二百三十一話:迫る脅威
東雲東高校に設置された神社への参拝は『
『信仰心を捧げよ、さすれば聖女の加護は与えられん』
と、謎ワードを掲げて毎日宮司である木実の元に世間話にやってくる。
どこからか調達したお菓子を手に持って。
「アマミク様がおらんのぉ?」
「デェトじゃそうな」
「なんと。 なら赤飯炊かないとじゃの!」
木実がいないときはお賽銭代わりにカゴにお菓子を入れていく。
採れたてのキュウリを入れていくのも忘れない。
「ブロッコリー、それにちと遅いが枝豆も植えておきたいの」
「あの畑なら大丈夫じゃろ」
領地機能の農地指定。
その場所では順調に健やかに作物が育っている。 それは常識よりもかなりスピーディだ。
「今は住居作りだったかな?」
「ああ。 慎之介君を手伝うとしようか」
防衛と食料生産に領地機能のリソースをほとんど使用してしまい、住居は自分たちで造るしかない。 魔石と素材を使用することで構造材は作り出すことができる。 後は組み立てるのだが、かなりの重労働だ。 元ある住居を使えば良いと思うのだが、避難してきた人数と領地内の住居の数は合わない。 のちのちの領地機能を考えれば『住居』として造るほかにない。 それに学校内での大勢での寝泊まりはストレスが溜まるものである。 長期的に考えれば『住居』の重要性は高い。
炎天下の中、『
「ありがとうございます! こちらにお願いします!」
指揮をしているのは女教師の新垣先生だ。
何かを吹っ切るように仕事に精を出している。
麦わら帽子を被りバインダーを片手にメガホンを持っていた。
「まだ整地が終わってませんので、資材はこちらに!」
「ほいほい」
住居を建てるには基礎工事が必要だ。
ショベルカーは動かないのですべて手作業である。 掘り返した土もダンプカーがないので人力で運び出す。
途方もない作業。
他にもやることは沢山あるので少しずつ進めていくしかない。
「ほほ、こりゃ冬までには終わらんの」
日々の炊事洗濯、水を川に汲みに行くことから始め手洗いでの洗濯も重労働だ。
食事は大勢の分を一気に作ることで燃料の消費を抑える。 できるだけ火を使わないように節約しながら献立を考えるのも一苦労だった。
魔物への警戒はもちろん怠れない、最重要項目である。
朝昼晩とメンバーを変えながら周辺を巡回していく。
「外周班はまだ帰らないか?」
「ああ、遅いな……」
外周班は道路整備を担当している者たちだ。
夏なので少し目を離すとすぐに緑が生えてくる。
これまでの逆襲のように生き生きと緑が生えてくるのだ。
東雲東高校から離れた場所では放置車両が緑のオブジェクトになっている光景がそこかしこで見られた。
また『クラフトワークス』と『神鳴館女学院付属高校』に向けての道路整備も担当している。 『クラフトワークス』側からも人材は派遣されており合同作業だ。
「大変だ!」
慌てた様子で若い男が走ってくる。
「新手が、犬側から来たぞ! オークたちだ!」
藤崎市を侵略するオークたち。
その侵攻を警戒し藤崎大橋を見張っていたが、野犬側からの襲来に虚を突かれる。
藤崎市から東雲市方面に来るにはたしかに藤崎大橋以外にも道はある。
ただ今は野犬の魔物の縄張りだ。 そこを通過しオークたちがやってきたということになる。
「……忙しくなりそうじゃな」
できることならゆっくりと畑仕事をしたいと願う『
「なんだコレは……」
そう呟きを漏らしたのは、東雲東高校野球部部長の『反町 勉』だ。
オーク襲来の報を受け急ぎ向かった先、魔物同士の激しい戦いが繰り広げられていた。
反町はその巨漢をワイルドドッグシリーズ装備で身を包み、手には金砕棒を持っている。
まるで蛮族のような出で立ちの男は建物の影に身を潜めていた。
「アレは、やばい」
対峙する両者のトップ。
まるで指揮官のように手下を戦わせあっている。
野犬側を指揮するのは炎の魔人。
『獄炎のケルベロス支配地域』で神駆が出会ったモノと同一かは不明だが、圧倒的な強者のオーラを放っている。
ちなみに神駆が報告をしていないので反町はその存在を初めて認識した。
対するオーク側の指揮官。
(猿人?)
反町の両腕をへし折った魚頭の怪物に姿形は似ている。
筋骨隆々であるがアスリートのようなしなやかさもありそうな体躯。
異なるのは魚頭ではなく猿のような顔をしている。
猪よりも猿顔の怪物は武装しており両手には黄金のガントレットを嵌めていた。
バチバチと紫電を放っている。
遠めでもわかる。
アレは危険な物だと。
「長鼻以上の怪物……」
反町が思い返すのは以前に東雲東高校を襲ってきた長鼻の怪物『処刑人』ザンギ。
彼の背にはザンギのドロップアイテムであるギザギザの骨剣があった。
彼以外に誰も使いこなせない為所持している。
剣の形をしてはいるが、この武器を使いこなすのに必要なのは純粋な膂力。
ぶっ叩き叩き伏せる。 耐える相手がいれば思いっきり引っ張ることでギザギザの刃が敵の肉を喰らう。 実際にザンギにやられた反町はその有用性を知っている。
なにより肉厚でちょっとやそっとでは壊れない耐久力が良いと気に入っている。
「――――っ!?」
轟音と熱波が離れた反町の元までやってくる。
炎の魔人と猿人が激突した。
余波で吹き飛ぶ魔物を無視しして熾烈な縄張り争いが始まった。
果たして、あの戦いに巻き込まれたら東雲東高校は抵抗できるだろうか?
(無理だ!)
だがやるしかない。
情報を持ち帰った反町は服部領主たちと共に作戦会議に入るのだった。
◇◆◇
白鳩から伝わる光景。
「なにかしら?」
紫雲が広がるアンデットの支配地域の中。
ぽっかりと漆黒の穴が出来ていた。
数日前までは無かったはずだ。
周辺のアンデットの集まりから煙のような靄が集まってきている。
「もう少し近づいて、ピヨちゃん」
白鳩はゆっくりと下降していく。
「蠢いている……?」
漆黒の穴がゆらゆらと動いている。
「もう少し……」
漆黒の穴。
いや……。
「あっ」
パチンと白鳩とのリンクが途切れる。
「もう一度お願い、ピヨちゃん」
ハクアの影から姿を現した白鳩。
『ピヨ』と一言鳴いて外へと飛んでいく。
「……鼻血、出てるわよ」
「ありがとう、アマネちゃん」
渡されたティッシュをくるくると巻いて鼻に突っ込んだ姿は、深窓の令嬢には程遠い。
「なにがあったの?」
「わからないよ。 だけど、攻撃を受けたのは確かだね」
「なにか見えたんじゃないの?」
「うん……黒い穴? でも……動いていたような感じだったかな」
「なにそれ……?」
穴が動く?
どういうことかわからず苛立ってしまうアマネ。
奥歯を噛み締め外へと出る。
相変わらず世界の半分の空は闇に覆われている。
徐々に迫ってきている。
そんな感じがしてアマネの胸に焦りを生ませる。
またダメなのか?と。
幾度もの拠点を潰された彼女の胸に不安が広がった。
「はぁっ!」
小さな体を目一杯に使って黄金のハンマーを振るう。
ゴォォっと風の音は響く。
不安を払うように、何度も響かせる。
「はあっ、はっ、絶対、守るわ。 何が来ても、絶対に!」
小さな女戦士は黄金のハンマーへと誓いを立てるのだった。
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