずぶっ放せ。
視界が広がり敵を補足する。
振るった長剣は炎獣を生む。
「わぁ!?」
魔物に喰らいつくたび、炎柱が天へと伸びる。
ボオッ!と、何度も繰り返された。
魔物を焼き尽くしているのか脳内にアナウンスが響く。
魔石は無事だろうか……?
「……」
沼地のおかげで火は燃え広がらずに済んだ。
魔石も無事なようだ。
ドロップアイテムは落ちたり落ちなかったり焦げてたり。
その中で傷一つ無く無事なのは真っ赤なビキニアーマーだ。
防火耐性でもあるんだろうか……。
「ぼ、防御力高いのかな……?」
紐の部分は金のチェーンであり、大事な部分を守るのは赤い金属。
あまりにも局所的な防具である。
興味深そうに装備品を手にする木実ちゃん。
うん、ぜったい零れ落ちちゃうから装備できないよ。
俺が戦闘不能になるからやめてください。
「あ! 宝箱!」
宝箱って凄いテンション上がるよね。
トレジャーハントの醍醐味でしょ。
女マーマンの住処であろう気味の悪い天幕にそれはあった。
骨で出来た宝箱。
前に見たのと同じようだ。
「開けてみる?」
「うむ」
ジェスチャーで下がるように木実ちゃんに指示を出す。
前回はトラップが仕掛けられていたからな。
念のためエポノセロスを装備し木実ちゃんをガード。
「きゃっ!?」
やっぱり。
今回は宝箱ごと飛びかかってきた。
まるで大口を開けたワニだ。
骨の鋭い歯が襲い掛かってくる。
「だ、大丈夫?」
ミミックのように実際に生きているわけではない。
ただのトラップで普通に上と下を掴んで防いだ。
この程度の攻撃で『ブラックホーンナイト』の装甲は貫けないしね。
「わあっ、凄いね!」
宝箱には宝石の山である。
原石みたいのも有るし、加工された装飾品も多い。
女マーマンもジャラジャラつけてたし、趣味なんだろうな。
ダアゴンからの贈り物だろうか。
まぁぶっ殺して奪えば誰からの物でも関係ない。
それがトレジャーハンターである。
どうせ異界だろうし、盗品でも別にね、面倒ごとに巻き込まれたりなんてないはず……。
「綺麗……あっ!?」
木実ちゃんが手に取ったのは薄い羽衣だ。
キラキラと透明の輝きをしていたそれは、彼女が持つと神聖な青へと変わった。
透明度はそのままだが、輝きに青色が混じる。
彼女に溶け込むように消えていく。
「き、消えちゃいました……」
消えたというか、ガチャ産アイテムを手にした時のような感じだったな。
彼女に取り込まれたのではないだろうか?
神聖な感じだったので悪い物ではない、と思いたい。
「ん?」
「どうかしました?」
彼女の瞳の中が輝いている。
「綺麗だ」
「はひ!?」
いや、木実ちゃんが輝いているのは元からか。
真っ赤になった木実ちゃんはクネクネしている。
残りのお宝を強奪して、更なるお宝を目指し、トレジャーハントを再開する。
「もう、シンクくんっ不意打ちはずるいです!」
二日目のデートは順調に進んでいくのだった。
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