二百二十九話:初デートは異世界へ


 初デートは異世界へ。


「空気が……変わりました」


 『異界迷宮:ダアゴン沼地』。

 魚頭の魔王を倒したせいでおかしくなってしまったエリアだ。

 魔物の姿は無くなったのに謎のオブジェクトや祭壇などはそのままで、先に進むにつれてジャングルのような沼地になっていく。

 元々は住宅街だったはずなのに。

 そこかしこに深緑色に光る鉱石が存在している。

 肌で感じる不思議な空気。

 おそらく魔力に関する何か。 ファンタジー的に言えば魔素とかだろうか。


「ジャングルみたいです……。」


 『ブラックホーンシャドウ』に二人乗りで進んでいく。

 足元は沼地が続いている。

 進んでいくと底の深い部分もあり魚頭たちが奇襲を仕掛けてくる。 

 空は怪しく逢魔が時のように染まり紫の雷光は雲の隙間から見えている。

 不安なのか、木実ちゃんの腰に回した腕の力が強くなった。

 

「何か来るよっ!」


 木実ちゃんの気配察知に反応有り。

 シャム太とノズも荷台で警戒態勢を取る。 異界迷宮に入ってから勝手に出現していたのだけど、先ほどまでは人形のようにおとなしかった。 まるでデートを邪魔しないように気を使っているように。


 激しい水しぶきと共に魔物が姿を現す。

 まるでロケットのように鋭い爪を合わせて突撃してくる魚頭の怪物。

 かつて東雲東高校を襲撃してきた奴らよりも鋭く太い爪をもっている。

 異界迷宮のほうが地球よりも魔物が強化されている。

 むしろこちらが本来の魔物の力なのかもしれない。


「わっ!?」


 黒と銀の剣閃が走る。 

 黒のコートをはためかせ、シャム太が颯爽と魔物を倒した。

 イケメンすぎんか?


「凄いですっシャム太さん!」


「……」


 おかしい。

 俺の好感度アップタイムが。

 新装備ではしゃぐシャム太がナイトのように木実ちゃんを守っている。

 いやおかしい。

 そこ俺のポジションだから。

 なんで俺運転手なんだよ。

 まぁいつでも串刺しにできるように【千棘万化インフィニティヴィエティ】で竹串を待機させているのだが。

 『異界迷宮:ダアゴン沼地』では油断できない。

 シャム太とノズもここだと普段よりも動きが良いようだ。


「消えないんですね?」


 シャム太とノズのスプラッタ解体ショーを眺める。

 魔石を取り出すといつものように消えていく。 ドロップアイテムは残ったり残らなかったり。 

 だが一番の利点は魂魄ポイントが共有されること。


「何もしてないのに、入ってきちゃいました……」


 木実ちゃんはいるだけで精神的癒し効果があるので問題ないです。

 ほら姫を守るナイト的な? どっしりと構えて爺やっておしましい!と命令してくれればいいのだよ。 ……なんか違うな。

 ただあまり良くないだろう。

 俺はいいけど、木実ちゃんてきに良くないのであれば良くない。

 男ならばそこも改善せねば。


 そういえば。


 【ガチャLv.5】になったってことはスキルガチャが解放されたのか?

 デートプランに悩み過ぎてまだ見てなかった。

 1回千魂魄とかいうぶっ飛んだガチャなんだが、ちょっと仕様が気になる。

 もしかしたらスキルオーブとかブックみたいなのだったら、木実ちゃんにも渡せるかも?

 要検証だな。

 なんにせよ魂魄ポイントが足りぬ。


「わぁ! 綺麗っ!」


 ジャングルクルーズは続きいくつかの道に分かれていく。

 水草の道を通り、マングローブの下のようなアーチを抜けさらに奥へと進んでいく。 迷路のように入り組んだ道を進み、見えてきたのは綺麗な花の咲くエリアだった。

 木々の隙間から光が漏れ、湿度の高さからか幻想的な光景が浮かぶ。

 色とりどりの花、地球では見たことのないような色彩も多い。


「フラワーパークみたいですね!」


「うむ」


 異界迷宮の入り口当たりの集落は大体潰した。

 先ほどのように数匹程度は巡回しているようだが、奥まで進まなければ比較的安全だろう。 未知の部分もあり油断はしないけど。


「あ、高校で咲いているのと一緒だね」


 ネペンデス君もここ産だからね。


「他のもあっちでも咲くのかな?」

  

 ガチャ産のプランターを使えば咲くと思う。

 使わないと難しいかもしれないね。

 

「綺麗……」


 木から垂れさがる宝石のような青い花。

 逆さに咲く花とは面白い。

 木実ちゃんに良く似合いそうな色だ。 

 気に入ってるみたいだし、神社の辺りで栽培しようかな?


「む?」


 花を眺めながら進んでいく。

 種が取れないかなと探していると、少し開けた場所に出た。

 人形2体が前に躍り出る。

 気配察知には反応はないが、人形たちは何かを感じ取ったみたいだ。


「花……?」


 綺麗な花だ。

 青と紫のグラデーションを持つ透明に近い花。 光の加減で色彩が変わる。

 あまりに幻想的な一輪の花に目を奪われていると、周囲の光景が変化していく。


 【不撓不屈】が発動したのがわかる。

 体感時間が緩くなる。 周りがスローモーションになったように感じる。 そして視野も広く幻想に騙されない精神力を発揮する。


「っ!?」


 綺麗な花の後ろ。

 おぞましい怪物花が姿を現す。

 いや、最初からいたのか。

 

「ひゃ!?」


 魅了されている木実ちゃんを抱きかかえ、後方へ跳躍。

 彼女のいた地面から根が飛び出す。

 その根の先端はギザギザの歯を持っていた。

 ウネウネとくねらせ消えた獲物を探しているようだ。

 危うく木実ちゃんが触手プレイされるところだった。


 ネペンデス君の親戚かな?


 後方で姿を見せたのはずいぶんと禍々しい植物の怪物だった。

 ぽっかりと開いた大きな口をもつ星型の花を中心に、いくつもの肉厚な花弁が重なっている。 ずるずるとこちらに近寄ってくる。 移動もできるのか。


 迫る触手をシャム太の双剣が迎撃する。

 ノズの肉球弾は放たれるが本体に直撃する前に触手に落とされる。

 青い花を纏った蔓が鞭のように振るわれシャム太を襲う。


「あっ!?」


 双剣で迎え撃ったシャム太に液体が降り注ぐ。

 カタンと手に持っていた剣が人形の手から滑り落ちた。

 マズイな……酸とかか?


「助けないと!」


 落ちた剣を拾おうとするが持ち上がらない。

 力が入らない?

 いや、ひょっとして……。


「わひゃ!?」


 助けに入ろうと近寄った木実ちゃんがこけてしまった。

 テニス部で運動神経も結構いい木実ちゃんには珍しい。

 うん、地面が滑ったんだな。

 いつのまにか触手植物の罠に地面が埋まっている。


「気を付けてっ、シンクくん! 地面がべとべとするよっ」


 触手にベトベト粘液とは恐れ入る。

 流石は異界迷宮の敵か!

 べとべとでヌルヌル。

 油みたいだな。

 引火してもいやなので『ブラックホーンフレイ』の必殺技はやめておこう。

 シャム太が捕まって食べられそうなので助けに入りますかね。


「【千棘万化インフィニティヴィエティ】ッ!」


 バッと手を振りながら竹串を宙に投げる。

 魔王のスキル【千棘万化インフィニティヴィエティ】を発動させると、竹串は魔力によってコーティングされ魔棘に変化する。 高速で回転しながら、植物の怪物に飛んでいく。

 

「む!」


 貫けない。

 肉厚の葉でガードされる。

 いや、滑ってる?

 肉厚の葉の表面にヌルヌルした光沢が見える。 そのせいで貫く前に滑ってしまうようだ。


 ならばと、棘のイメージを変化。

 鋭いドリルから、面で捕らえる剣山をイメージ。

 押しつぶす!


『イィィィ……』


 小さな断末魔な悲鳴を上げ倒れた怪物花。

 ぼとぼとと周囲の木から青い花が落ちてくる。

 べったべたに地面がヌルヌルになっていく。

 凄い油の量だ。

 植物油でつかえないだろうか?

 そんなことを考えていると……。


「はわわ!? 洋服だけ溶けて……!?」


「……」


 どんなエロゲ怪物花だよ!


 急いで魔石とドロップアイテムを回収し『監禁王の洋館』に避難する。

 異界迷宮でも問題なく使えることに安堵したのも束の間、マーマンシリーズ装備とインナーに着ていた洋服がボロボロに溶けてしまった木実ちゃん。

 必死に洋服が落ちないように頑張っている。

 肌に何かあっては困ると、急いで大浴場へと連れていくのだった。





――――――――――――


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今日夜から出張で明日は飲み会で死んでいるので、明日はたぶんおやすみです('ω')……


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